車椅子対応のバリアフリーリフォーム|今の家で通れるかの判断と限界

リフォームで直す

家族が車椅子を使うと決まった日から、住み慣れた家が急に狭く見えてきます。廊下の角は曲がれるのか、トイレの戸は通るのか、玄関の段はどうやって上がるのか。長年なんとも思わずに歩いていた場所が、一つずつ気がかりに変わっていきます。

新築なら、幅も広さも図面の上で好きに決められます。ところが今ある家は、柱の位置も壁の厚みも敷地の高低差も、すでに決まってしまったところから始めるほかありません。だから車椅子対応のリフォームは「何ミリにするか」ではなく、「うちの家はどこまで動かせて、どこから先は動かせないのか」を見きわめる作業から始まります。

そこで、本人の車椅子と家の現況の測り方、通れるかを判断する寸法の目安、広げられる壁と広げられない壁の違い、そして今の家では通せないと分かったときの手までをまとめました。工事を頼む前に、うちはどちらなのかを見当づける手がかりとして役立ててください。

車椅子対応のリフォームで先に測る現況

車椅子が通るかどうかは、カタログの数値ではなく、いま家にある寸法と本人の車椅子の寸法の差で決まります。ここでは、業者に相談する前に自分たちで測っておきたい3か所を見ていきます。

本人の車椅子は全幅と全長を実際に測る

最初に測るのは家ではなく、本人が実際に乗る車椅子のほうです。車椅子には自走式や介助式、電動式やリクライニングつきなど型がいくつもあり、同じ「標準」と名のついた型でも全幅は数センチ違います。メーカーの一般的な寸法を頼りに家を直すと、届いた実物が数センチ広くて通らない、という取り返しのつかない行き違いが起こりかねません。

メジャーで測るのは、いちばん外に張り出した部分を含めた全幅と、フットレスト(足を載せる台)の先端までを含めた全長の2つです。自走式なら、ハンドリム(車輪の外側の輪)を回す手が外側へ出るぶん、本体の全幅より広い通り道が要ります。測るのは車椅子の本体ではなく、乗った本人が動くときに占める幅だと考えてください。まだ車椅子が手元にないなら、福祉用具専門相談員に候補の型の実測値を聞いてから家の話に進みましょう。

廊下と出入口は壁から壁でなく有効幅で測る

家の側で測るのは、図面の数字ではなく、実際に通行に使える有効幅です。図面に「廊下910ミリ」と書かれていても、それは柱の芯から芯までの寸法で、壁の仕上げや幅木のぶんだけ実際は狭くなっています。手すりが付いていれば、その出っ張りぶんも通れる幅から引かなければなりません。

出入口はもっとずれます。開き戸は建具の厚みが、引き戸は引き残し(開けきっても戸が残る部分)が通り道をふさぐので、枠の内側の寸法をそのまま信じると数センチの誤差が出ます。戸を全開にしたうえで、実際に体が通る狭いところを測ってください。廊下は数か所で測り、いちばん狭い数字を採用しておくと安全側に倒せます。

曲がり角は実際に車椅子を通して確かめる

数字だけでは判断がつかない場所が、曲がり角です。廊下も戸もそれぞれ十分な幅があるのに、廊下から直角に折れて戸へ入る動きだけが通らない、という詰まりは実際によく起こります。車椅子は前輪と後輪の位置が離れているため、向きを変えながら進むと、まっすぐ通るときより広い通り道を必要とするからです。

段ボールを車椅子の全幅に切って床を滑らせるより、実物を借りて通してみるほうが確実です。デイサービスやレンタルの車椅子を一日借りて、玄関から居室、トイレ、洗面所までを実際に押して回ってみてください。どこで手が壁に当たり、どこで切り返しが要るのかが分かれば、直す場所の優先順位がはっきりします。この段階でどこまで直すかが決まっていないなら、バリアフリーリフォームの進め方で工事全体の流れを確かめてから見積もりに進むとよいでしょう。

通れるかを判断する寸法の目安

測った数字が足りているのかどうかは、国が示している目安と突き合わせると見当がつきます。ここでは、通路と出入口と方向転換について、判断の物差しになる寸法を見ていきます。

通路の有効幅員は780ミリが最低の線

住宅の通路には、国土交通省が示した目安があります。高齢者が居住する住宅の設計に係る指針では、日常生活空間内の通路の有効な幅員について、基本レベルで780ミリ以上(柱等の箇所は750ミリ以上)、推奨レベルで850ミリ以上(柱等の箇所は800ミリ以上)が示されています。推奨レベルは、介助用車椅子を使う場面まで見込んだ線にあたります。

日本の木造住宅の廊下は、柱の芯から芯まで910ミリで作られていることが多く、仕上げを引いた有効幅は780ミリ前後に落ち着きます。つまり多くの家は、基本レベルはかろうじて満たすが推奨レベルには届かない状態です。手すりを付ければさらに狭くなるので、廊下がぎりぎり780ミリなら、直進はできても曲がる場所で詰まる家だと考えて先を読んでください。

出入口の有効幅は750ミリから800ミリを見込む

出入口についても、指針は同じく2段の目安を示しています。基本レベルは750ミリ以上(浴室の出入口は600ミリ以上)、推奨レベルは800ミリ以上です。玄関と浴室の出入口については、開き戸なら建具の厚み、引き戸なら引き残しを勘案した通行上有効な幅員で見ることが指針にも明記されています。

古い住宅の戸は、幅が700ミリ前後しかない場所が珍しくありません。とくにトイレと洗面所の戸は、家のなかでもっとも狭く作られがちで、車椅子で入る前提になっていないのが普通です。測った有効幅が750ミリを切っていたら、戸そのものを替えるか枠ごと広げる工事が要ると見込んでおきましょう。

向きを変える場所には150センチ角が要る

まっすぐ通れても、向きを変えられなければ行き止まりと変わりません。国土交通省の高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準では、車椅子の転回に支障がない場所として、360度回転できる150センチ角の部分や、180度回転できる幅140センチ・奥行き170センチ程度のスペースが挙げられています。

この標準は住宅ではなく、不特定多数の方が使う建物に向けたものです。それでも、車椅子が回るのに要る広さそのものは家の中でも変わりません。ただし実際に何センチで回れるかは車椅子の型と本人の腕の力で変わるので、数字を信じきらず、本人の車椅子を持ち込んで回してみてから判断してください。

広げられる壁と広げられない壁

「壁を抜けば廊下は広がる」と考えたくなりますが、家の壁には抜けるものと抜けないものがあります。ここでは、工法ごとにどこまで動かせるのかを見ていきます。

在来木造でも柱と筋交いの入った壁は残る

柱と梁で組む在来工法の木造住宅は、比較的手を入れやすい部類に入ります。とはいえ、すべての壁が自由になるわけではありません。屋根と床の重さを地面へ流している柱、地震や風の横向きの力を受け止める筋交い(柱の間に斜めに渡した材)の入った壁は、抜くと家が傾いたり倒れたりする恐れがあるため、原則としてそのまま残します。

抜けるのは、部屋を仕切るためだけに立っている間仕切り壁です。ただし、見た目では抜ける壁と残す壁の区別がつきません。図面が残っていれば筋交いの位置が分かりますが、無い場合は床下や天井裏を見て確かめる調査が要ります。柱を抜いて梁で受け直す手もあるものの費用が跳ね上がるので、どの壁が動かせるかは、必ず現地を見た建築士か施工業者に判断してもらってください。

ツーバイフォーと鉄筋コンクリートは壁そのものが家を支える

ツーバイフォー(枠組壁工法)の家は、柱でなく壁の面全体で家を支えています。そのため、外周の壁はもちろん、室内の壁にも家を支える役目を負ったものが混ざっており、開口を広げられる範囲がメーカーの仕様で細かく決まっています。廊下を数十センチ広げるつもりで壁を撤去する、といった直し方は基本的に通りません。

鉄筋コンクリート造のマンションも同じく、コンクリートの壁が家を支えている場合は動かせません。加えて、共用部分にあたる玄関の外側や外廊下には手を入れられず、管理規約や管理組合の承認という制約もかぶさります。指針にも、住宅の改修を検討する場合には改修する住宅の構造による制約が生じることに留意する、と書かれています。工法が分からないときは、建てた会社か管理組合に確認するところから始めましょう。

工法ごとに、廊下や出入口をどこまで広げられるかを下の表にまとめました。

工事の内容 在来木造 ツーバイフォー 鉄筋コンクリート 理由
開き戸を引き戸に替える できる できる できる 建具の交換で済み、家を支える部分に触れない
間仕切り壁を撤去して広げる できる場合が多い 難しい 難しい 木造は仕切るだけの壁があるが、他は壁が家を支える
柱・筋交いのある壁を抜く 難しい 難しい 難しい 抜くと家が傾く恐れがあり、梁で受け直す大工事になる
出入口の枠を広げる 開口の位置しだい 仕様の範囲内のみ 難しい 壁式の家は開口の大きさが決まっている
玄関の外や外廊下を直す できる できる 難しい 集合住宅では共用部分にあたり個人で手を入れられない

廊下と出入口を広げる手

壁を動かせない家でも、通り道を稼ぐ手はいくつか残っています。ここでは、家を支える部分に触れずに幅を広げる工事を見ていきます。

引き戸に替えて開口の有効幅を稼ぐ

もっとも効きやすいのが、開き戸から引き戸への交換です。開き戸は開けるときに車椅子が後ろへ下がらなければならず、狭い廊下では下がる場所そのものがありません。引き戸なら手前に下がらずに開けられ、開けた戸が通路をふさぐこともないので、同じ開口でも通りやすさが変わります。

枠を残したまま引き戸に替えると、引き残しのぶん有効幅が減る点には気をつけてください。上から吊るタイプや、戸を壁の中へ引き込むタイプなら、下のレールが無く車輪も引っかかりません。壁の中に引き込む余地が無ければ、戸を外側の壁に沿わせて滑らせるアウトセット引き戸という手もあるので、業者に選べる型を挙げてもらいましょう。

戸の前だけ壁をふかし直して回れる空きを作る

廊下全体を広げられなくても、詰まるのは曲がる一点だけ、という家は少なくありません。その場合は、戸の前の壁だけを薄い仕様に作り替えて、数センチずつ有効幅を稼ぐ手が使えます。厚い壁の仕上げを薄いものに替える、壁に付いた収納を撤去する、幅木や見切り材を薄いものに替えるといった細かい積み上げです。

数センチと聞くと効果が薄そうですが、車椅子が通れるかどうかは十数ミリで分かれます。片側で20ミリ、両側で40ミリ稼げれば、780ミリの廊下が820ミリになり、曲がる余地が生まれることもあるでしょう。どこを削れば何ミリ稼げるのかは現地で見ないと分からないので、測った数字を業者に見せて「あと何ミリ足りないか」を先に共有してください。

抜ける間仕切りを撤去して部屋ごと通路にする

在来木造で、抜ける間仕切り壁が廊下の脇にあるなら、廊下と隣室をつなげてしまう手が有効です。使わなくなった和室や納戸を廊下に取り込むと、細長い通路が広い一続きの空間になり、曲がる場所も回る場所も一度に確保できます。廊下を数センチ広げる工事より、部屋を1つ手放すほうが結果的に楽なこともあるでしょう。

その部屋を何に使っていたかを家族で話し合っておかないと、あとから物の置き場に困ります。動線が詰まる家では、幅を稼ぐより「使う部屋を減らして広くつなげる」ほうが早い場合があると覚えておいてください。抜ける壁かどうかの判断はやはり業者の調査が前提なので、候補の壁をいくつか挙げて見てもらうとよいでしょう。

床の段差をなくして車輪が引っかからないようにする

幅が足りていても、床の段差が残っていれば車輪は止まります。和室の敷居、洗面所や廊下の見切り、玄関の上がり框など、歩いていたときは気づかなかった数センチが、車椅子にはすべて障害物です。前輪が小さい車椅子ほど、わずかな段でも引っかかって前へ進めなくなります。

敷居を削って平らにする、床を上げて高さをそろえる、緩やかな傾斜の板をかぶせるなど、段差の高さと場所によって手は変わります。工事の内容と費用の見当をつけたい方は、段差解消のリフォームで場所ごとの直し方を確かめてください。幅を広げる工事と同時に頼むと、床の仕上げをまとめて直せるぶん手間が減ります。

屋外のスロープが入らない敷地

家の中を直しても、玄関まで上がれなければ車椅子は使えません。ここでは、屋外のスロープに要る長さと、敷地に入らないときの手を見ていきます。

勾配1/12は高低差の12倍の長さを食う

スロープは、緩やかにするほど長くなります。国土交通省の建築設計標準では、傾斜路の勾配を1/12以下(高さが16センチ以下の場合は1/8以下)とし、屋外では1/15以下とすることが示されています。あわせて、幅員は原則として120センチ以上、高さ75センチ以内ごとに踏幅150センチ以上の踊場を設けることも挙げられています。

1/12は、高さ10センチ上がるのに120センチの長さが要る計算です。道路から玄関まで60センチの高低差があれば、1/12でも7メートル20センチ、屋外向きの1/15なら9メートルのスロープが要ることになります。門から玄関まで数メートルしかない敷地に、この長さは入りません。この標準は住宅ではなく不特定多数の方が使う建物に向けたものですが、車椅子が上れる勾配の感覚をつかむ物差しとしては使えます。

折り返しても敷地が足りないことがある

まっすぐで入らないなら折り返せばよい、と考えるのが次の手です。ただしL字やコの字に折り返すと、曲がる部分に平らな踊場が要るため、必要な面積は思ったほど減りません。踊場では車椅子が向きを変えるので、それぞれの折り返し点に150センチ角に近い広さが要ります。

加えて、庭に埋まった配管、隣地との境界、駐車場の位置といった敷地の事情も絡んできます。スロープを取ると車を置けなくなり、通院に使う車が停められない、という本末転倒も起こりがちです。敷地の図面と高低差を測ったうえで、車の置き場と両立するかまで含めて業者に検討してもらってください。

スロープの代わりに段差解消機や可搬式スロープを使う

敷地に長さが取れないと分かったら、スロープ以外の手に切り替えます。段差解消機は、車椅子ごと人を垂直に持ち上げる機器で、必要なのは機器を置く1畳ほどの場所だけです。介護保険の福祉用具貸与の対象になる型もあるため、買い切る前にケアマネジャーに相談しておきましょう。

数センチから数十センチの段なら、可搬式スロープ(持ち運べる板状のスロープ)を使い分ける方法もあります。工事をせずに済み、使わないときは片づけられるのが利点です。ただし短い板を急な段にかけると勾配がきつくなり、介助する方が支えきれない角度になります。どの高さまで安全に上げられるかは介助する方の力で変わるので、実際に試してから決めてください。

注意

この記事で挙げた勾配と踊場の数値は、不特定多数の方が使う建物に向けた建築設計標準のものです。一戸建ての屋外アプローチにそのまま適用が求められるものではなく、地面の凍結や雨天時の滑りやすさによって、同じ勾配でも安全に上れるかは変わります。スロープを入れるかどうかは、高低差を実測したうえで、施工業者と福祉用具専門相談員の両方に見てもらってから決めてください。

今の家で通せないときの代替

測って調べた結果、家じゅうを車椅子で回るのは無理だと分かることがあります。ここでは、家を全部直すのをあきらめたあとに残る手を見ていきます。

生活を1階に集約して使う部屋を絞る

全部の部屋へ行けるようにする必要は、そもそもありません。寝る、食べる、用を足す、体を洗う。この4つが1階でつながっていれば、暮らしは回ります。2階の部屋も廊下の突き当たりの納戸も、行かないと決めてしまえば直さなくて済みます。

1階に居室が足りないなら、和室を寝室に替える、使っていない部屋を空けるといった入れ替えで作れることが多いものです。直す場所を減らすほど、限られた費用を通り道の1本に集められます。どの4つの場所をどうつなぐかを紙に書き、その線の上だけを直す前提で業者に相談すると、見積もりも現実的な額に収まるでしょう。

屋内は歩行器に乗り換えて車椅子を屋外用にする

本人が短い距離を支えつきで歩けるなら、屋内で車椅子を使わない選択もあります。玄関で歩行器や杖に乗り換えれば、家の中に要る幅は一気に下がり、車椅子が通れない廊下でも生活できます。車椅子は屋外の移動と長い距離のためだけに使う、という分け方です。

乗り換えの動きそのものが本人の負担になるので、この手が使えるかは体の状態で決まります。理学療法士やケアマネジャーに、屋内をどこまで歩けるか、いつまでその状態が続きそうかを見てもらってから決めてください。数か月で歩けなくなる見込みなら、いま歩けることを前提に家を直すのは避けたほうが無難でしょう。

直しきれないなら住み替えも選択肢に入れる

壁が抜けず、敷地にスロープも入らず、1階に居室も取れない。そこまで重なったら、その家を直す判断そのものを見直す時期です。数百万円かけて中途半端に直したうえに結局暮らせなかった、という結末がいちばん重くのしかかります。工事の見積もりが出そろった段階で、その額を住み替えに回した場合と並べてみてください。

平屋や、はじめから車椅子で暮らす前提の家に移れば、幅も回転スペースも初めからそろっています。どんな寸法の家なら無理なく暮らせるのかは、車椅子で暮らす家に必要な寸法で確かめられます。今の家にこだわるか住み替えるかは家族で決めることですが、両方の見積もりを並べてから選ぶほうが、あとで後悔しにくくなるでしょう。

まとめ

車椅子対応のリフォームは、寸法を決める前に、本人の車椅子の全幅と全長、そして家の廊下と出入口の有効幅を測るところから始まります。指針が示す通路の目安は基本レベルで780ミリ以上、推奨レベルで850ミリ以上、出入口は750ミリ以上から800ミリ以上です。ただし詰まるのはまっすぐな廊下ではなく曲がり角なので、最後は本人の車椅子を実際に通して確かめるほかありません。

そのうえで、柱や筋交いの入った壁、ツーバイフォーや鉄筋コンクリートの壁は動かせず、敷地に長さが無ければスロープも入りません。今の家を全部は直せないと分かったら、生活を1階に集約する、屋内は歩行器に乗り換える、段差解消機や可搬式スロープで補う、住み替えを検討するといった手に切り替えてください。どこまでできるかは家の工法と敷地しだいなので、測った数字を持って建築士か施工業者に現地を見てもらい、できない部分をはっきりさせたうえで優先順位を決めましょう。工事全体の種類と進め方から確かめたい方は、バリアフリーリフォームとはもあわせて役立ててください。

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