段差解消の方法|場所別の工事とわずかな段差の直し方

リフォームで直す

親が家の中でつまずくようになると、まず思い浮かぶのは玄関の上がり框や階段でしょう。ところが実際に転んだ場所を聞くと、居間と廊下の間や、洗面所の入口といった、家族が段差とも思っていなかった場所が挙がります。

つまずきの原因になるのは、敷居の数センチや畳とフローリングの継ぎ目のような、ほんのわずかな高さの違いです。すり足で歩く高齢者はつま先がほとんど上がらないため、目立たない段差ほど引っかかりやすくなります。大きな段差は本人も身構えますが、わずかな段差は無防備なまま踏み出してしまいます。

そこで、場所ごとの段差解消の工事と、工事によって起きる副作用、介護保険の住宅改修で使える範囲までをまとめました。家じゅうの段差をどこからどう直すか決める手がかりとしてお使いください。

高齢者がつまずくのはわずかな段差

家の中の段差というと大きな高低差を思い浮かべますが、転倒のきっかけになるのは数センチの小さな段差です。ここでは、わずかな段差が危ない理由と、どこまで下げれば安心といえるのかを見ていきます。

すり足の歩き方は数センチでつまずく

年齢とともに脚の筋力が落ちると、歩くときにつま先を持ち上げる動きが小さくなり、床をこするように足を運ぶすり足の歩き方に変わります。すり足では、つま先と床のすき間が数ミリから1センチほどしかありません。そこへ2センチや3センチの段差があると、つま先が引っかかって体だけが前へ出てしまうのです。

大きな段差は本人が身構えて足を上げますが、わずかな段差は気づかないまま踏み出すぶん、かえって転びやすくなります。しかも小さな段差は毎日何度も通る場所にあるため、危ない回数そのものが多くなります。親の歩き方を後ろから見て、つま先が上がっていないようなら、家じゅうの数センチの段差を洗い出すところから始めてください。

敷居や床の継ぎ目は家じゅうに残っている

日本の住宅には、部屋の境目ごとに小さな段差が残っています。和室の敷居は数センチ立ち上がり、畳とフローリングの継ぎ目には厚みの差が出ます。廊下と洗面所の間には見切り材が入り、トイレの入口だけ床が一段下がっている家もあります。

こうした段差は、建てたときには誰も不便に感じなかったものばかりです。家族が「うちに段差はない」と思っていても、メジャーを当てると1センチから4センチほどの高さの違いが次々に見つかります。とくに寝室からトイレまでの道筋は、夜中に暗いまま歩く場所なので、小さな段差でも危険が大きくなるでしょう。まずは親が一日に通る道筋をたどりながら、部屋の境目を1か所ずつ測って書き出してみてください。

段差をなくす目安は5mm以下

段差はゼロまで削らないと意味がないと考える方は多いのですが、国が示す目安はそこまで厳しくありません。国土交通省の高齢者が居住する住宅の設計に係る指針では、日常生活空間内の床について「段差のない構造(5mm以下の段差が生じるものを含む。)であること」と示されています。

つまり5ミリ以下に収まっていれば、指針のうえでは段差がないものとして扱われます。5ミリはフローリング材の見切りや、床の張り替えで出るわずかな厚みの差にあたる高さです。玄関の出入口や上がり框、浴室の出入口などは例外として別の数値が定められているので、工事の相談では「どこを何ミリまで下げるか」を業者と一緒に決めていくとよいでしょう。

場所別の段差解消工事

段差をなくす工事は、床のつくりや水まわりの事情によって場所ごとに方法が変わります。ここでは、家の中でつまずきの多い場所と、それぞれで選べる工事を説明します。

敷居は撤去や削り取りで床をつなぐ

和室と廊下の間などにある敷居は、撤去するか、上端を削り取って高さを落とすのが基本の工事です。敷居そのものを抜いて床材でつなげば段差は消えますが、建具のレールを兼ねている敷居では、抜くと戸が立たなくなります。戸を残したいなら、敷居の立ち上がりだけを削り、フラットレールや吊り戸へ替える方法を選んでください。

削り取りも撤去も難しい造りのときは、敷居の両側にミニスロープを固定して斜面をつくり、乗り越えやすくする手もあります。段差が2センチ程度なら削りで足りることが多く、3センチを超えると斜面や床の調整が要るでしょう。敷居の高さと、戸を残すかどうかの2つを先に決めてから業者に相談すると、話が早く進みます。

床のかさ上げは部屋全体の高さをそろえる

トイレや洗面所だけ床が低い、和室だけ高いといったときは、低いほうの床を上げて高さをそろえる工事があります。既存の床の上に下地を組んで新しい床材を張るので、部屋と部屋の境目にあった段差がまとめて消えるわけです。畳をはがして板張りに替えるときにも、同時に高さを合わせられます。

かさ上げは段差解消の効果が大きい反面、部屋の中のあらゆる高さが変わる工事です。建具の下端や床下の配管、部屋の入口の枠まで手が入るため、工期も費用も削りや撤去より大きくなります。どの部屋を上げてどの部屋に合わせるかで見積もりが大きく変わるので、家全体の高さの基準を決めてから範囲を絞り込んでください。

玄関は式台を据えて一段を二段に分ける

玄関の上がり框は20センチから40センチほどあり、一気に上り下りするには高すぎる場所です。ここでよく使われるのが、土間と框の間に置く式台という踏み台で、一段だった高さを二段に分けて一歩あたりの負担を軽くします。据え置くタイプと、床に固定して框と一体に仕上げるタイプがあります。

式台を入れるときは、奥行きを十分に取って足がしっかり乗る広さを確保し、手すりを添えて体を支えられるようにすると安心です。土間が狭いと式台が扉の開閉の邪魔になるので、置ける寸法を先に測っておきましょう。屋外から玄関までの通路に傾斜が残る場合は、スロープの設置や通路面の工事もあわせて検討してください。

浴室の出入口は排水を替えて段差をなくす

浴室の入口に高い立ち上がりがあるのは、洗い場の水を脱衣所へ流さないためです。この段差をただ削ると水があふれるので、排水の方法から変えなければなりません。出入口の床にグレーチング(金属製の溝ぶた)を埋めて水を受けたり、洗い場の床を全体にかさ上げして勾配を付け直したりして、水の行き場をつくりながら段差を落とします。

在来工法の浴室であれば床のかさ上げで対応できますが、ユニットバスの場合は入口の高さが製品ごとに決まっているため、段差の小さい製品への入れ替えが現実的な選択になります。浴室は転倒だけでなく溺れる事故も起きる場所なので、段差だけでなく手すりや床材も含めて一度に直すほうが結果的に無駄がありません。工事の範囲は浴室のつくりで変わるため、まずは業者に現場を見てもらってください。

場所ごとの工事と注意点を、下の表にまとめました。

場所 主な工事 注意する点
和室と廊下の境目 敷居の撤去・削り取り 建具のレールを兼ねていると戸が立たなくなる
部屋全体(和室・洗面所) 床のかさ上げ 天井が低くなり建具の高さも変わる
玄関の上がり框 式台の設置 奥行きと扉の開閉に必要な寸法を確保する
浴室の出入口 グレーチング・洗い場のかさ上げ 排水と勾配を同時に直さないと水があふれる
勝手口 踏み台の設置・土間のかさ上げ 屋外側の水はけと雨仕舞いを確かめる
門から玄関までの通路 スロープの設置・舗装の変更 勾配がきついと介助でも上がれない

段差解消工事の副作用

段差をなくす工事は、床や建具の高さを動かすため、直したあとに別の不便が出ることがあります。ここでは、工事の前に知っておきたい4つの副作用を説明します。

床のかさ上げは天井と建具を圧迫する

床を上げれば段差は消えますが、その分だけ天井までの高さが低くなります。5センチのかさ上げは、天井が5センチ下がったのと同じ意味を持ちます。もともと天井の低い和室や、梁が下がっている部屋では、上げたあとに圧迫感が出て使いにくくなるでしょう。

高さが変わる影響は天井だけではありません。押入れやふすまの下端が床に当たって開かなくなる、窓の位置が下がって見え方が変わる、コンセントの高さが不自然になるといった変化も起きます。かさ上げを検討するときは、天井高が何センチ残るかと、建具を切り詰められるかを工事の前に確かめておいてください。

敷居の撤去は建具が使えなくなる

敷居を抜くと段差は確実に消えますが、その敷居が溝で戸を支えていた場合、ふすまや障子はそのままでは立ちません。戸を残すには、床にフラットレールを付けて戸車で走らせるか、上から吊る吊り戸に替える工事が要ります。どちらも建具の加工か新調を伴うので、敷居を抜くだけのつもりが扉一式の工事に広がるでしょう。

戸そのものが不要な場所なら、敷居を抜いて開口をそのまま空けてしまう手もあります。ただし、冷暖房の効きや音、においが部屋の間で行き来するようになるので、寝室と居間の間などは慎重に決めたいところです。段差を取るか戸を残すかで迷ったら、部屋の使い方を家族で話し合ってから工事の範囲を決めましょう。

ミニスロープは端でつまずくことがある

固定式のミニスロープは、敷居を削れないときに斜面をつくって越えやすくする方法です。ただし斜面は段差より横幅が狭いことが多く、斜面から外れた端の部分には元の段差がそのまま残ります。斜めに横切ろうとして端に足をかけ、かえってつまずく方もいるでしょう。

スロープの縁が床から浮いてめくれ上がったり、車椅子の車輪が斜面から脱輪したりする危険もあります。設置するなら、開口の幅いっぱいにスロープを渡し、床とのすき間ができないよう固定してもらってください。斜面で越える方法が合うかどうかは、親の歩き方を見て判断すると失敗が減ります。

浴室の段差をなくすと水が流れにくくなる

浴室の入口の立ち上がりは、洗い場の水をせき止める役目を持っています。この高さを下げると、シャワーの水や湯船から流れた湯が脱衣所側へ出やすくなります。グレーチングや排水溝を入れて水を受ける工事をしても、勾配の取り方が甘いと水が溜まったり、脱衣所の床が濡れて滑る場所が増えたりしかねません。

排水口に髪や石けんかすが詰まると、受けきれなかった水があふれるため、掃除の手間も増えます。段差をどこまで下げるかは、水はけと使い勝手の兼ね合いで決まる部分です。浴室の工事では、段差の高さと排水の方法を必ずセットで業者に確認しておきましょう。

介護保険の住宅改修で使える部分

段差解消の工事は、介護保険の住宅改修として費用の一部が支給される対象に含まれています。ここでは、何が対象になり、何が外れるのかを説明します。

段差の解消は対象6種のひとつ

介護保険の住宅改修には、支給の対象になる工事の種類が定められています。厚生労働省が住宅改修の概要をまとめた資料では、手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替え、これらに付帯して必要となる住宅改修の6種類が挙げられています。支給限度基準額は20万円で、要支援・要介護の区分にかかわらず定額です。

対象になる段差解消の中身は、厚生労働省の告示に関する解釈通知にもう少し具体的に書かれています。「居室、廊下、便所、浴室、玄関等の各室間の床の段差及び玄関から道路までの通路等の段差又は傾斜を解消するための住宅改修」とされ、例として敷居を低くする工事、スロープを設置する工事、浴室の床のかさ上げ等が挙がっています。家の中の段差工事はおおむねここに収まるので、まずは対象になる前提で計画を立ててかまいません。

動力で床を昇降させる機器は対象から除かれる

同じ段差解消でも、機械で床を持ち上げる装置は住宅改修から外れます。解釈通知には「昇降機、リフト、段差解消機等動力により段差を解消する機器を設置する工事は除かれる」と明記されています。玄関の高低差を機械で上下する段差解消機は、名前に段差解消と付いていても住宅改修の対象になりません。

階段昇降機も同じ扱いで、住宅改修の20万円の枠では賄えません。こうした機器は福祉用具貸与や自治体の独自の助成で扱われる場合があるため、必要なときはケアマネジャーに別の道を探してもらうことになります。機械に頼るしかない高低差なのか、工事で解決できる高さなのかを、先に見きわめてもらってください。

浴室のかさ上げに伴う給排水工事は付帯工事になる

段差解消の本体工事に付いてくる周辺の工事も、付帯して必要となる住宅改修として対象に含まれます。解釈通知では段差の解消の付帯工事として「浴室の床の段差解消(浴室の床のかさ上げ)に伴う給排水設備工事、スロープの設置に伴う転落や脱輪防止を目的とする柵や立ち上がりの設置」が挙げられています。浴室の床を上げると排水管の位置を変えざるを得ませんが、その工事も含めて申請できます。

見積もりを取るときは、本体と付帯の工事を項目ごとに分けて書いてもらうと、保険者の確認がすんなり進みます。どこまでを付帯と認めるかには保険者ごとの運用の幅があるので、迷う項目は事前申請の段階で聞いておくと安心です。工事を始めてから対象外だと分かる事態を避けるためにも、書類は着工前にそろえておきましょう。

注意

介護保険の住宅改修は、工事の前に申請する事前申請が原則です。何が対象になるかの判断や必要書類は保険者(市区町村)によって運用が異なります。着工してからでは支給されないことがあるため、必ず担当のケアマネジャーか市区町村の窓口に確認してから工事を始めてください。

工事と福祉用具の線引き

段差を越える方法には、工事で家を直す道と、道具を置いて越える道の2つがあります。ここでは、介護保険のうえで両者がどう分かれるのかを説明します。

可搬式スロープと浴室内すのこは福祉用具にあたる

持ち運べるスロープや、浴室に敷くすのこは、住宅改修ではなく福祉用具として扱われます。解釈通知には「貸与告示第八項に掲げる『スロープ』又は購入告示第三項第五号に掲げる『浴室内すのこ』を置くことによる段差の解消は除かれる」とあり、住宅改修の対象から外れることが示されています。貸与の対象になるスロープは「段差解消のためのものであって、取付けに際し工事を伴わないものに限る」と定められており、置くだけで使えるものが該当します。

同じスロープでも、床や地面に固定する工事を伴うものは住宅改修の側に入ります。解釈通知でも、工事を伴う場合で段差の解消に該当するものは住宅改修としての給付の対象になると整理されています。どちらの制度を使うかで手続きも自己負担の計算も変わるため、置くのか固定するのかを業者と決めておきましょう。工事をせずに試したい方は、段差解消スロープの選び方もあわせて確認してみてください。

工事は段差そのものを家から消す

据え置きの道具は動かせる手軽さがある反面、位置がずれる、端でつまずく、掃除のたびに動かすといった手間が残ります。工事で敷居を抜いたり床を上げたりすれば、その場所の段差は二度と現れません。毎日何度も通る居間や廊下の境目は、道具を置き続けるより工事で消してしまうほうが暮らしは楽になります。

一方で、数か月だけ支えが必要な回復期や、賃貸で家に手を入れられない場合は、借りられる用具のほうが向いています。用具は体の状態が変われば別のものに替えられる強みもあります。工事と用具のどちらを選ぶかは、住まいの条件と親の状態の見通しで決まるので、段差解消スロープの使い勝手も見比べたうえで、ケアマネジャーと相談してください。

段差解消工事の費用と進め方

段差解消の費用は工事の方法で大きく開き、進め方を間違えると保険が使えなくなります。ここでは、見積もりの取り方と相談の順番を説明します。

費用は工事の範囲で大きく変わる

同じ段差解消でも、敷居を削るだけの工事と、部屋の床を全面的にかさ上げする工事では金額の桁が変わります。ミニスロープの固定や式台の設置のように部材を取り付けるだけなら、支給限度基準額の20万円で収まる範囲に入りやすくなります。床のかさ上げや浴室の入れ替えまで進めば、20万円を超えて自己負担が出ることも珍しくありません。

費用の幅を先に知っておくと、どこまで直すかの判断がしやすくなります。工事ごとの目安はバリアフリーリフォームの費用相場にまとめているので、家族で予算を話し合う前に目を通しておくとよいでしょう。家じゅうを一度に直そうとせず、親がよく通る場所から順に手を付ける進め方も選べます。

段差の高さを実測してから見積もりを取る

見積もりを依頼する前に、直したい段差の高さを自分たちで測っておくと話が早く進みます。2センチの敷居なら削りで済み、5センチの床の違いならかさ上げか斜面が要るというように、高さで工事の方法が決まるためです。メジャーを当てて「居間と廊下の境目が3センチ」といった数字を書き出し、写真を添えて業者に渡してください。

現地を見てもらうときは、その段差を親が実際にまたぐところを見てもらうと、必要な工事の見当が正確になります。床下の配管や建具の状態は素人には分からないので、最終的な判断は業者に任せてかまいません。数字と写真を先に渡しておけば、複数の業者から同じ条件で見積もりを取って比べられます。

ケアマネジャーには工事の前に相談する

介護保険を使うつもりなら、業者を呼ぶより先に担当のケアマネジャーへ声をかけてください。住宅改修の申請には住宅改修が必要な理由書が必要で、これはケアマネジャー等が作成する書類です。工事を先に始めてしまうと、事前申請ができず支給を受けられない場合があります。

親の体の状態からどこを直すべきかも、ケアマネジャーのほうが見立てを持っています。段差を全部なくすより、手すりの追加や用具の貸与と組み合わせたほうが安全になる場面もあります。家じゅうの段差を測り終えたら、その一覧を持って相談に行くと、優先順位まで一緒に決めてもらえます。工事全体の進め方はバリアフリーリフォームの基本でも説明しているので、あわせて役立ててください。

まとめ

家の中で高齢者が転ぶきっかけになるのは、大きな段差ではなく敷居や床の継ぎ目にある数センチのわずかな段差です。国土交通省の指針は日常生活空間の床について5ミリ以下を含む段差のない状態を示しており、完全なゼロまで削らなくてもかまいません。まずは親が通る道筋の段差を1か所ずつ測って書き出すところから始めます。

工事の方法は場所ごとに分かれ、敷居の撤去や削り取り、床のかさ上げ、玄関の式台、浴室の排水を含めた工事などがあります。どれも天井が低くなる、建具が立たなくなる、水が流れにくくなるといった副作用を伴うため、直したあとの暮らしまで見てから範囲を決めてください。段差の解消は介護保険の住宅改修の対象6種のひとつですが、動力で床を昇降させる機器や、置くだけの可搬式スロープは対象から外れます。工事を始める前に、必ずケアマネジャーか市区町村の窓口に確認しておきましょう。費用の目安を先に知りたい方は、バリアフリーリフォームの費用相場もあわせて確認してみてください。

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