トイレのバリアフリーリフォーム|手すり・引き戸・洋式化と介護スペース

リフォームで直す

親が立ち座りのたびに壁へ手をつくようになると、家の中でまっ先に気になるのがトイレです。浴室ほど大がかりな工事に見えないぶん後回しにされやすい場所ですが、毎日の安全にこれほど直結する場所は他にそう多くありません。

トイレは一日に何度も使い、夜中にも起きて向かう場所です。そのうえ中は狭く、体を預けられるのは便器と壁だけという家がほとんどでしょう。転ぶ危険と、寝室から遠くて間に合わないという困りごとが、同じ一畳ほどの空間に重なって出てきます。

そこで、トイレで行う工事の中身と、介助する人が入れる広さの目安、介護保険の住宅改修で対象になる部分と外れる部分、そして広さが取れないときの代わりの手までをまとめました。親のトイレをどこから直すか決めたい方は、ぜひ参考にしてください。

トイレを先に直す必要性

トイレは家の中で使う回数が飛び抜けて多く、直した効果がそのまま毎日に返ってくる場所です。ここでは、他の場所より先にトイレへ手を入れたほうがよい理由を見ていきます。

トイレは一日に何度も使う

高齢になると水分をためておく力が落ち、若いころより排尿の回数が増えていきます。日中に何往復もし、そのたびに立ち座りを繰り返すので、一つひとつの動作にかかる負担が積み重なっていく場所です。浴室が一日一回、玄関が数回なのに対し、トイレだけは回数の桁が違います。

同じ費用をかけるなら、使う回数がいちばん多いトイレから直したほうが、安全になる場面の数も増えます。工事の予算に限りがあるなら、まずトイレの立ち座りを支える手すりから当たってみてください。場所ごとの優先順位や工事全体の見取り図から確かめたい方は、バリアフリーリフォームの進め方もあわせて読んでおくと迷いにくくなるでしょう。

夜間の移動が転倒につながる

トイレが他の場所と違うのは、暗い中を眠気の残った体で移動する点にあります。夜中に起きたばかりの体はふらつきやすく、足元も見えません。廊下の照明をつけずに壁づたいに歩き、途中の敷居につまずいて転ぶという流れは、家族が寝ている時間に起こるので発見も遅れます。

夜間の対策は、便器まわりの手すりだけでは足りません。寝室からトイレまでの経路にある段差と、足元を照らす明かりまで含めて見ておく必要があります。まずは親が夜どの道を通っているかを実際に歩いて確かめ、暗い区間とつまずく段差を書き出すところから始めてみてください。

動線が長いと間に合わなくなる

トイレの困りごとは転倒だけではありません。寝室から遠い、廊下を曲がる、ドアが重いといった条件が重なると、間に合わずに失敗してしまいます。一度失敗すると本人は水分を控えるようになり、脱水や便秘といった別の不調を呼び込むこともあるので、動線の長さは体の問題として受け止めたいところです。

トイレの工事は、便器のまわりだけでなく、寝室からドアまでの道のりを短く速くする工事でもあります。寝室を一階のトイレに近い部屋へ移す、廊下のドアを開けたままにできる引き戸へ替えるなど、便器に触らない工事で解決する場合もあります。親が「最近もう間に合わないことがある」と漏らしたら、便器の心配より先に、寝室からの距離を測ってみてください。

トイレで行う工事の中身

トイレのバリアフリー工事は、手すり、便器、扉、床の4か所に分かれます。ここでは、それぞれの工事が体のどの動きを助けるのかを説明します。

手すりは立ち座りと横移動の2か所に付ける

トイレで最初に検討したいのが手すりです。国土交通省の高齢者が居住する住宅の設計に係る指針では、便所の手すりについて「立ち座りのためのものが設けられていること」が基本レベルの要件として示されています。便器から立ち上がる瞬間に体重を預ける支えが、まず欠かせないものと位置づけられているわけです。

実際の取り付けでは、便器の横に縦の手すりを付けて立ち座りを支え、便器へ近づくまでの横移動には壁づたいの横手すりを足す形が扱いやすくなります。縦と横を組み合わせたL型を選べば、1本で両方を兼ねられます。付ける高さや左右は、麻痺のある側や利き手で変わるため、親に実際の姿勢をとってもらってから位置を決めてください。手すりの種類や場所ごとの選び方は手すり設置の進め方で詳しく扱っています。

和式便器は洋式便器に取り替える

和式便器が残っている家では、洋式化が最も効く工事になります。和式はしゃがむ姿勢を必要とし、膝や股関節に大きな角度をつけるため、脚の力が落ちた高齢者にはそもそも使えなくなる形です。しゃがんだまま立てず、狭い個室の中で身動きが取れなくなる事故も起こります。

洋式に替えると、腰を下ろして立ち上がる動きだけで済み、手すりと組み合わせれば体重を手に逃がせるようになりました。既に洋式の家でも、便座が低すぎると立ち上がりに膝の力が要るため、便座の高さを見直す価値があります。座ったときに足の裏がしっかり床につき、膝が股関節より少し低くなる高さが目安になるので、親に座ってもらって膝の角度を見てから決めましょう。

開き戸は引き戸か外開きに替える

扉は見落とされがちですが、命に関わる部分を抱えています。中で人が倒れると、内開きのドアは体が引っかかって外から開けられません。狭いトイレほど倒れた体がドアの前をふさぐので、救助が遅れる原因になります。開き戸のままにするなら、せめて外開きへ向きを変えておきたいところです。

いちばん確実なのは引き戸への交換です。引き戸は開閉に前後の動きが要らず、車椅子や歩行器を使う方でも体を引きながら下がる動作が省けます。厚生労働省の福祉用具・住宅改修に関する法令上の規程では、扉の取替えに扉の撤去やドアノブの変更、戸車の設置も含むと示されており、丸ごと替えなくても手を入れる余地があります。壁の中に引き込む余地がなければ折戸やアコーディオンカーテンも候補になるので、業者に間口を見てもらってください。

段差をなくして滑りにくい床材に替える

トイレの入口には、昔ながらの家だと数センチの段差が残っていることがあります。わずかな高さでも、すり足で歩く高齢者はつま先を引っかけて前へ転びます。段差の解消は敷居を低くする工事や床のかさ上げで対応でき、扉の交換と同時に行えば工事も一度で済むでしょう。

床材も見直したい部分です。タイルの床は水はねで滑りやすく、転んだときに体を打つ硬さもあります。水に強く滑りにくいビニル系の床材へ替えると、掃除もしやすくなって家族の負担が下がります。冷たさが気になるなら断熱性のあるものを選ぶ手もあるので、サンプルを取り寄せて親に触ってもらってから決めてください。

介助が入れる広さの確保

トイレの工事で見落とされやすいのが、介助する人が一緒に入れるかどうかです。ここでは、公的な指針が示す広さと幅の目安を見ていきます。

便所の広さは長辺1300ミリか便器と壁500ミリが目安

どのくらいの広さがあればよいかは、国の指針に数値が示されています。国土交通省の同じ指針では、便所の基本レベルとして、長辺が内法寸法で1300ミリ以上であること、または便器の前方か側方について便器と壁の距離が500ミリ以上であることのいずれかを満たすよう求めています。長辺1300ミリか、便器と壁のあいだ500ミリ。どちらかが取れていれば、介助する人が体を入れる余地が生まれます。

推奨レベルはさらに広く、便所の短辺が内法寸法で1300ミリ、または便器後方の壁から便器の先端までの距離に500ミリを加えた値以上とされています。今の家がどちらにあてはまるかは、メジャーで内側の壁から壁までを測ればすぐ分かります。まずは長辺と、便器の横に残っている隙間の2か所を測ってから、業者との打ち合わせに臨みましょう。

部位 基本レベル 推奨レベル
便所の広さ 長辺1300ミリ以上、または便器と壁の距離500ミリ以上 短辺1300ミリ、または便器後方の壁から先端までの距離+500ミリ以上
出入口の幅員 750ミリ以上 800ミリ以上
通路の有効幅員 780ミリ以上(柱等は750ミリ以上) 850ミリ以上(柱等は800ミリ以上)
手すり 立ち座りのためのものを設ける 立ち座りのためのものを設ける

(国土交通省「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」の便所・出入口・通路の要件より)

出入口の幅は750ミリ以上を確保する

広さと同じくらい効くのが出入口の幅です。国土交通省の指針の基本レベルでは、日常生活空間内の出入口の幅員を750ミリ以上とするよう示しており、推奨レベルでは800ミリ以上が求められます。介助用の車椅子で入るなら、この幅がないとタイヤが枠に当たって入れません。

古い家のトイレは600ミリ台の間口も多く、扉を替えるだけでは足りない場合があります。引き戸にすると引き残しのぶん通れる幅が変わるため、実際に通る有効幅で測ってもらってください。柱の位置によっては壁ごと動かす工事になり、費用も跳ね上がります。工事の規模がどこまで膨らむかを先に知りたい方は、バリアフリーリフォームの費用相場で場所別の目安を確かめてから相談すると話が早く進むでしょう。

便器の位置と向きを変えて介助側を空ける

壁を動かさずに介助の余地を作る手もあります。便器の向きを90度変える、あるいは奥へ寄せて手前に空間を作ると、同じ面積のまま介助する人の立つ場所が生まれるでしょう。給排水の位置を変える工事になるので、床を開ける前に配管の経路を確認してもらってください。

向きを決めるときは、親のどちら側に介助者が立つかを先に決めておくと迷いません。麻痺のある側の反対に立つのが基本なので、体の状態が変わればここも変わります。ケアマネジャーや理学療法士に一度立ち会ってもらい、実際に介助する動きを再現してから便器の位置を決めると、工事のやり直しを避けられます。

介護保険の住宅改修で使える部分

トイレの工事には、介護保険の住宅改修が使える部分と使えない部分があります。ここでは、その線引きがどこにあるのかを説明します。

対象になるのは6種類の工事

介護保険の住宅改修には、対象となる工事の種類が定められています。厚生労働省の住宅改修の概要には、手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替え、そしてこれらに付帯して必要となる住宅改修の6つが挙げられています。

見比べると分かるとおり、トイレで行う工事はこの6種類にほぼそのまま重なります。手すりを付ける、敷居の段差をなくす、床材を替える、引き戸にする、和式を洋式にする。トイレは住宅改修と相性がよい場所なので、着工前に担当のケアマネジャーへ「どこまで対象になるか」を必ず投げておきましょう。

トイレの工事 介護保険の住宅改修 補足
手すりの取付け 対象 壁の下地補強も付帯工事として対象
敷居の段差解消 対象 動力で段差を解消する機器の設置は対象外
滑りにくい床材への変更 対象 下地の補修や根太の補強も付帯工事として対象
引き戸への取替え 対象 扉の撤去、ドアノブの変更、戸車の設置も含む
和式から洋式便器への取替え 対象 便器の取替えに伴う給排水設備工事も含む
洋式便器への洗浄機能の後付け 対象外 既に洋式である場合の機能の付加は含まれない
非水洗から水洗への変更 対象外 水洗化・簡易水洗化の部分は含まれない
腰掛便座(ポータブルトイレ等)の設置 対象外 特定福祉用具販売の側で扱う
扉の自動ドア化の動力部分 対象外 動力部分の費用相当額は給付の対象とならない

洗浄機能の後付けだけは対象から外れる

線引きでつまずきやすいのが温水洗浄便座です。厚生労働省の「福祉用具・住宅改修に関する法令上の規程」には、和式便器から暖房便座や洗浄機能等が付加されている洋式便器への取替えは含まれるものの、既に洋式便座である場合のこれらの機能等の付加は含まれない、と示されています。和式からの入れ替えなら洗浄機能つきでも丸ごと対象、洋式に洗浄機能だけ足すなら対象外という分かれ方です。

同じ資料では、非水洗の和式便器から水洗や簡易水洗の洋式便器に取り替える場合、水洗化や簡易水洗化にあたる部分は対象にならないとも書かれています。腰掛便座の設置も住宅改修からは除かれ、こちらは特定福祉用具販売の側で扱う仕組みです。どこまでが工事でどこからが用具かは素人には見分けにくいので、見積書の項目ごとに担当者へ確認してもらってください。

注意

介護保険の住宅改修は、対象の判断や必要書類の運用が保険者(市区町村)ごとに違います。トイレの工事は対象と対象外が1枚の見積書に混ざりやすい場所なので、着工したあとで「この項目は出ません」と言われないよう、必ず工事を始める前にケアマネジャーと保険者へ内容を確認してください。

申請は工事を始める前に出す

住宅改修でいちばん多い失敗が、工事を終えてから申請しようとすることです。厚生労働省の資料では、住宅改修を行おうとするときに、住宅改修が必要な理由書などの必要書類を添えて申請書を提出し、工事完成後に領収書等を提出することで費用が償還払いで支給される、という順番が示されています。やむを得ない事情がある場合は完成後の申請も認められますが、原則は事前です。

支給限度基準額は20万円で、要支援や要介護の区分にかかわらず定額とされ、その9割にあたる18万円が支給の上限になります。トイレを丸ごと直すと20万円を超える場合も珍しくないため、対象の工事から先に組み立てる進め方が現実的でしょう。限度額の使い方や書類の書き方は制度側の話になるので、まずケアマネジャーに相談したうえで、工事の順番を決めてください。

温度と明るさへの配慮

トイレの安全は、手すりや扉のような形のあるものだけで決まるものではありません。ここでは、見落とされやすい温度と明るさへの手当てを見ていきます。

暖房で部屋との温度差を減らす

冬のトイレが寒いのは、単なる不快さの問題ではありません。暖かい部屋から冷えたトイレへ移ると血圧が急に動き、ヒートショックにつながります。国土交通省の指針でも、居室、便所、脱衣室、浴室等の間の温度差をできる限りなくし、ヒートショックを未然に防ぐため断熱及び換気に配慮すること、そして暖冷房設備等を用いることができる構造とすることが求められています。

具体的な手当ては、小型の暖房機を置ける電源を確保する、窓を断熱性の高いものに替える、壁や床に断熱材を入れるといったところです。工事の規模を抑えたいなら、まず人感センサーつきの小型ヒーターを置くだけでも差が出ます。親のトイレが冬に何度あるか分からなければ、温度計を1つ置いて数日測ってみるところから始めましょう。

照明とスイッチは足元と手元に合わせる

夜のトイレでは、明かりのつけ方そのものが転倒に関わります。入口の外にしかスイッチがないと、暗い廊下で手探りになり、その場でふらつきます。人感センサーの照明に替えれば、扉を開けた瞬間に点くのでスイッチを探す動作ごとなくせるでしょう。

明るさの選び方にも気をつけたいところがあります。夜中に強い光を浴びると目がくらんで足元が見えなくなるため、廊下側は足元を照らす低い位置の常夜灯にし、トイレの中だけしっかり明るくする組み合わせが向いています。親が夜どのくらい見えているかは本人に聞いても分からないので、家族が実際に同じ時間帯に歩いて確かめてみてください。

広さが取れないときの代替

トイレを直したくても、間取りや予算の都合で広げられない家もあります。ここでは、工事に頼らずに困りごとを減らす選び方を見ていきます。

ポータブルトイレを寝室に置く

夜間の移動そのものが危ないなら、トイレへ行かずに済ませる手があります。ポータブルトイレを寝室に置けば、暗い廊下を歩く場面がまるごと消えます。工事が要らないので、明日からでも始められる対策です。

抵抗を示す親も多いので、まずは夜間だけ使う、日中は今までどおりトイレへ歩くといった線の引き方にすると受け入れられやすくなります。腰掛便座は特定福祉用具販売の対象で、購入費の一部が介護保険から支給される仕組みです。においや掃除の負担が心配なら、消臭機能つきや自動ラップ式のものもあるため、福祉用具専門相談員に実物を見せてもらってから選びましょう。

据え置き型の手すりで工事を避ける

壁の下地が弱くて手すりを付けられない家や、賃貸で壁に穴を開けられない家もあります。その場合の候補が、床に置いて使う据え置き型の手すりです。便器をまたぐ形で置くタイプなら、両側から支えて立ち座りができ、工事を一切せずに済みます。

置き型は本体に重さがあり、床が傾いていたり柔らかかったりすると安定しません。実際に親の体重を預けてぐらつかないかを確かめてから使ってください。介護保険では貸与や購入の扱いが種類によって変わるので、どちらになるかを福祉用具専門相談員に確認したうえで手配すると無駄がなくなります。

工事と用具を組み合わせて負担を下げる

工事と用具は、どちらか一方を選ぶものではありません。扉と段差だけ工事で直し、手すりは置き型、夜間はポータブルトイレという組み合わせなら、限度額の20万円を扉と段差に集中させられます。全部を工事で解決しようとするより、費用も工期も抑えられる進め方です。

どこを工事に回してどこを用具でしのぐかは、親の体の状態がこの先どう変わるかで答えが変わります。数年で車椅子になりそうなら、今のうちに間口を広げておいたほうが結局は安く済む場合もあるでしょう。判断に迷ったら、ケアマネジャーと福祉用具専門相談員の両方に同席してもらい、工事と用具の割り振りを一緒に決めてもらってください。

まとめ

トイレは一日に何度も使い、夜中にも向かう場所なので、直した効果が毎日に返ってきます。工事の中身は、立ち座りを支える手すり、和式から洋式への取り替え、開き戸から引き戸か外開きへの交換、敷居の段差解消と滑りにくい床材への変更の4つが柱になります。中で倒れると内開きのドアは開かないため、扉は後回しにしないでください。

広さの目安は、国土交通省の指針が示す長辺1300ミリ以上、または便器と壁の距離500ミリ以上、出入口の幅員750ミリ以上が手がかりになります。介護保険の住宅改修は手すり、段差解消、床材変更、扉の取替え、洋式便器等への取替えが対象になる一方、既に洋式の便器へ洗浄機能を足すだけの工事は外れます。対象の判断は保険者ごとに運用が違うので、着工前にケアマネジャーと保険者へ確認してから発注しましょう。工事にいくらかかるかを先に見ておきたい方は、バリアフリーリフォームの費用相場もあわせて役立ててください。

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