車椅子で暮らす家の設計|必要な寸法と各部屋の考え方

建てる・住み替える

家族が車椅子を使うようになると、これまで不便なく暮らせていた家が急に狭くなります。廊下の角は曲がれず、トイレの戸は通らず、洗面台には正面から近づけない。そんな詰まりが、あちこちで一度に出てきます。

車椅子で暮らす家は、まっすぐ通る幅、向きを変える広さ、座ったまま手が届く高さの3つがそろってはじめて動けます。どれか1つでも欠けると、ほかをいくら広げても生活は回りません。ところが、どこを何ミリにすればよいのかは、住宅のカタログを見てもまず書いていないものです。

そこで、国土交通省が示す寸法の目安をもとに、幅と回転スペースと高さの決め方、玄関からトイレ・浴室・キッチン・寝室までの部屋ごとの考え方をまとめました。これから家を建てる方も、いまの家を直す方も、寸法を決めるときの手がかりとして役立ててください。

車椅子で暮らす家の寸法の考え方

車椅子の寸法は乗る方の体格と車椅子の型で変わるため、前提をそろえないと必要な数字が決まりません。ここでは、部屋別の話に入る前に押さえておきたい3つの前提を見ていきます。

必要な寸法は自走式か介助式かで変わる

最初に決めたいのは、自走式と介助式のどちらを主に使うのかという点です。自走式は乗った方が自分でハンドリム(車輪の外側についた輪)を回して進むため、車輪の外側に手を動かす余地が要ります。介助式は後ろから押してもらう前提で車輪が小さく、本体の幅そのものは自走式より狭く収まる型が多く出回っています。

同じ廊下でも、自走式なら手が壁に当たらない幅が要り、介助式なら押す方が後ろに立つ奥行きが要ります。必要な寸法は、本体の幅だけを測っても決まらないわけです。寸法を決める前に、自走式か介助式か、そして誰がどこで押すのかを先に決めてください。どちらの型が合うか迷っている段階なら、車椅子の選び方で違いを確かめてから寸法の話に戻ると進めやすくなります。

寸法の目安は国の指針に基本と推奨の2段がある

家の寸法には、国が示している目安があります。国土交通省の高齢者が居住する住宅の設計に係る指針では、加齢で身体の機能が低下しても住み続けられるよう、通路や出入口、便所、浴室などの寸法が「基本レベル」と「推奨レベル」の2段に分けて示されています。基本レベルは最低限そろえたい線、推奨レベルは介助用車椅子を使う場面まで見込んだ線にあたります。

車椅子で暮らす家なら、目指すのは推奨レベルのほうでしょう。ただし指針の数値は介助用車椅子の使用を想定した一般的な目安であって、すべての車椅子と体格に当てはまる保証はありません。数値はあくまで出発点として受け取り、最後は実際に使う車椅子を持ち込んで通れるかどうかを確かめるのが確実です。

屋内用と屋外用の車椅子を分けて使う

部屋の寸法を詰める前に、車椅子を屋内用と屋外用で分けられないかも考えてみてください。外を走ったタイヤをそのまま家に上げると床が汚れ、玄関で拭く手間が毎回かかります。屋内用を別に持てば、床を汚さずに済むうえ、小回りのきく細身の型を選んで廊下の幅を抑えられることもあるでしょう。

2台を置くなら、玄関の周りに保管の場所が要るため、家全体の広さと相談になります。1台で通すなら、外用のタイヤ幅と、泥や砂に耐えられる床材を前提に寸法を組むことになるでしょう。どちらを取るかで玄関に要る広さが変わるので、間取りを描き始める前に決めておきたいところです。

指針が示す基本レベルと推奨レベルの寸法を、下の表にまとめました。

部位 基本レベル 推奨レベル
通路の有効幅員 780ミリ以上(柱等は750ミリ) 850ミリ以上(柱等は800ミリ)
出入口の幅員 750ミリ以上(浴室は600ミリ) 800ミリ以上
便所 長辺1,300ミリ以上、または便器と壁の距離500ミリ以上 短辺1,300ミリ以上、または便器先端までの距離+500ミリ
浴室(一戸建て) 短辺1,300ミリ以上・面積2.0平方メートル以上 短辺1,400ミリ以上・面積2.5平方メートル以上
特定寝室の面積 9平方メートル以上 12平方メートル以上
注意

指針が示す寸法は、介助用車椅子の使用を想定した一般的な目安です。車椅子の幅も乗る方の体格も一台ずつ違うため、この数値どおりに作れば必ず通れるとは限りません。図面を確定する前に、実際に使う車椅子の全幅と全長を測り、リハビリの担当者や福祉用具専門相談員に動きを見てもらってください。

車椅子が通る幅と回転スペース

車椅子が家の中を動けるかどうかは、まっすぐ通る幅と、向きを変える広さの2つで決まります。ここでは、廊下と出入口と回転スペースの目安を順に見ていきます。

廊下の有効幅は850ミリを目安にする

廊下は、壁から壁までの寸法ではなく、実際に通行に使える有効幅で考えます。指針の基本レベルでは、日常生活空間内の通路の有効幅員は780ミリ以上(柱等の箇所は750ミリ以上)とされています。推奨レベルになると、これが850ミリ以上(柱等の箇所は800ミリ以上)に上がります。

車椅子で暮らす家なら、廊下は推奨レベルの850ミリ以上から考え始めてください。壁の仕上げや幅木の厚みのぶんだけ、図面上の柱の芯から芯までの寸法より有効幅は狭くなります。工務店や建築士に希望を伝えるときは「廊下は1メートル」ではなく「有効幅850ミリ以上」と、有効幅で指定すると行き違いを防げるでしょう。

出入口は引き戸にして有効幅800ミリを確保する

出入口は、戸を開けたときに実際に通れる幅で測ります。指針の推奨レベルでは、日常生活空間内の出入口の幅員は800ミリ以上とされ、玄関と浴室の出入口については、開き戸なら建具の厚み、引き戸なら引き残しを勘案した通行上有効な幅で見ることが示されています。基本レベルでは750ミリ以上(浴室の出入口は600ミリ以上)です。

開き戸は、開けるときに車椅子が後ろへ下がらなければならず、狭い廊下では動きが取れなくなります。引き戸なら手前に下がらずに開けられ、開けた戸が通路をふさぐこともありません。車椅子で通る戸は引き戸を基本にして、引き残しを差し引いても800ミリ以上の有効幅が残るかを図面で確かめておきましょう。

方向転換には150センチ角の回転スペースが要る

まっすぐ通れても、向きを変えられなければ行き止まりと同じです。国土交通省の高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準では、車椅子の転回に支障がない場所として、360度回転できる150センチ角の部分や、180度回転できる幅140センチ・奥行170センチ程度のスペースが挙げられています。

この標準は住宅ではなく、不特定多数の方が使う建物に向けたものです。とはいえ、車椅子が回るのに要る広さそのものは家の中でも変わりません。廊下の突き当たり、戸の前、部屋の中央など「向きを変える場所」を先に決め、そこに150センチ角が取れるかどうかを図面に書き込んでみてください。

曲がり角は廊下と出入口の組み合わせで詰まる

家の中で最初に詰まるのは、まっすぐな廊下ではなく曲がり角です。廊下から直角に折れて戸へ入る場面では、車椅子は向きを変えながら進むため、廊下の幅と戸の有効幅が別々に足りていても通り抜けられないことがあります。廊下が850ミリぎりぎりのまま90度曲がって800ミリの戸へ入る動きは、かなり窮屈になるでしょう。

手は2つあります。1つは戸の前だけ廊下を広げて回れる空きを作ること。もう1つは、廊下から直進して入れる位置に戸を置き、曲がる動作そのものをなくすことです。動線の描き方はバリアフリー住宅の間取りでも扱っているので、角の多い間取りになりそうなら早い段階で見直しておいてください。

車椅子に合う高さと膝下の空き

座ったまま暮らす家では、幅と同じくらい高さが効いてきます。ここでは、台の高さと膝が入る空き、そして手が届く高さの決め方を見ていきます。

テーブルとカウンターは膝が入る高さに合わせる

車椅子で使う台は、天板の高さだけでなく、下に膝と肘掛けが入るかどうかで使えるかが決まります。天板が低すぎると肘掛けがぶつかって近づけず、高すぎれば手が届きません。この標準でも、カウンターは車椅子使用者の膝が入るよう下部の空きを確保することが望ましいと示されています。

適した高さは、乗る方の座面の高さと肘掛けの高さで変わるため、一律の正解はありません。実際に使う車椅子で台に近づき、膝が当たらずに天板の下へ入るか、肘が自然に載る高さかを確かめてから決めてください。家具を先に買ってしまわず、寸法を測ってから選ぶ順番にすると失敗が減ります。

洗面台は下部を空けて座ったまま使う

洗面台は、車椅子で正面から近づけるかどうかで使い勝手が大きく変わります。よくある収納つきの洗面化粧台は、下が扉と棚で埋まっているため、車椅子では横づけしかできず、腕を伸ばして使う姿勢になります。この標準では、洗面器の下部に車椅子で膝が入るスペースを設ける例も示されています。

下部を空けると収納は減るので、洗面所のどこかに棚を移す必要が出てくるでしょう。鏡の位置も、立った方の目線に合わせたままでは座ったときに顔が映りません。洗面台を選ぶときは、下部が空いた型があるかをメーカーに確認し、鏡の下端の高さもあわせて指定しておきましょう。

コンセントは40センチ、スイッチは110センチに置く

座ったまま手が届くかどうかは、コンセントとスイッチの高さで決まります。この標準では、床から中心までの高さで、コンセントは40センチ程度、スイッチ類は110センチ程度(ベッド周辺では80〜90センチ程度)とすることが望ましいと示されています。一般的な住宅のコンセントは床から25センチ前後に付くことが多く、座ったまま抜き差しするにはかなり低い位置です。

コンセントを高めに付けておくと、掃除機や充電器の抜き差しのたびにかがまずに済みます。スイッチは、立って使う家族と座って使う本人の両方が届く高さに寄せると、付け替えずに共用できるでしょう。高さは工事のあとで直しにくい部分なので、電気配線の打ち合わせの段階で一覧にして渡してください。

玄関と屋外からのアプローチ

家の中の寸法が足りていても、玄関で上がれなければ暮らしは始まりません。ここでは、スロープの勾配と、玄関に要る広さを見ていきます。

スロープの勾配は1/12以下に抑える

道路から玄関までの高低差は、段ではなくスロープで越えるのが基本です。この標準では、傾斜路の勾配を1/12以下(段の高さが16センチ以下の場合は1/8以下)とし、屋外では雨天時などを考慮して1/15以下が望ましいとされています。あわせて、有効幅員は原則120センチ以上、高さ75センチ以内ごとに150センチ以上の水平な踊場を設けることが望ましいとされます。

1/12は、高さ10センチ上がるのに120センチの長さが要る計算で、思っているより長い距離を食います。玄関の土間まで45センチの高低差があれば、1/12でも5メートル40センチのスロープが要る計算です。スロープは勾配と距離がセットなので、高低差を測ってから、必要な長さが敷地に取れるかを先に確かめてください。敷地が足りなければ、途中で折り返す、段を併設する、昇降機を使うといった手が候補に入ります。

玄関に車椅子を乗り換える広さを取る

屋内用と屋外用を分けるなら、玄関は乗り換えの場所になります。2台を並べて横づけし、体を移す動きが入るため、上がりがまちの前に回転できる空きが要ります。150センチ角が取れると、向きを変えて乗り換えるところまで無理なく収まるでしょう。

土間と床の段差は、スロープや式台で越えるか、床と土間の高低差そのものを詰めて解消します。車椅子を置く場所、靴を履く場所、介助する方が立つ場所を、間取りの段階で玄関に描き分けておいてください。玄関が狭いまま完成してしまうと、あとから広げるのが家の中でもっとも難しい場所になります。

トイレと浴室の寸法

水まわりは、車椅子から便器や浴槽へ体を移す動きが入るぶん、通る幅だけでは足りません。ここでは、トイレと浴室に要る広さと、段差の扱いを見ていきます。

トイレは便器の側方に介助スペースを取る

トイレで要るのは、便器に座る広さではなく、車椅子を寄せて体を移す広さです。指針の基本レベルでは、便所の長辺が内法寸法で1,300ミリ以上あるか、便器の前方または側方について便器と壁の距離が500ミリ以上あることが求められます。推奨レベルでは、便所の短辺が内法寸法で1,300ミリ以上、または便器後方の壁から便器の先端までの距離に500ミリを加えた値以上とされています。

車椅子から便器へ横向きに移る(移乗する)なら、寄せる側に車椅子1台ぶんの空きが要ります。介助する方が一緒に入るなら、その立ち位置のぶんも足さなければなりません。必要な広さは便器の向きと戸の位置で変わるので、どちら側から移るのかを決めてから寸法を出しましょう。

浴室は短辺1,400ミリ以上で移乗しやすくなる

浴室では、洗い場で車椅子やシャワーチェアから浴槽へ移る動きが入ります。指針の基本レベルでは、一戸建ての浴室の短辺は内法寸法で1,300ミリ以上、面積は2.0平方メートル以上です。推奨レベルになると、短辺は内法寸法で1,400ミリ以上、面積は2.5平方メートル以上に上がります。

短辺が広がると、浴槽の横にシャワーチェアを置いて座ったまま移れるようになります。狭い浴室では、体を回す途中で壁に当たり、介助する方が一緒に入ることもできません。浴室のサイズは0.75坪や1坪といった規格で決まっていることが多いので、車椅子で使うなら1坪以上を前提に、メーカーの寸法表と突き合わせておきましょう。

出入口の段差と排水で床の高さがずれる

浴室で見落としやすいのが、洗い場と脱衣室の床の高さの差です。浴室は水を流す場所なので、水が外へ出ないよう洗い場を一段下げるか、戸の下に立ち上がりを設けるのが普通でした。この数センチが、車椅子には越えられない段差になります。

いまは、洗い場の排水を戸の手前で受け、床をほぼ平らにつなげる納まりが各社のユニットバスにあります。グレーチング(溝にかぶせる蓋)で排水を受ける型なら、段差をほとんどなくしたまま水を止められるでしょう。浴室を選ぶときは「段差解消」と書かれた仕様の実際の段差が何ミリなのかを、カタログの断面図で確かめてください。

キッチンと寝室の寸法

毎日長く過ごす場所ほど、寸法が合わないと負担が積み上がります。ここでは、キッチンと寝室で押さえておきたい寸法を見ていきます。

キッチンは膝下の空きと作業台の高さで決まる

車椅子で使うキッチンは、シンクとコンロの下に膝が入るかどうかが前提になります。一般的なキッチンは下部が収納で埋まっているため、車椅子では正面に着けられず、横向きで腕を伸ばす姿勢での作業になってしまうでしょう。膝が入る型なら、正面を向いて座ったまま洗い物や調理ができます。

作業台の高さは、車椅子の肘掛けが当たらず、なおかつ手が届く範囲に合わせます。メーカーには車椅子に対応したキッチンがあり、天板の高さやシンクの深さを選べるものも出ています。ショールームへ実際に使う車椅子で行き、正面から着けるかどうかを試してから決めるのが確実でしょう。

寝室はベッド周りに回転できる空きを残す

寝室は、ベッドを置いたあとに残る空きで使い勝手が決まります。ベッドと壁の間、ベッドの足元など、車椅子が入って向きを変えられる場所を1か所は残しておきたいところです。150センチ角が残れば、ベッドの横に着けて移乗し、そのまま戸のほうへ向き直せます。

介護ベッドを入れる予定があるなら、一般的なベッドより一回り大きい寸法で考えてください。手すりや昇降のための空き、将来のリフト(体を吊り上げて移乗する機器)まで見込むと、家具は少なめに抑えるほうが動けます。ベッドの位置は戸と窓とコンセントの位置で決まってしまうので、間取りの段階で置き場所を仮に描いておきましょう。

特定寝室の面積は12平方メートルが推奨の目安

指針は、高齢者が主に使う寝室を「特定寝室」と呼び、面積の目安を示しています。基本レベルは内法寸法で9平方メートル以上、推奨レベルは内法寸法で12平方メートル以上です。不動産の広告で使われる1畳あたり1.62平方メートルで換算すると、12平方メートルはおよそ7.4畳にあたります。

寝室の広さは、寝るためではなく、ベッドの周りで人と車椅子が動くために要るものです。同じ12平方メートルでも、細長い部屋ではベッドを置いた時点で回れなくなります。面積の数字だけで判断せず、ベッドを置いた図に150センチ角が残るかどうかを描いて確かめてください。

まとめ

車椅子で暮らす家は、通る幅、回す広さ、届く高さの3つで決まります。指針の推奨レベルでは、通路の有効幅員は850ミリ以上、出入口は800ミリ以上が目安です。向きを変える場所には150センチ角の空きを見込み、コンセントは40センチ、スイッチは110センチ程度に寄せると座ったまま手が届きます。

部屋ごとに見ると、玄関はスロープの勾配1/12以下と乗り換えの広さ、トイレは便器の側方の介助スペース、浴室は短辺1,400ミリ以上と段差の納まり、キッチンは膝下の空き、寝室はベッド周りの回転スペースが要ります。ただし数値はどれも一般的な目安であって、最後に効くのは実際に使う車椅子で通れるかどうかです。図面を決める前に車椅子の寸法を測って持ち込み、リハビリの担当者や福祉用具専門相談員に見てもらってから確定してください。家づくり全体の考え方から確かめたい方は、バリアフリー住宅とはもあわせて役立ててください。

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