親の家を安全にしたくて業者に見積もりを頼んだら、総額が思っていた何倍にもなっていた。そんな紙を前にすると、直したい気持ちがあっても手が止まってしまいます。
ただ、その見積もりは「家じゅうを一度に直す」前提で組まれていることがほとんどです。実際に親が転ぶ場所は家の中の数か所に偏っていて、そこだけを押さえるなら数万円で届く工事もあります。工事をせず、福祉用具を借りるだけで済む場面もあります。
フルリフォームか諦めるかの二択で考えるのをやめて、どこから手をつけるかの順番と、使えるお金の道を見ていきましょう。お金が足りないまま何もできずにいる方は、上から順に確かめてみてください。
費用が払えないときの優先順位
見積もりの総額に届かないなら、削るのではなく、どこから使うかを決めるほうが先です。ここでは、限られたお金の使いどころの決め方を説明します。
全部やらずに命に関わる場所から直す
バリアフリーリフォームを家じゅうまとめて直すものと考えると、総額はどうしても膨らみます。ところが親が転ぶ場所は数か所に偏っていて、そこを押さえるだけで大きな事故はかなり減らせるものです。全部を直せないなら、転んだときに大けがになる場所を1か所だけ選び、そこから手をつけてください。
玄関の段差が気になっていても、親が1日に何度も入るトイレのほうが危ないなら、先に直すのはトイレです。順番を決めるときは、そこで転んだら何が起きるかと、1日に何回使うかの2つで見比べます。自分たちだけで決めきれないときは、担当のケアマネジャーに家の中を一緒に歩いてもらい、危ない順に並べてもらうとよいでしょう。
転倒が起きやすい場所は浴室とトイレと階段
家の中で大けがにつながりやすいのは、濡れた床で滑る浴室、夜中に急いで向かうトイレ、そして踏み外すと一気に落ちる階段の3か所です。浴室は浴槽をまたぐ動作と、立ち座りの2つが重なる場所なので、転ぶ場面がとくに多く出てきます。トイレは夜間の暗さと、着衣を下ろすときに片手がふさがる点が重なります。
制度の側もこの3か所を想定しています。厚生労働省の住宅改修の概要と種類では、支給対象となる工事として「手すりの取付け」「段差の解消」「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更」「引き戸等への扉の取替え」「洋式便器等への便器の取替え」が挙げられています。この5つは、そのまま危ない場所への打ち手の一覧として読めます。家の中を見て回るときは、この5つに当てはまる箇所から探してみてください。
手すり一本や滑り止めは数万円で効く
工事と聞くと壁や床をつくり直す話に思えますが、転倒を防ぐ工事の多くは小さな部品を1つ足すだけで足ります。浴槽の横に手すりを1本、階段の壁に手すりを1本、床に滑り止めを1枚。どれも百万円単位の話ではなく、数千円から数万円の幅に収まります。
| 低予算でできること | 費用の幅 | 効く場面 |
|---|---|---|
| 手すりを1本付ける | 数万円 | 浴槽のまたぎ・便器の立ち座り・階段 |
| 床に滑り止めを敷く | 数千円 | 浴室・脱衣所の濡れた床 |
| 人感センサー付きの照明を足す | 数千円〜1万円前後 | 夜中のトイレまでの廊下 |
| 浴槽内にすのこや台を置く | 1万円前後 | 深い浴槽をまたぐとき |
金額はあくまで幅で、部品の種類や壁の下地によって上下します。場所ごとの相場や総額の見当はバリアフリーリフォームの費用相場で確かめられるので、いま手が届く工事があるかどうかを、この幅と見比べてみてください。
見積もりは工事を分けて出してもらう
総額が一式でまとまった見積もりは、どこを削れるかが読めません。業者に頼むときは「浴室の手すり」「トイレの段差」のように場所ごと、工事ごとに金額を分けて出してもらってください。分かれていれば、今年は浴室だけ、来年はトイレ、という進め方も選べるでしょう。
分けて出してもらうと、介護保険の対象になる工事とならない工事の線も見えてきます。工事を分けた見積もりは、諦めるか全部やるかの二択を、今できるところまでやるという第三の道に変えます。一式でしか出せないと言われた場合は、その業者に固執せず、複数社に声をかけて比べたほうが安全です。
工事しないで済ませる選択肢
払えないと感じたとき、そもそも工事が要るのかを先に疑ってみる価値があります。ここでは、介護保険で福祉用具を借りて済ませる道を説明します。
据え置き手すりは借りれば月数百円で使える
壁に打ち付ける手すりの代わりに、床に置いて自重で立つ据え置き型の手すりがあります。工事をしないので大家や管理組合の承諾も要らず、置き場所を変えたり、体の状態が変わったら別の型に替えたりするのも自由でしょう。要介護認定を受けていれば、これを介護保険で借りられる場合があります。
厚生労働省の福祉用具貸与では、手すりやスロープが貸与の対象種目として挙げられ、利用者が負担するのは貸与費用の1割(一定以上の所得がある場合は2割または3割)と示されています。月々の貸与価格が数千円の用具なら、自己負担は月数百円で収まる計算です。工事の見積もりを見て手が止まったなら、まず同じ場所を用具でしのげないかを確かめてみてください。
可搬式スロープは段差を工事なしで越える
玄関の上がり框や部屋の敷居も、置くだけの可搬式スロープで越えられることがあります。持ち運びできる板状のもので、使うときだけ渡し、要らないときは立てかけておけます。段差を削る工事と違って建物に手を入れないため、賃貸でも使えるのが大きな利点です。
ただし、勾配がきついスロープは車椅子だと介助者ひとりでは上げきれず、かえって危ないこともあります。段差の高さに対して十分な長さがあるか、置いたときにずれないかは、実物で確かめる必要があります。福祉用具専門相談員なら家に来て段差を測り、合う長さのものを持ってきてくれるので、通販で選ぶ前に相談してみてください。
借りられるかはケアマネジャーが確かめる
どの用具が借りられるかは、要介護度と体の状態で変わります。手すりやスロープのように要支援でも借りやすい種目がある一方、車椅子や特殊寝台は要支援1・2と要介護1では原則として対象から外れます。この線引きを自己判断で決めると、借りられるはずのものを買ってしまうことになりかねません。
窓口は担当のケアマネジャーです。まだ介護認定を受けていない段階なら、次で触れる地域包括支援センターが入り口になります。「見積もりが払えないので、工事の前に用具で何とかならないか」とそのまま伝えれば、使える種目と自己負担の額を出してもらえるはずです。伝えにくい話に感じても、費用の事情は隠さず先に言ったほうが、合う提案が返ってきます。
工事費を下げる公的な制度
用具でしのげず工事が要ると決まったら、次は自腹で払う額そのものを下げる番です。ここでは、介護保険の住宅改修と自治体の補助を説明します。
介護保険の住宅改修は20万円まで支給される
要介護・要支援の認定を受けていれば、住まいを直す工事に介護保険から支給が受けられます。厚生労働省の住宅改修の概要と種類では、住宅改修費の9割相当額が償還払いで支給され、支給額は支給限度基準額である20万円の9割にあたる18万円が上限と示されています。所得によって負担割合は変わるため、実際に戻る額は担当窓口で確かめてください。
同じ資料には、20万円の枠が「要支援、要介護区分にかかわらず定額」で、ひとり生涯20万円までであることも書かれています。要介護状態区分が3段階上がったときや転居したときには、あらためて20万円の枠が設定される決まりです。枠の使い方や2回目の扱いは介護保険の住宅改修で詳しく確かめられます。
支給を受けるには工事の前に申請する
この制度でいちばん多い取りこぼしが、工事を先に済ませてしまうことです。厚生労働省の資料が示す流れは、ケアマネジャー等に相談し、支給申請書・住宅改修が必要な理由書・工事費見積もり書などを保険者へ出し、確認を受けてから施工に入る順番になっています。先に工事を終えてしまうと、対象の工事でも支給を受けられないおそれがあります。
工事が終わったあとは、領収書や工事費内訳書、改修前後の写真を出して正式な支給申請をします。やむを得ない事情がある場合に工事後の申請が認められる余地は残されていますが、それを当てにするのは危ない賭けです。見積もりを取った時点で、着工前に担当のケアマネジャーへ連絡してください。
負担割合、償還払いか受領委任払いか、必要な書類の細部は、市区町村ごとに運用が違います。この記事の内容だけで判断せず、着工前に必ずお住まいの市区町村の介護保険担当窓口か、担当のケアマネジャーに確かめてください。
自治体の補助金は介護保険に上乗せできる
介護保険の20万円で足りない分を、市区町村独自の助成で埋められることがあります。高齢者住宅改修費助成、住宅改造助成といった名前で、介護保険の枠を使い切ったあとの自己負担部分を対象にする自治体が少なくありません。所得の要件が付いていたり、年度ごとの予算枠が尽きたら締め切られたりする点は共通しています。
探し方は、市区町村の高齢福祉課へ電話して「介護保険の住宅改修に上乗せできる助成はあるか」と聞くのがいちばん早い方法です。ホームページを探し回るより、窓口に一度聞いてしまったほうが正確な答えが返ってきます。介護保険と併用できるかは自治体によって扱いが分かれるので、併用の可否もその場で確かめておきましょう。
分割して払うときの借入
制度を使ってもまとまった持ち出しが残るなら、借りて分けて払う道が候補に入ります。ここでは、リフォームローンを検討するときの勘所を説明します。
リフォームローンは無担保で借りられる
金融機関のリフォームローンには、家を担保に入れる有担保型と、担保を取らない無担保型があります。バリアフリー工事のように数十万円から百万円台で収まる工事なら、手続きが軽く審査も早い無担保型を選ぶ方が多いでしょう。金利は住宅ローンより高くつく代わりに、抵当権の設定が要らず、借入までの日数が短く済みます。
金融機関によっては、バリアフリー工事や介護向けの改修に金利を引き下げる商品を出しているところもあります。工事の内容を証明する見積書の提出が条件になることが多いので、業者から書類をもらう段階で使えそうな商品を探しておいてください。種類ごとの違いや選ぶときの物差しはリフォームローンの種類と選び方で確かめてください。
高齢の親本人は審査が通りにくい
ここは正直に書いておきます。年金収入だけの高齢者本人がローンを申し込むと、完済時年齢の上限や返済原資の面で審査が通らないことが珍しくありません。「親の家の工事なのだから親が借りればいい」と考えて申し込み、断られてから慌てるケースが実際にあります。
現実的な手は、収入のある子が契約者になって借りるか、親子リレー返済のような親子で組む商品を使うかのどちらかです。ただし子が親の家の工事費を出すと、金額によっては贈与とみなされる扱いが出てくるため、大きな額を動かす前に税務署や税理士に確かめておくほうが安全です。借りる前に、誰の名義で、誰が返すのかを家族で決めておきましょう。
生活が苦しいときに使える貸付と相談
工事費の前に毎月の暮らしが立たない状況なら、話す相手は業者ではありません。ここでは、公的な貸付と無料で相談できる窓口を説明します。
生活福祉資金貸付制度は社会福祉協議会が窓口
低所得の世帯や高齢者世帯に向けて、都道府県の社会福祉協議会がお金を貸す仕組みがあります。厚生労働省の生活福祉資金貸付条件等一覧では、福祉費の資金の用途として「住宅の増改築、補修等及び公営住宅の譲り受けに必要な経費」が挙げられ、福祉費の貸付上限は「580万円以内」と示されています。用途ごとに上限の目安額が決まる仕組みです。
利子は同じ資料に「保証人あり 無利子、保証人なし 年1.5%」と示されており、民間のローンよりかなり低い水準に抑えられています。相談も申し込みも、住んでいる市区町村の社会福祉協議会が受け付けます。世帯の収入や資産の要件があるため、借りられるかどうかは窓口で確かめる必要がありますが、金融機関で断られたあとでも道が残っている点は覚えておいてください。
生活困窮者自立支援制度で家計から見直す
リフォーム費用を工面できないという困りごとの下に、毎月の家計が回っていないという事情が隠れていることがあります。その場合に頼れるのが、市区町村が窓口になる生活困窮者自立支援制度です。厚生労働省の生活困窮者自立支援制度の概要では、家計改善支援事業が制度の柱の1つとして位置づけられています。
家計の収支を一緒に洗い出し、公共料金や保険の払い方から見直したうえで、使える給付や貸付につないでもらえます。「リフォームの相談ではないから場違いでは」と遠慮しがちですが、暮らしのお金全体の相談を受ける窓口なので、住まいの安全に困っている話をそのまま持ち込んで構いません。市区町村の福祉担当課に「自立相談支援の窓口につないでほしい」と伝えるところから始めてみてください。
地域包括支援センターは無料で相談できる
どこに聞けばいいか分からないときの最初の一歩は、地域包括支援センターです。厚生労働省の地域包括支援センターの概要では、「地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的」とする機関で、市町村が設置していると示されています。相談は無料で、介護認定をまだ受けていない段階でも使えるのが利点です。
親の住まいの担当エリアにあるセンターが窓口になるので、市区町村のホームページか役所の高齢福祉課に電話すれば場所を教えてもらえます。「工事費が払えないが親の家が危ない」とそのまま伝えれば、用具・制度・相談窓口のどれが合うかを一緒に選んでもらえるはずです。家族だけで抱え込んで動けなくなる前に、まずここへ電話してみましょう。
まとめ
バリアフリーリフォームの費用が払えないときは、家じゅうを直す前提を先に捨ててください。転んだら大けがになる場所を1か所選び、手すり1本や滑り止めのように数千円から数万円で効く工事から手をつければ、諦めずに済みます。見積もりは工事ごとに分けて出してもらうと、今できる範囲が見えてきます。
工事の前に、据え置き手すりや可搬式スロープを介護保険で借りて済ませられないかを確かめる手も残っています。工事が要ると決まったら、介護保険の住宅改修は着工前の申請が要る点に気をつけ、自治体の上乗せ助成も高齢福祉課に聞いてみましょう。それでも足りなければリフォームローンや生活福祉資金貸付制度が候補になりますが、要件や運用は自治体と金融機関で分かれます。動く前に地域包括支援センターかケアマネジャーに一度話を通し、使える制度を確かめてから業者に返事をしてください。制度の枠と手続きの全体像は介護保険の住宅改修もあわせて役立ててください。


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