キッチンのバリアフリーリフォーム|高さ・立ち仕事の負担・IH化

リフォームで直す

親が台所に立つ姿を見て、そろそろ危ないのではと感じる場面が増えてきます。腰をかばいながら鍋を運んだり、コンロの火を消し忘れたりする様子を見ると、もう料理はやめてほしいと言いたくなるものです。

ただ、台所は本人にとって長く担ってきた持ち場でもあります。危ないからと取り上げてしまうと、家の中でやることが減り、気力まで落ちてしまうことがあります。キッチンのリフォームは、危険を減らすためだけでなく、本人が料理を続けられるようにするための工事です。

そこで、天板の高さや立ち仕事の負担、コンロのIH化、水栓や収納の入替え、車椅子で使うときの条件までをまとめました。介護保険の住宅改修で対象になる工事とならない工事の線引きも合わせて説明するので、どこから直すかを決める手がかりにしてください。

キッチンのバリアフリーリフォームの目的

キッチンは、家の中でも「危険を減らす」と「本人にやってもらう」がぶつかりやすい場所です。ここでは、何を守るために直すのかを最初に確かめておきます。

料理を続けることが本人の役割を守る

台所は、家族の食事を作るという役割がはっきり残っている場所です。歩くのが不安になり、外出や庭仕事から遠ざかっても、台所に立てば献立を考え、包丁を持ち、家族に出すところまで自分でやりきれます。キッチンのリフォームは、転倒を防ぐ工事であると同時に、本人が家の中で担う持ち場を残すための工事です。

浴室やトイレは、体を安全に運べれば目的が果たせます。台所はそこが違い、安全になっても本人が使えなくなれば、直した意味が薄れてしまいます。工事の内容を決めるときは、危ない場所をつぶす発想だけでなく、どうすれば本人が今までどおり料理を続けられるかという見方を先に置いてください。家全体の進め方から確かめたい方は、バリアフリーリフォームの全体像もあわせて読んでおくと迷いにくくなります。

危ないからと取り上げると生活の張りが落ちる

火や刃物を扱う場所なので、家族が心配して料理を代わってしまうことはよくあります。ところが、台所を離れた本人にとっては、一日のうちで体を動かす時間と、頭を使う時間が同時に減ることになります。献立を考えて手順を組み立てる作業は、それ自体が生活の張りを保つ働きをしてきました。

家族が代わるのは、事故が起きてからでは遅いという不安から出る自然な反応でしょう。ただ、代わる前に直せる場所が残っていることも多くあります。立っているのがつらいなら座れる場所を作り、火が不安ならIHに替えるという手が先にあります。取り上げる判断をする前に、工事でどこまで支えられるかを一度確かめてみてください。

直す場所は本人の困りごとから決める

どこを直すかは、家族が外から見て危ないと思った場所より、本人が実際に困っている場所から決めるほうが外れません。家族の目には火の消し忘れがいちばん怖く映っていても、本人にとっては立ちっぱなしの腰の痛みや、奥の棚に手が届かないことのほうが毎日こたえている場合があります。

本人に「どこがいちばんしんどいか」を聞き、実際に台所に立ってもらって、どの動作で手が止まるかを一緒に見ておきましょう。鍋を持ち上げる、しゃがんで鍋を出す、蛇口をひねるといった動作のうち、時間がかかっているものが直す候補になります。困っている本人の声を先に拾ってから、次に挙げる工事の中身を検討してください。

調理台の高さと立ち仕事の負担

台所の負担は、天板の高さが体に合っているかどうかで大きく変わります。ここでは、高さの合わせ方と、座って作業できるようにする方法を説明します。

天板が低いと腰に負担がかかる

天板が体に対して低いと、包丁を使うたびに前かがみになり、腰に負担が集中します。若いころに建てた家のキッチンは、当時の身長や体力に合わせて選ばれていることが多く、背中が丸くなってきた今の体には合っていません。前かがみのまま20分立てば、腰痛が出て台所を離れる理由になってしまいます。

低い天板は、まな板を厚くしたり、調理台の上に台を置いたりして応急的に上げられることもあります。ただ、シンクや加熱機器まで含めて高さがずれているなら、天板ごと交換するほうが根本から楽になるでしょう。今の高さで腰が痛むかどうかは本人にしか分からないので、実際に包丁を使う姿勢で確かめてもらってください。

天板が高いと肩が上がって力が入らない

反対に天板が高すぎると、肘と肩が上がったまま作業することになり、腕に力が入りません。肩が上がった姿勢では鍋を持つ手元が不安定になり、熱い中身をこぼす危険が増えます。高い位置の作業は、握力や腕の力が落ちてきた方ほどこたえるものです。

天板の高さは、本人が実際に立って包丁を使い、肩が上がらず腰も曲がらない位置を探して決めてください。カタログには身長から計算する式が載っていますが、背中の丸まり方や靴の有無で適した高さは変わります。ショールームで高さ違いの天板を試せる場合が多いので、本人を連れて行き、その場で作業する姿勢を見てもらうと失敗を防げます。

座って作業できるスペースを作る

長く立っていられなくなってきたら、座ったまま調理できる場所を用意する手があります。シンクや加熱機器の下を空けて椅子ごと入れるようにすれば、腰かけたまま野菜を切り、洗い物まで済ませられるはずです。立ち仕事を全部やめるのではなく、疲れたら座れる場所が一角にあるだけでも、台所にいられる時間は延びます。

国土交通省の高齢者が住む住宅の設計に係る指針では、住宅の改修にあたって、福祉用具等の使用に必要な空間の確保として、車椅子使用者を考慮した什器下の空間の確保が挙げられています。椅子を使う場合も考え方は同じで、膝と足先が入る奥行きがなければ、体が天板から離れて手が届きません。座って使う場所を作るなら、実際に使う椅子を持ち込んで、膝が当たらないかを工事の前に確かめておきましょう。

コンロのIH化と火の不安

火の消し忘れや着衣着火の心配は、キッチンで家族がいちばん気にする点です。ここでは、IHに替える判断と、ガスを残す場合の備えを説明します。

IHは火を使わず消し忘れの不安を減らす

IHクッキングヒーター(電磁調理器)は炎が出ないため、袖口に火が移る着衣着火が起きません。消し忘れても一定時間で自動的に切れる機種が多く、鍋を外すと加熱が止まる仕組みもあります。天板が平らなので、重い鍋を持ち上げずに横へすべらせて動かせる点も、腕の力が落ちてきた方には楽になります。

国土交通省の指針では、住戸内の給水給湯設備、電気設備及びガス設備について、高齢者が安心して使用できる安全装置の備わった調理器具設備等を使用する等、安全性に配慮したものであるとともに、操作が容易なものであることが求められています。ただしIHは鍋を選び、土鍋や一部のアルミ鍋がそのまま使えません。長年使ってきた鍋を手放すことになる方もいるので、入替えの前に手持ちの鍋が使えるかを本人と一緒に確かめてください。

ガスを残すなら検知器と警報器で備える

炎で調理したいという本人の希望が強ければ、ガスを残したまま安全側を足す方法もあります。国土交通省の指針では、ガス漏れ検知器等及び火災警報器が、高齢者が主に使用する台所に設けられていることが基本の要件として示されており、推奨レベルではこれに自動消火装置又はスプリンクラーを加えることが挙げられています。立ち消え安全装置や消し忘れ消火機能の付いたコンロに替えるだけでも、危険はかなり減らせます。

袖口に火が移るのを防ぐには、機器だけでなく着るものも効きます。調理のときは腕にぴったり沿う袖にする、火の近くに手を伸ばして奥の物を取らないといった習慣を、家族から本人に伝えておきましょう。ガスを残すか替えるかは本人の意向が大きいので、危険だから替えると押し切らず、備えを足す道もある前提で話してください。

注意

IHへの入替えは、台所の電気容量が足りているかどうかで工事の内容と費用が変わります。分電盤から専用の回路を引く必要がある場合や、契約アンペアの変更が要る場合があるので、機種を決める前に業者に現地を見てもらってください。

手を伸ばさずに使える水栓・収納・照明

台所の負担は、加熱機器や天板だけでなく、蛇口や棚といった細かい部分にも溜まっています。ここでは、力を使わず手を伸ばさずに使えるようにする工事を説明します。

シングルレバー水栓は片手でひねらず出せる

ハンドルを回して開ける古い水栓は、握力が落ちると回しにくくなり、濡れた手ではなおさら滑ります。レバーを上下させるだけで出せるシングルレバー水栓なら、手首をひねらずに済み、握力がなくても肘や手の甲で操作できるでしょう。湯温を一つのレバーで決められるので、熱湯が急に出るのを防ぐ働きもあります。

国土交通省の指針が求める「操作が容易なもの」に当てはまる入替えなので、天板を替えるほどの工事にならなくても検討する値打ちがあります。センサーで水が出るタッチレス水栓もありますが、手をかざす位置に慣れが要り、高齢の本人が使いにくいと感じる場合もあるでしょう。ショールームで実際にレバーを動かしてもらい、本人の手で無理なく操作できるかを確かめてから選んでください。

引き出し式収納はかがまず取り出せる

観音開きの扉が付いた収納は、奥の鍋を出すためにしゃがみ込み、体をひねって手を伸ばす動きが要ります。引き出し式に替えると、手前に引くだけで中身が全部見え、しゃがまずに取り出せます。膝や腰が痛む方にとっては、鍋を出すという最初の一手が楽になるだけで、料理を始める気になれるものです。

頭の上の吊り戸棚も、背伸びして手を伸ばす動きが転倒につながる場所です。手前に降りてくる昇降式の吊り戸棚に替えるか、そもそも使う物を腰から胸の高さに集めてしまう手もあります。工事に踏み切る前に、よく使う物だけを取りやすい高さへ移してみて、それで足りるかどうかを試してみましょう。

照明は手元まで明るくする

年を重ねると、同じ明るさの部屋でも若いころより暗く見え、包丁の刃先や鍋の中身が見分けにくくなります。天井の照明だけでは体が影を作り、手元がかえって暗くなることも多くあります。国土交通省の指針でも、住戸内の照明設備が、安全上必要な箇所に設置されているとともに、十分な照度を確保できるものであることが求められています。

吊り戸棚の下に手元灯を付ける工事なら、大がかりにならず、その日のうちに終わります。床材を滑りにくいものへ替える工事と合わせておくと、水がはねた場所も見えて足元の危険が減ります。まず夕方の時間帯に台所へ立ってもらい、手元がどのくらい見えているかを本人に確かめてもらってください。

車椅子で使うキッチンの条件

車椅子で台所に入る場合は、立って使う場合とは必要な条件が変わります。ここでは、押さえておきたい点と、既存のキッチンで直せる限界を説明します。

膝下の空きがないと正面に入れない

車椅子で調理するには、シンクや天板の下に膝と足先が収まる空間が要ります。国土交通省の指針でも、車椅子使用者を考慮した什器下の空間の確保が、福祉用具等の使用に必要な空間として挙げられています。この空きがないと、体が天板から離れた斜めの姿勢でしか作業できず、鍋の中身を見るのも手を伸ばすのも難しくなります。

一般の流し台は、下部が収納になっていて足元が塞がっています。車椅子で使うなら、その収納を外して膝下を開けるか、足元が空いた型のキッチンに入れ替えることになります。立って使うキッチンをそのまま低くするだけでは、車椅子で正面に入れるようにはなりません。

天板の高さとシンクの深さは立って使う場合と変わる

座った姿勢では肘の位置が下がるので、立って使うときより天板を低くすることになります。同時に、天板を低くしすぎると膝が当たって入れなくなるため、膝の高さと肘の高さの両方が収まる範囲を探すことになるでしょう。使う車椅子の座面高やアームレストの形でも変わるので、本人の車椅子を実際に入れて測る必要があります。

シンクも、深いままだと底が遠くなり、座ったまま洗い物ができません。浅い型に替えるか、水栓を手前に寄せる工夫が要ります。廊下幅やスロープの勾配まで含めた寸法の目安は、車椅子対応にするときの基準にまとめてあるので、そちらを見ながら業者と詰めてください。

既存のキッチンは構造の制約で広げられないことがある

新築なら自由に取れる寸法も、今住んでいる家では取れないことがあります。車椅子が回れるだけの広さを確保しようとしたら、抜けない壁が邪魔をして諦めるという場面は珍しくありません。国土交通省の指針でも、住宅の改修を検討する場合には、改修する住宅の構造による制約が生じることに留意するよう示されています。

思ったとおりに広げられないと分かったときは、台所全体を車椅子対応にする方針をやめて、座って使える一角だけを作るという落としどころもあります。どこまで直せるかは家の造りを見ないと分からないので、間取り図を持って業者に相談し、できる範囲を先に聞いてから予算を組みましょう。

キッチンと介護保険の住宅改修

キッチンの工事は介護保険で安くなると思われがちですが、対象になる範囲は限られています。ここでは、対象になる工事とならない工事の線引きを見ていきます。

住宅改修の対象は6種類に決まっている

介護保険の住宅改修は、何にでも使えるわけではなく、対象になる工事の種類があらかじめ決められています。厚生労働省の住宅改修についての資料では、住宅改修の種類として、手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更、引き戸等への扉の取替え、洋式便器等への便器の取替え、これらに付帯して必要となる住宅改修の6つが示されています。

支給限度基準額は要介護度にかかわらず20万円で、実際の費用のうち9割相当額が償還払いで支給される仕組みです。工事の前に申請書と理由書を出す事前申請が原則なので、着工してから申し込んでも間に合いません。対象になるのは工事の中身であって、キッチンという場所ではありません。

キッチン本体の入替えは対象にならない

6種類の中に、設備そのものの入替えは含まれていません。天板を高さの合うものに替える、コンロをIHに替える、水栓をシングルレバーに替える、吊り戸棚を昇降式にするといった工事は、どれも介護保険の住宅改修には当たらず、自費になります。便器の取替えだけが名指しで対象になっているので、水回りなら何でも通ると誤解されやすい点に気をつけてください。

対象外だと分かって落胆する方は多いのですが、別の制度が残っている場合があります。自治体が独自に持つ助成や、所得税・固定資産税の減税が使えることもあるので、介護保険で無理だと分かった時点で終わりにせず、市区町村の窓口で使える制度がないかを聞いてみましょう。

床材の変更と引き戸への取替えは対象になりうる

同じ台所の工事でも、6種類に当てはまる部分は対象になります。水がはねて滑りやすくなった床を滑りにくい材料に替える工事は「床又は通路面の材料の変更」に当たり、台所の入口の開き戸を引き戸に替える工事は「引き戸等への扉の取替え」に当たります。台所と廊下の間の段差を解消する工事や、立ち座りのための手すりの取付けも同じです。

工事内容ごとの扱いを、下の表にまとめました。

工事の内容 住宅改修の対象 補足
天板の高さの変更・キッチン本体の交換 対象外 設備の入替えは6種類に含まれない
コンロのIH化 対象外 同上。電気工事が必要な場合あり
水栓のシングルレバー化 対象外 同上
引き出し式収納・昇降式吊り戸棚への交換 対象外 同上
台所の床を滑りにくい材料へ変更 対象になりうる 床又は通路面の材料の変更に当たる
台所の開き戸を引き戸へ取替え 対象になりうる 引き戸等への扉の取替えに当たる
台所と廊下の段差の解消 対象になりうる 段差の解消に当たる
立ち座りのための手すりの取付け 対象になりうる 手すりの取付けに当たる

対象かどうかはケアマネジャーに先に確かめる

対象になりうる工事でも、実際に支給されるかどうかは本人の状態と自治体の判断で変わります。同じ床材の変更でも、本人が台所で滑って転ぶ危険があると理由書で示せなければ通らないことがあり、運用の細かい部分は市区町村ごとに違います。自己流で判断して工事を進めると、事前申請が抜けて全額自費になりかねません。

キッチンを直すと決めたら、業者に見積もりを頼むより先に、担当のケアマネジャーへ相談してください。対象になる部分とならない部分を分けて見積もってもらえば、どこまで保険が使えるかがはっきりします。ケアマネジャーが付いていない場合は、地域包括支援センターに問い合わせるところから始めましょう。

まとめ

キッチンのバリアフリーリフォームは、危険を減らす工事であると同時に、本人が料理を続けられるようにする工事です。天板の高さを体に合わせ、疲れたら座れる場所を作り、コンロをIHに替えれば、腰の痛みや火の不安を減らしたまま台所に立ち続けられます。水栓や引き出し式収納、手元の照明といった細かい入替えも、毎日の負担を確実に軽くします。

車椅子で使うなら、膝下の空きや天板の高さの条件が変わり、家の造りによっては広げられないこともあります。介護保険の住宅改修で対象になるのは6種類の工事なので、キッチン本体の入替えは自費、床材の変更や引き戸への取替えは対象になりうるという線引きになります。工事の内容を決める前に、本人にどこがしんどいかを聞き、ケアマネジャーに対象の範囲を確かめてから業者へ話を持っていってください。家全体でどこから手をつけるかを見比べたいときは、バリアフリーリフォームの進め方もあわせて役立ててください。

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