親がふらつくようになると、まず手すりを付けようと考える家族は多いものです。壁にしっかり固定された手すりなら体重を預けられ、置き型のように床の場所も取りません。
ところが工事の手すりは、付けたい場所に必ず付くとは限りません。日本の住まいの壁の多くは石膏ボードで、その裏に柱や下地の板が通っていない場所にビスを打つと、握って体重をかけた瞬間に抜けます。位置と下地を外した手すりは、支えにならないどころか転倒のきっかけになります。
そこで、工事で付ける手すりの役割と、取付けの成否を決める壁の下地の見方、廊下や階段、トイレ、浴室、玄関という場所ごとの形状と高さの目安をまとめました。介護保険の住宅改修で付けるときの扱いまで通してあるので、業者に相談する前の下調べに使ってください。
工事で付ける手すりの役割
手すりは握るための棒ではなく、体重の一部を受け止めて動作を助ける支えです。ここでは、工事で壁に固定する手すりが何をしているのかを見ていきます。
手すりは転倒予防と移乗動作を支える
手すりが受け持つ仕事は、大きく2つに分かれます。歩いているときのふらつきを止める転倒予防と、立つ・座る・またぐといった姿勢を変える場面を助ける移乗動作の補助です。厚生労働省の告示に関する解釈通知では、手すりの取付けが「廊下、便所、浴室、玄関、玄関からの道路までの通路等に転倒予防若しくは移動又は移乗動作に資することを目的として設置するもの」と示されています。
この2つは、必要になる場所も形も違います。歩く場所では体を横に流さないための長い横手すりが要り、立ち座りの場所では体を引き上げるために縦の握りが要ります。手すりを検討するときは、まず親がどこでふらつき、どこで立ち上がりに手間取っているかを1週間ほど見てから、必要な場所を書き出してみてください。
位置が合わない手すりは握られない
手すりは、付いていても握られなければ意味がありません。動線から少し外れた壁に付けた手すりは、歩く速さのなかで手が届かず、結局は壁や家具に手をついてしまいます。高さが体に合っていなければ同じで、高すぎれば肩が上がって力が入らず、低すぎれば前かがみになって体が前へ流れてしまうでしょう。
位置を決めるときは、カタログの寸法より本人の動きが先にきます。実際にその場所を歩いてもらい、立ち止まる位置、手を伸ばす位置、体を支えている壁の場所に印を付けてみてください。そうすると、握られる手すりの位置が浮かび上がってきます。手すりは付ければ効くものではなく、本人が自然に手を伸ばす位置に来てはじめて支えになります。工事の前に、家族が本人の動きを一度なぞってみるとよいでしょう。
工事の手すりは体重を壁と柱に逃がす
壁に固定する手すりの強みは、預けた体重を建物そのものへ逃がせる点です。据え置き型のように土台の重さで踏ん張るのではなく、ビスから壁の下地、そして柱へと力が伝わるので、片手で体を引き上げても動きません。浴室のように床が濡れて滑る場所や、階段のように足元が不安定な場所では、この動かなさが安心につながります。
そのぶん、力の通り道になる下地が無ければ成立しません。手すり本体がどれほど頑丈でも、ビスの効いていない手すりは体重で引き抜かれます。工事の手すりを選ぶかどうかは、付けたい壁に力を受け止める下地があるかどうかとセットで決まると考えて、次の下地の話まで読み進めてください。
手すりを付ける前に確かめる壁の下地
手すりの工事でいちばん問題になるのは、手すりの種類ではなく壁の中身です。ここでは、下地の見方と、下地が無いときの対処を説明します。
石膏ボードだけの壁ではビスが抜ける
住まいの内壁の多くは、厚さ9.5ミリから12.5ミリほどの石膏ボードでできています。石膏を紙で挟んだ板なので、画びょうや軽い額縁は留まっても、人の体重を引っぱる力には耐えられません。石膏ボードだけの部分にビスを打った手すりは、握って体重をかけた瞬間にボードごと抜けます。
しかも抜け方が危険です。付けた直後は問題なく使えて、半年ほど経ってから、いちばん力がかかる場面で不意に外れるという壊れ方をします。手すりを頼って体を預けている最中に支えが消えるので、そのまま転倒します。「壁があるから付く」ではなく「力を受ける下地があるから付く」と読み替えて、壁の中を先に確かめてください。
柱と間柱の位置は下地探しで見つける
石膏ボードの裏には、柱や間柱(柱と柱のあいだに立つ細い木材)が、おおむね455ミリか910ミリの間隔で通っています。手すりのビスは、この木部に届かせるのが基本です。位置を知るには、市販の下地探しを使います。細い針を刺して手ごたえで探すタイプと、磁石でボードを留めているビスの列を拾うタイプがあり、どちらも数百円から手に入ります。
壁を軽くたたいて音の詰まる場所を探す方法もありますが、耳だけでは断熱材や配管を木部と間違えることもあり、確実ではありません。業者は下地探しに加えて図面や施工時の記録から柱の位置を読みます。自分で当たりを付けた場所も、工事の前に業者へ伝えて確かめてもらうと、打ち直しの穴を壁に残さずに済みます。
下地が無い場所は補強板を入れる
手すりを付けたい位置に、都合よく柱が通っているとは限りません。455ミリ間隔の間柱に合わせて手すりの端を決めると、本人が握りたい位置から数十センチずれることもあります。そこで使うのが下地補強です。壁の中に木材を新しく入れる方法と、壁の表面に厚い板(受け材)を張ってから、その板へ手すりを留める方法があります。
壁の中に入れる場合は、石膏ボードをいったん剥がして木材を渡し、ボードとクロスを戻す手順になるので、工期も費用も上がりがちです。表面に受け材を張る方法なら壁を壊さずに済み、板の幅の範囲で手すりの位置を自由に決められます。どちらを選ぶかは壁の造りと予算で変わるので、見積もりの段階で「下地補強はどちらの方法か」を業者に聞いておきましょう。
コンクリート壁とタイル壁は工法が変わる
マンションの戸境壁や、浴室のタイル壁は、木の下地とは扱いが別です。コンクリートの壁には木ねじが効かないので、穴をあけてアンカー(コンクリートに埋めて受け座にする金具)を打ち込み、そこへ手すりを留めます。壁の中に電気配線や配管が通っていることもあり、位置の見極めには経験が要ります。
在来工法の浴室のタイル壁も、下地のモルタルやブロックの状態によって効き方が変わり、施工を誤れば壁の防水層を破って水が回ってしまうでしょう。ユニットバスの壁は、あらかじめ手すり用の下地が入った面が決められている製品も多く、その面から外れると付けられません。壁の種類が木以外なら自分で判断せず、浴室やマンションの実績がある業者に見てもらってください。
下地の有無を確かめずに、ホームセンターで買った手すりを自分で壁に留めるのは避けてください。石膏ボードだけの部分に留めた手すりは、しばらく使えても体重をかけた場面で不意に抜け、転倒につながります。壁の中が分からないときは、必ず業者か福祉用具専門相談員に見てもらってから決めてください。
場所別の手すりの選び方
手すりは場所ごとに支える動作が違うので、形も高さも同じにはなりません。ここでは、歩く場所と立ち座りの場所に分けて、選び方を説明します。
廊下は横手すりを途切れさせずに続ける
廊下で支えたいのは歩行なので、進む向きに沿った横手すりを付けます。大切なのは、途中で切らないことです。手すりが途切れると、その区間だけ支えが消えて、握り直そうとした瞬間にバランスを崩します。曲がり角やドアの前で分断されるなら、端を近づけて手を持ち替えられるようにするか、コーナー用の部材でつなぐとよいでしょう。
高さは床から750ミリから800ミリのあたりが目安になりますが、本人の身長や腰の曲がり方で最適な位置は動きます。立ってもらい、腕を自然に下ろしたときの手首の高さに合わせると大きく外しません。廊下の端から寝室やトイレの入り口まで、どこからどこまで手を離さずに歩きたいのかを先に決めてから、長さと本数を業者に伝えてください。
階段は踏面の先端から700〜900mmに付ける
階段の手すりは、寸法の根拠が公的な指針に示されています。国土交通省の高齢者が居住する住宅の設計に係る指針では、基本レベルとして階段の手すりを「少なくとも片側(勾配が45度を超える場合にあっては両側)に、かつ、踏面の先端からの高さが700㎜から900㎜の位置」に設けることが示されています。勾配が45度を超える急な階段では、片側だけでなく両側に手すりが要ります。
片側だけ付けるなら、降りるときに利き手側へ来る向きを選びます。階段は上るときより降りるときが危なく、体重が前へかかるので、降りる方向を基準にすると理にかなうためです。指針では推奨レベルとして階段の両側に設けることも示されているので、迷ったときは両側を候補に入れて見積もりを取りましょう。
トイレはL型で立ち座りと横移動を支える
トイレでは、便座からの立ち座りと、入り口から便座までの横移動という2つの動作を支えます。この両方を1本でまかなえるのが、縦と横を組み合わせたL型の手すりです。縦の部分を握って体を引き上げ、横の部分に手を沿わせて向きを変えれば、便器の前後で握り替えずに済みます。国交省の指針でも、便所には立ち座りのための手すりを設けることが基本レベルとして示されています。
取り付ける位置は、便器の先端から前方へ200ミリから300ミリほど、体の側方の壁が基本です。麻痺がある方は動く側の手が届く壁を選びます。トイレは狭くて壁の下地も限られるため、便器の交換や壁の張り替えと同時に工事すると、下地補強を一度で済ませられます。トイレ全体を直す予定があるなら、手すりの位置も同じ見積もりに入れておいてください。
場所ごとの形状と高さの目安を、下の表にまとめました。
| 場所 | 主な形状 | 高さの目安 | 支える動作 |
|---|---|---|---|
| 廊下 | 横手すり(連続) | 床から750〜800mm | 歩行 |
| 階段 | 横手すり(傾斜に沿う) | 踏面の先端から700〜900mm | 昇降 |
| トイレ | L型(縦+横) | 便座から230〜300mm前後 | 立ち座りと横移動 |
| 浴室 | 縦・横・L型を複数 | 動作ごとに調整 | 出入り・またぎ・洗い場の立ち座り |
| 玄関 | 縦手すり | 上がり框に合わせる | 段差の昇降と靴の着脱 |
浴室と玄関の手すり
浴室と玄関は、短い距離のあいだに動作が何度も切り替わる場所です。ここでは、この2か所で手すりの本数と向きをどう決めるかを説明します。
浴室は出入りと浴槽と洗い場で役割が分かれる
浴室は家の中でもっとも転びやすい場所で、手すりが1本では足りません。国交省の指針は、推奨レベルとして浴室に「浴室出入り、浴槽出入り、浴槽内での立ち座り、姿勢保持及び洗い場の立ち座りのため」の手すりを設けることを示しています。浴室の手すりは、出入り口とまたぎと洗い場で役割が分かれるため、複数本が前提になります。
具体的には、洗い場への出入り口に縦手すり、浴槽をまたぐ位置に縦手すり、浴槽の中で姿勢を保つために横手すり、洗い場の椅子から立つ位置にL型、といった組み合わせになります。すべてを一度に付けると費用がかさむので、いま危ないのはどの動作かで優先順位を付けてください。またぎと立ち座りのどちらが不安かを本人に聞いて、そこから1本ずつ足していくと無駄が出ません。
玄関は縦手すりで上がり框の昇降を支える
玄関で難所になるのが、上がり框の段差と、そこでの靴の脱ぎ履きです。国交省の指針では、玄関に上がりかまち部の昇降と靴の着脱のための手すりを設けることが推奨レベルとして示されています。段差を上り下りする動作は体が上下に動くので、横手すりより、握る高さを自分で選べる縦手すりが合います。
框の高さが200ミリを超える家なら、縦手すりに加えて、腰かけて靴を履くための台や踏み台を組み合わせると動作が安定するでしょう。玄関の壁がタイル張りだったり、下駄箱に隣接していて壁の面が足りなかったりする場合は、下地補強や框への据え付けを検討します。玄関土間から式台までの動きを本人にたどってもらい、手が離れる瞬間がどこかを確かめてから位置を決めましょう。
手すりの形状と太さの決め方
手すりの効きは、位置だけでなく握り心地でも変わります。ここでは、形と太さ、端部の納め方という3点を説明します。
握るタイプと手を沿わせるタイプで選ぶ
手すりは、しっかり握って体重を預けるタイプと、手を軽く沿わせて滑らせるタイプに分かれます。前者は円形の断面で、階段やトイレのように強く力をかける場所に向いた形です。後者は平たい断面のフラットバーで、廊下を歩きながら手を滑らせる使い方や、腕全体を乗せて体を支える使い方に向きます。
厚生労働省の解釈通知では、手すりの形状について「二段式、縦付け、横付け等適切なものとする」と示されており、場所と動作に合った形を選ぶ前提になっています。二段式は高さの違う手すりを上下に並べたもので、大人と子ども、あるいは立った姿勢としゃがんだ姿勢の両方を支えたいときに使います。どの姿勢のときに握るのかを思い浮かべて、断面の形から決めてください。
太さは握力と手の大きさに合わせる
握って使う手すりは、太さで握りやすさが決まります。一般に直径32ミリから36ミリ程度が握りやすいといわれ、市販の木製手すりもこの範囲の製品が多く出回っています。太すぎると指が回りきらず、細すぎると手のひらで受け止められずに指先だけで支えることになります。
ただし、この数値は誰にでも当てはまるものではありません。手の小さい方や関節リウマチで指が曲がりにくい方は、細めのほうが握りやすい場合もあります。ショールームや介護用品店で実物を握り、親指と人差し指が軽く重なるくらいの太さを選ぶと手に収まります。可能なら本人に握ってもらってから、業者へ品番を伝えてください。
端部は壁側に曲げて袖の引っかかりを防ぐ
手すりの端を、まっすぐ切りっぱなしのまま出しておくのは避けてください。棒の先が空中に突き出していると、通りすがりに袖口やポケットが引っかかり、そのまま体が引き戻されて転びます。高齢者は袖の広い上着や割烹着を着ていることも多く、引っかかりは実際に起こる事故です。
そこで、端部を壁側へ曲げ込んだ形の部材(エンドブラケット)を使い、先端を壁に向けて納めます。上下に曲げて壁へ戻す納め方でも同じ効果を得られるでしょう。既製品の手すりセットには端部の部材が含まれていることがほとんどですが、現場で長さを切って調整する場合は指定から漏れることもあるため、見積もり書に端部の部材が入っているかを確かめておきましょう。
介護保険の住宅改修で付ける手すり
工事で付ける手すりは、介護保険の住宅改修として費用の一部が戻ります。ここでは、対象になる範囲と、工事不要の手すりとの分かれ目を説明します。
手すりの取付けは対象6種の筆頭
介護保険の住宅改修で認められる工事は6種類あり、手すりの取付けはその筆頭に置かれています。厚生労働省の住宅改修の概要では、住宅改修の種類として(1)手すりの取付け、(2)段差の解消、(3)滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更、(4)引き戸等への扉の取替え、(5)洋式便器等への便器の取替え、(6)その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修が示されています。
支給限度基準額は要介護度にかかわらず20万円で、原則としてひとり生涯20万円までです。この範囲であれば、自己負担割合に応じた額だけを払えば手すりを付けられます。工事の前に申請が要るので、業者に見積もりを頼む前に、まず担当のケアマネジャーへ相談してください。制度の全体像や申請の順番は、介護保険の住宅改修にまとめてあります。
壁の下地補強は付帯工事として対象になりうる
下地補強で費用が上がると聞くと、そこは自費かと不安になります。厚生労働省の解釈通知は、住宅改修に付帯して必要となる住宅改修として、手すりの取付けについて「手すりの取付けのための壁の下地補強」を挙げています。手すりを付けるために必要な下地補強は、6種類目の付帯工事として給付の対象に含まれ得ます。
とはいえ、どこまでを付帯と認めるかは保険者である市区町村が個別に判断し、運用に幅があります。見積もりの段階で下地補強の項目を分けて書いてもらい、事前申請の書類に含めて、保険者の確認を取るのが確実です。壁を壊してクロスを張り替える範囲まで対象になるかも自治体で分かれるので、着工前に必ず確かめておきましょう。
工事不要の手すりは福祉用具貸与に分かれる
同じ手すりでも、床に置く据え置き型や、床と天井で突っ張る突っ張り型は、住宅改修ではなく福祉用具貸与に区分されます。解釈通知でも、住宅改修の手すりの取付けから、貸与の対象になる手すりは除かれると示されています。工事の手すりは買い切りで壁に残り、工事不要の手すりは月額を払って借り、要らなくなれば返せます。
賃貸で壁に穴を開けられない、置き場所をまだ試している、認定を待たずに今日から支えが欲しい、という場合は工事不要の手すりが向きます。逆に、握る位置が決まっていて長く同じ場所で使うなら、壁に固定した手すりのほうが確実です。据え置き型と突っ張り型の選び方は工事不要の介護用手すりにまとめてあるので、両方を見比べてから決めてください。
まとめ
工事で付ける手すりは、転倒予防と立ち座りの補助という2つの役割を持ち、預けた体重を壁と柱へ逃がします。効きを決めるのは手すり本体より壁の下地で、石膏ボードだけの部分に打ったビスは体重で抜けます。柱や間柱の位置を下地探しで確かめ、位置が合わなければ壁の中や表面に補強板を入れてから留めるのが基本の手順です。
場所ごとに支える動作が違うので、廊下は途切れない横手すり、階段は踏面の先端から700ミリから900ミリの高さ、トイレはL型、浴室は動作ごとに複数本、玄関は縦手すりと使い分けます。手すりの取付けは介護保険の住宅改修の対象で、そのための壁の下地補強も付帯工事として認められ得ますが、範囲の判断は市区町村ごとに分かれます。工事の前にケアマネジャーへ相談し、下地の状態を業者に見てもらってから位置を決めましょう。家の中のどこから直すか迷っているなら、バリアフリーリフォームの全体像もあわせて確認してみてください。


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