高齢者の家に潜む危険箇所チェックリスト|部屋ごとに見るポイント

バリアフリーリフォームの基礎知識

久しぶりに実家へ帰ると、親の動きが前より重くなっていることに気づく方は多いものです。ただ、家のどこが危ないのかと聞いても、本人は「大丈夫、慣れているから」としか答えてくれません。

高齢になってからの転倒は骨折や寝たきりのきっかけになりやすく、しかもその多くは外出先ではなく住み慣れた家の中で起きています。危ない場所は本人にとって毎日見ている景色なので、住んでいる側からはかえって見えなくなるものです。

そこで、玄関から台所まで部屋ごとに見るところと、本人が口にしないサインの拾い方、帰省中の短い時間で回る順番までをまとめました。実家に帰ったときの点検の手がかりとして役立ててください。

高齢者の事故が起きている場所

事故が起きる場所には偏りがあり、公的なデータからもその傾向が読み取れます。ここでは、高齢者の事故がどこで何件くらい起きているのかを見ていきます。

「ころぶ」事故は住宅の屋内に集中する

高齢者が転ぶのは、出かけた先よりも住まいの中が圧倒的に多くなっています。東京消防庁の救急搬送データからみる高齢者の事故では、令和6年に「ころぶ」事故で救急搬送された高齢者のうち、住宅等居住場所で起きたものが42,180人と最も多く、そのうち屋内が39,053人と9割以上を占めたことが示されています。同じ資料では、「ころぶ」と「落ちる」の2つで高齢者の事故の大半を占めることも示されました。

親の転倒を心配するなら、まず見るべきは外出先ではなく家の中です。屋内で起きるということは、毎日通る場所に危ないところが残ったままだという意味になります。帰省したときに「気をつけてね」と声をかけるより、家の中を実際に歩いて見て回るほうが確実でしょう。まずは親が一日のうちに何度も往復する場所から目を向けてみてください。

居室と階段で事故が多い

同じ屋内でも、事故の件数は部屋によってかなり偏ります。東京消防庁の資料では、令和6年に「ころぶ」事故が起きた場所は居室・寝室等が29,783人で最多、「落ちる」事故の原因では階段が4,240人で最多と示されました。居室は過ごす時間がいちばん長く、階段は一度足を踏み外すと下まで落ちてしまう場所にあたります。

消費者庁の令和5年版消費者白書のコラムでも、65歳以上の800人に自宅でけが等を経験した場所をたずねたところ、階段が最も多く、風呂場や脱衣所、洗面所、トイレが次に多いと示されています。医療機関にかからなかった軽いけがまで含めた回答なので、救急搬送のデータより手前の「ひやり」が拾われた数字です。実家を点検するときは、居室と階段、それに水まわりから先に見てください。

浴槽の事故は重い結果になりやすい

件数の多さとは別に、結果の重さで先に見ておきたいのが浴室です。東京消防庁の資料では、令和6年に「おぼれる」事故で救急搬送された高齢者のうち住宅等居住場所が9割以上を占め、その多くが浴槽で起きたと示されました。令和2年から令和6年までの5年間では、「おぼれる」事故の98.6%が入院を要する中等症以上と診断されています。

浴室は転ぶ場所であると同時に、溺れる場所でもあります。冬場は暖かい居間と寒い脱衣所の温度差で血圧が大きく動き、湯につかった瞬間に意識が遠のくきっかけにもなります。浴室を点検するときは、床の滑りやまたぎの高さだけでなく、脱衣所の寒さや湯温、それに一人で入浴する時間帯まで確かめておきましょう。

本人が口にしないサイン

親は不便を感じていても、心配をかけまいとして自分からは言わないものです。ここでは、家に残った痕跡や暮らしの変化から、歩きの不安を読み取る方法を説明します。

壁や家具に手あとが残っている

廊下や階段の壁を、腰から胸くらいの高さで横から見てみてください。よく通る区間の壁紙に、手のひらの形の黒ずみやこすれた汚れが帯のように続いていたら、歩くときに壁へ手をついて体を支えている証拠になります。本人は「掃除が行き届かないだけ」と言うでしょう。ただ、汚れの位置が一定の高さでまっすぐ伸びているなら、それは支えを求めて置かれた手の跡です。

家具の角だけ塗装がはげている、柱の同じ場所に手あかが濃く残っているといった偏りも同じサインにあたります。壁の汚れは、本人が言わない「ここで支えが要る」という申告です。帯が続いている区間は、手すりを付ければそのまま歩きが安定する区間でもあります。写真を撮り、汚れがどこで始まりどこで終わるかを控えておいてください。

家具づたいに歩いている

点検のあいだ、親が家の中を歩く様子を後ろから一度だけ眺めてみましょう。テーブルの縁に手を置き、次はソファの背もたれ、その先は壁と、支えるものを切らさずに進んでいたら、自分の脚だけでは不安があるということです。本人に自覚はなく、たずねても「家の中は慣れているから平気」と答えるでしょう。

見るときは、支えが途切れる区間がどこかを覚えておいてください。家具づたいの歩きは、何も置いていない廊下の真ん中や、玄関の土間、洗面所の前でぷつりと切れます。手が離れたその数歩こそが転びやすい場所なので、区間ごと写真に残しておいてください。歩き方そのものへの手当ては転倒予防にまとめてあるので、点検の段階では場所を書き留めるだけで足ります。

使わなくなった部屋がある

実家に着いたら、雨戸が閉まったままの部屋や、空気がこもっている部屋がないか見てください。二階の寝室を使わず一階の居間で寝起きしている、庭に出なくなった、湯船につからずシャワーだけで済ませている。こうした「行かなくなった場所」は、そこへ行く動作がつらくなったことの裏返しです。

本人は「面倒だから」「もう使わないから」と説明します。ただ、階段を上らなくなったのは膝が痛むからで、庭に出なくなったのは掃き出し窓の段差を越えられないからかもしれません。減った行動を一つずつ取り上げて、どこの何がつらくてやめたのかを聞いてみましょう。行かなくなった場所そのものより、行けなくした段差や高さのほうが点検の対象になります。

夜のトイレを避けて水を控えている

夕方以降に親がどれくらい飲み物を口にしているかを、さりげなく見ておいてください。「夜中にトイレへ起きたくないから」と水分を控えているなら、夜の移動に不安を感じている合図と考えられます。暗い廊下を歩くのが怖い、便座から立ち上がるのがつらい、寝ぼけて転びかけたことがある。口には出さないそうした経験が、水を減らすという行動に出ています。

水分を控える習慣は、脱水から熱中症や脳梗塞につながることもあり、放っておけません。寝室からトイレまでの距離と、途中の段差、明かりのスイッチの位置を実際に夜歩いて確かめてください。ポータブルトイレを置くか、足元灯を足すか、手すりを付けるかは後の話なので、まずは「夜に何が起きているか」を本人から聞き出しておきましょう。

玄関と廊下・階段のチェック

玄関から寝室までの通り道は、家の中でいちばん往復の多い区間にあたります。ここでは、玄関と廊下、階段で確かめたい点を説明します。

玄関は上がり框の高さと靴を履く場所を見る

メジャーを1本持って、玄関の土間から床までの段差、いわゆる上がり框(あがりかまち)の高さを測ってください。20センチを超えていれば、片脚で体を支えながら越える動作が要るので、荷物を持っていればなおさら危うくなります。同じ家でも勝手口や掃き出し窓の段差は高さが違うので、外へ出る出入口はすべて測っておきましょう。

靴の脱ぎ履きをどこでしているかも見どころです。腰かける台がなく、壁に片手をついてふらつきながら靴を履いているなら、毎日繰り返している危険動作にあたります。玄関の照明の暗さ、土間に散らばった靴、たたきに置きっぱなしの荷物も控えておいてください。工事をせずに腰かけ台と据え置き型の手すりで足りる場面も多いので、選び方は介護用品の手すりで確かめられます。

廊下は支えの途切れる区間を見る

親の歩幅に合わせてゆっくり廊下を歩き、手を伸ばして支えになるものが何もない区間がどれくらい続くかを数えてみてください。壁に手すりがなく、家具も置かれていない直線が3メートル以上続くなら、そこはふらついたときに立て直せない区間です。床の変わり目に数センチの段差が残っていないか、敷居がつま先に引っかからないかも足元を見ながら確かめましょう。

廊下に置かれた物も、そのまま危険の材料になります。新聞の束、掃除機、洗濯かご、季節外れの家電。こうした物は本人にとって「いつもの場所」なので、目に入らなくなっています。夜に廊下を歩いてみて、足元がどれくらい見えるかも確かめてください。明るさが足りないと感じたら、その位置を写真に撮っておきましょう。

階段は手すりの長さと足元の明るさを見る

階段は、手すりが上り口から下り口まで途切れずに続いているかを最初に見ます。途中の柱で切れている、上の数段だけ付いていない、握るには太すぎるといった手すりは、いちばん力の要る最後の数段で役に立ちません。段の縁が丸くすり減っていないか、滑り止めが取れかけていないかも、しゃがんで確かめてください。

明るさも階段では大きな条件です。上と下の両方にスイッチがあるか、上りながら影で段が見えなくなっていないかを、実際に歩いて確かめましょう。階段に段ボールや洗濯物を一時置きする習慣が残っていたら、それも書き留めておきます。手すりの追加や滑り止めは介護保険の住宅改修の対象になる場合があるので、写真を撮って残しておくと相談が早く進みます。

トイレと浴室のチェック

水まわりは、狭い場所で立ち座りやまたぎの動作が続く区間です。ここでは、トイレと浴室で確かめたい点を説明します。

トイレは立ち座りと夜の動線を見る

親が便座から立ち上がる動きを、可能なら一度だけ見せてもらってください。手をつく場所がなくて膝に手を当てて立っている、壁やペーパーホルダーに体重を預けている、何度か勢いをつけている。こうした動きが出ていたら、支えが足りていません。ペーパーホルダーやタオル掛けは体重を受け止める作りではないので、そこに頼っている時点で危うい状態です。

ドアの形も点検の対象に入ります。内開きの扉は、中で倒れたときに外から開けられなくなります。トイレの入口に段差が残っていないか、便座の高さが低すぎないか、夜に廊下の照明を点けなくてもたどり着けるかも確かめましょう。寝室からトイレまでを夜間の暗さで一度歩いてみると、昼には見えなかった不安がはっきり出てきます。

浴室はまたぎ高さと床の滑りを見る

浴槽のふちの高さを、洗い場の床から測ってください。またぐ高さが40センチを超えていれば、片脚立ちのまま体を持ち上げる動作が必要になり、濡れた床では転びやすくなります。浴槽の中に手をついて体を支える場所があるか、出るときにつかまるものがあるかも見ておきましょう。

床のタイルを手で触り、ぬめりや石けんかすが残っていないかも確かめます。目地がすり減ってつるつるになっている浴室は、マット1枚では追いつきません。脱衣所と洗い場のあいだの段差、脱衣所の暖房の有無、浴室の照明の暗さも一緒に控えておいてください。ここまでで見つけたことは、その場で直そうとせず写真に残しておきましょう。

寝室と居間・台所のチェック

長く過ごす部屋ほど油断が出るので、点検では見落としやすくなります。ここでは、寝室と居間、台所で確かめたい点を説明します。

寝室はベッドから出るまでの動線を見る

寝床から起き上がって立つまでの動きを、朝に一度見せてもらってください。布団で寝ているなら、床から立ち上がるときに手をつく場所があるかどうかが要点です。ベッドなら、高さが膝より低すぎないか、起き上がるときにつかまる柵があるかを見ます。マットレスが柔らかすぎて体が沈む場合も、立ち上がりはつらくなります。

ベッドから部屋の出口までに何が置かれているかも確かめましょう。床に積まれた雑誌、垂れ下がった電気毛布のコード、めくれた敷物の縁。夜中に暗い中で通る道なので、昼に見て平気でも夜は違います。枕元に明かりのスイッチがあるか、足元灯があるかを見て、なければその位置を写真に撮っておいてください。

居間は敷物の縁と電気コードを見る

居間の床を、目線を落として横から眺めてみてください。カーペットやラグの縁が数ミリでもめくれていれば、すり足で歩く親のつま先はそこに引っかかります。玄関マットやトイレの前のマットも同じで、裏の滑り止めが劣化してずれるようになっていたら危険な状態です。

テレビや電気ストーブ、こたつのコードが、人の通る線を横切っていないかも見ましょう。座椅子から立ち上がるときにつかまるものがあるか、テーブルが体重を預けても動かないかも確かめておきます。低い座椅子や座布団からの立ち上がりは、じつは浴槽をまたぐのと同じくらい脚の力が要ります。座る場所と立ち上がり方は、あとで椅子に替えるかどうかの判断材料になるので、写真に残しておいてください。

台所は足元の物と踏み台を見る

台所では、まず足元に何が置かれているかを見ます。米袋、ペットボトルの箱、ごみ袋、鍋。狭い動線に物が並んでいれば、振り向いた拍子に足を取られます。マットが濡れていないか、床が油で滑らないかも、実際に立って足裏で確かめましょう。

上の棚も点検の対象です。よく使う物が背伸びしないと届かない高さにあるなら、親は踏み台に乗っています。消費者庁の令和5年版消費者白書のコラムでも、けが等の経験があった製品として脚立や踏み台が最も多く挙がったと示されました。踏み台が台所や押し入れの近くに出しっぱなしなら、使っている証拠です。よく使う物を腰から目の高さに下ろすだけで解決する場面もあるので、何が高い場所にあるかを書き出しておきましょう。

部屋ごとに見る点と、急ぐ度合いを下の表にまとめました。

場所 主に見る点 急ぐ度合い
玄関 上がり框の高さと靴を履く姿勢 高い
廊下 支えの途切れる区間と足元の物 中くらい
階段 手すりの連続と足元の明るさ 高い
トイレ 立ち座りの支えと夜の動線 高い
浴室 またぎ高さと床の滑り、脱衣所の寒さ 最も高い
寝室 起き上がりと夜の出口までの動線 中くらい
居間 敷物の縁と電気コード 中くらい
台所 足元の物と踏み台 中くらい

帰省したときの点検の進め方

帰省で使える時間は限られるので、見る順番を決めておくと短時間で回れます。ここでは、点検の手順と、見つけたあとの動き方を説明します。

親が動く順に家を一周する

点検は部屋を単位にせず、親が一日に動く順で一周してください。朝に寝床から起きて、トイレへ行き、台所に立ち、居間で過ごし、玄関から出て、夜に風呂へ入る。この順で歩けば、部屋の中だけを見ていては気づかない「部屋と部屋のあいだ」が目に入ります。段差や暗さは、部屋の真ん中でなく境目に残っているものです。

一周するときは、できるだけ親と一緒に歩いてください。同じ道を先に本人が歩くと、どこで手をつき、どこで立ち止まり、どこで壁に寄るかが全部見えます。時間が短いなら、寝室からトイレまでの夜の道と、浴室の2か所だけでも歩いておきましょう。

気になった場所は写真に撮る

気になった場所は、その場でメモを取るより写真を撮るほうが早く、しかも正確に残ります。段差は横から、手すりのない壁は通り全体が入るように、床の物は上から。同じ場所を撮るときは、メジャーを当てて数字が読めるようにしておくと、あとで高さを言い直さずに済みます。

撮った写真は、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に見せる材料になります。言葉で「玄関が高い」と伝えるより、20センチの数字が写った1枚のほうが早く話が進むでしょう。写真を撮るときは黙って撮らず、「手すりを相談したいから撮らせて」と伝えてから撮ってください。親に無断で家の中を撮って回ると、見張られていると受け取られかねません。

見つけた危険は優先順位をつけて相談する

一周して気になる場所を10も20も見つけても、全部を一度に直そうとしないでください。転んだときのけがが重くなる浴室と階段、毎日何度も通る玄関と夜のトイレから先に手を付けると、費用のわりに効きます。物をどける、明かりを足す、マットを替えるといった、その日のうちに終わることは分けて先に片づけましょう。

工事や用具が要りそうなものは、地域包括支援センターかケアマネジャーに写真を見せて相談してください。要介護や要支援の認定を受けていれば、手すりの取り付けや段差の解消は介護保険の住宅改修の対象になる場合があります。どこから直すかの考え方と工事の全体像はバリアフリーリフォームの基本で扱っているので、相談の前に目を通しておくと話が早くなります。

注意

点検で見つけたことを、その場で本人の前に並べ立てないでください。「ここも危ない、あれも危ない」と数え上げると、自分の家と暮らしを否定されたと感じて、以後の相談ができなくなります。危ないと思った場所ほど、まず本人がどう困っているかを聞いてください。工事や用具は、認定や補助の条件で順番が変わるので、契約より先にケアマネジャーへ相談しましょう。

まとめ

高齢者の転倒は住まいの屋内に集中していて、東京消防庁の資料では居室と階段、それに浴室が事故の多い場所として示されています。実家を点検するときは、玄関の上がり框の高さ、廊下で支えが途切れる区間、階段の手すりと明るさ、トイレの立ち座りと夜の動線、浴槽のまたぎ高さと床の滑り、寝室の起き上がり、居間の敷物の縁、台所の足元と踏み台を順に見てください。

本人は不便を言わないので、壁に残った手あとや家具づたいの歩き、使わなくなった部屋、夜のトイレを避けて水を控える様子といった痕跡から読み取ります。見て回るときは部屋単位でなく親が一日に動く順に一周し、気になった場所はメジャーを当てて写真に残しておきましょう。全部を直そうとせず、浴室と階段から順に地域包括支援センターかケアマネジャーへ相談してください。転ばせないための具体的な手当てを知りたい方は、転倒予防の考え方と対策もあわせて役立ててください。

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