親の歩行が難しくなり車椅子を考え始めても、店やカタログを見ると自走式や介助式、電動などが並び、どれを選べばよいのか迷う家族は多いものです。値段や見た目は分かっても、親の体や暮らしに合うかまでは判断がつきません。
車椅子は毎日体を預けて移動する道具なので、体格や使う場所に合っていないと、こぎにくかったり押しづらかったりして、結局使わなくなってしまいます。合わないサイズのまま長く乗ると、床ずれや姿勢の崩れにつながることもあります。
そこで、車椅子の主な種類と自走式・介助式の違い、体に合わせて選ぶ基準、介護保険のレンタルで借りられる条件や安全に使う注意点までをまとめました。はじめて車椅子を選ぶ段階の手がかりとして役立ててください。
車椅子が必要になる場面と選ぶ前の確認
車椅子を選ぶ前に、誰がどこで使うのかをはっきりさせておくと、必要な型がぐっと絞りやすくなります。ここでは、車椅子を選ぶ前に確かめておきたい3つの前提を見ていきます。
車椅子は移動が難しくなった人の生活範囲を広げる
車椅子のいちばんの役割は、自分の脚で長く歩けなくなった人の移動を助け、行ける範囲を取り戻すことです。脚の力が落ちたり痛みが強かったりすると、歩ける距離が短くなり、通院や買い物、散歩といった外出そのものを控えるようになります。外に出る機会が減ると、体力や気力までしぼんでいきがちです。
車椅子があれば、歩いて移動していた距離を座ったまま進めるので、疲れや転倒の心配を減らして出かけられます。車椅子は歩く力を補うだけでなく、外に出て人と会う暮らしを続けるための道具でもあります。まずは「どこへ、どのくらいの距離を移動したいのか」を思い浮かべると、あとで選ぶ型を絞り込みやすくなるでしょう。用具全体の考え方を先に押さえたい方は、介護用品の全体像もあわせて確認しておくと迷いにくくなります。
使う場所は屋内か屋外かで選ぶ型が変わる
次に確かめたいのは、車椅子を主にどこで使うのかという点です。同じ車椅子でも、家の中で使うのか、屋外の移動に使うのかで、向いている大きさやタイヤの型が変わります。狭い室内では小回りのきく小さめの車椅子が扱いやすく、屋外では段差や坂を越えられる大きめのタイヤが安心です。
家の中と外の両方で使いたい場合は、廊下やドアの幅、玄関の段差も測っておくと選びやすくなります。室内で方向転換ができないほど大きな車椅子を選ぶと、置き場所にも移動にも困りかねません。使う場所を屋内・屋外・その両方のどれかに絞ってから、次の章の種類を見ていくと、候補を無駄なく減らせます。
誰が動かすかで自走式か介助式かが決まる
車椅子選びで最初に分かれ道になるのは、車椅子を誰が動かすのかという点です。本人が自分でこいで動かすなら自走式、家族や介助者が後ろから押すなら介助式が基本になります。この一点で選ぶ型が大きく変わるため、体の状態と介助の体制を先に確かめておくことが欠かせません。
本人に腕の力が残っていて自分で移動したい気持ちがあるなら自走式が向き、腕の力も落ちていて常に付き添いがつくなら介助式が向きます。日によって自分でこげたり介助が必要だったりする場合は、あとで説明する両方を兼ねられる型も候補になります。まず「本人がこぐのか、誰かが押すのか」を決めてから、細かい仕様を詰めていくとよいでしょう。
車椅子の主な種類
車椅子は動かし方によって大きく型が分かれ、体の状態や介助の有無で合うものが違ってきます。ここでは、介護でよく使われる4つの種類を順に説明します。
自走式は自分でこいで動かす
自走式は、後輪の外側についた手で回す輪(ハンドリム)を握ってこぎ、本人が自分で動かす車椅子です。後輪が大きく、座ったまま自分の手で前へ進んだり方向を変えたりできるため、腕の力が残っていて自分で移動したい方に向いています。介助者が後ろから押すこともでき、一台で自走と介助の両方に使えるのも利点です。
自分で動かせるぶん、行きたいところへ自分の意思で移動でき、生活の自立を保ちやすくなります。反面、本体は後輪が大きいぶん重めで、腕の力が弱い方には長い距離をこぐのが負担になります。腕の力と「自分で動きたい」という気持ちの両方がある方に向く型なので、本人の状態を見て選ぶとよいでしょう。
介助式は介助者が押して動かす
介助式は、後輪が小さく、介助者が後ろのグリップを押して動かすことを前提にした車椅子です。ハンドリムがない分だけ全体が軽く小さくまとまり、折りたたんで車に積んだり玄関に置いたりしやすいのが特徴です。本人がこぐ力を求められないので、腕の力が落ちた方や、移動に必ず付き添いがつく方に向いています。
本体が軽く小回りがきくため、狭い室内や通院時の付き添いでも扱いやすくなります。反面、本人が自分でこぐことはできないので、介助者がいないと動けません。介助式は本人がこがない前提で軽さと扱いやすさを優先した型で、常に付き添いがつく暮らしに向いています。誰かが必ずそばにいる体制かどうかを確かめてから選ぶと失敗が少なくなります。
電動車椅子はモーターで動かす
電動車椅子は、手元のレバー(ジョイスティック)で操作し、モーターの力で動く車椅子です。腕の力が弱くても、レバーを軽く倒すだけで前後左右へ進めるため、自走式をこぐ力は残っていないが自分で移動したい方に向いています。屋外の長い距離や坂道でも、こぐ疲れなしに移動できるのが大きな利点です。
一方で本体は重く、バッテリーの充電や保管の場所も要ります。操作に慣れが必要で、判断力や視野に不安がある方には安全面の確認が欠かせません。購入は高額になりやすいので、介護保険のレンタルで試してから決める方法もあります。導入を考えるときは、福祉用具専門相談員に体の状態と使う場所を伝えて相談するとよいでしょう。
リクライニング・ティルト式は姿勢を保てる
リクライニング式は背もたれを倒せる車椅子、ティルト式は座面と背もたれの角度を保ったまま後ろへ傾けられる車椅子です。自分で座り姿勢を保つのが難しい方や、長時間座り続ける方に向いており、体がずり落ちるのを防いだり、体にかかる圧を分散したりできます。医療や介護度の高い場面で選ばれることの多い型です。
姿勢を細かく調整できるぶん本体は大きく重く、置き場所や介助の負担も増えます。適切な角度や使い方は体の状態で変わるため、自己判断で選ばず、理学療法士や福祉用具専門相談員に姿勢を見てもらって決めることが欠かせません。床ずれや姿勢の崩れが心配な方は、候補として覚えておくとよいでしょう。
4つの型の特徴を、下の表にまとめました。
| 種類 | 動かし方 | 向いている方 |
|---|---|---|
| 自走式 | 本人がハンドリムをこぐ | 腕の力があり自分で動きたい方 |
| 介助式 | 介助者が押す | 腕の力が落ち付き添いがつく方 |
| 電動車椅子 | レバーでモーターを操作 | こぐ力はないが自分で動きたい方 |
| リクライニング・ティルト式 | 介助者が押す・角度を調整 | 座り姿勢を保つのが難しい方 |
車椅子の選び方の基準
型が見えてきたら、次は親の体と暮らしに合うかを見きわめる番です。ここでは、車椅子を選ぶときに順に確かめたい3つの物差しを説明します。
座面の幅と奥行きを体格に合わせる
最初に確かめたいのは、座る部分(座面)の大きさが体格に合っているかどうかです。座面が広すぎると体が横に傾いて姿勢が崩れ、狭すぎると腰やお尻が当たって痛くなります。幅は、座ったときに腰の左右に手のひらが軽く入るくらいが目安とされ、奥行きは、背もたれに深く腰かけて膝の裏に少し余裕が残るくらいが合っています。
体格に合わないサイズで長く乗ると、床ずれや姿勢の崩れ、こぎにくさにつながります。カタログの数字だけで決めず、可能なら実際に座って幅と奥行きを確かめるのが確実です。サイズ選びに迷うときは、福祉用具専門相談員に体を見てもらい、合う寸法を出してもらうと失敗を防げます。
重さを持ち運びや保管に合わせる
車椅子の重さも、毎日使ううえで見落とせない物差しです。車に積んで通院する、玄関で折りたたんで置く、といった使い方が多いなら、軽い車椅子のほうが介助者の負担を減らせます。介助式には10キロ前後の軽量タイプもあり、女性や高齢の介助者でも持ち上げやすくなっています。
反面、軽い車椅子はフレームが細く、体重が重い方や屋外の長距離では安定感が物足りないこともあります。丈夫さと軽さはどちらも大事なので、誰が持ち運ぶのか、どこに保管するのかを思い浮かべて釣り合いを取ってください。持ち運ぶ機会が多いなら折りたたんだときの大きさも確かめておくと、車や収納に収まるかで迷いません。
タイヤとブレーキを使う路面に合わせる
タイヤとブレーキは、車椅子の安全さを左右する物差しです。屋外の砂利道や段差を通るなら、太めで空気の入ったタイヤのほうが衝撃を吸収し、越えやすくなります。室内が中心なら、パンクの心配がないノーパンクタイヤなら手入れの手間がかかりません。使う路面を思い浮かべてタイヤの型を選ぶと、こぎやすさと乗り心地が変わります。
ブレーキは、停まったときに車椅子を固定する駐車ブレーキと、介助者が下り坂で速さを抑える介助ブレーキがあります。乗り降りのときにしっかり固定できるか、介助者が坂で止められるかを確かめておくことが欠かせません。タイヤとブレーキは乗り心地だけでなく安全に直結するので、使う場所に合わせて必ず確かめてください。迷うときは福祉用具専門相談員に使う場所を伝えて選んでもらうと安心です。
介護保険で借りる車椅子
車椅子は介護保険を使って借りられるので、費用を抑えたいときは対象や条件を先に確かめておきたいところです。ここでは、貸与の対象になる仕組みと、要介護度の条件を説明します。
福祉用具貸与の対象になる車椅子
介護保険では、車椅子が「福祉用具貸与」の対象種目に含まれ、月々の利用料の1〜3割の負担で借りられます。厚生労働省の福祉用具貸与では、車いすと車いす付属品が貸与の対象種目として示されており、自走式や介助式などが含まれます。負担の割合は所得に応じて1割から3割の間で決まる仕組みです。
体の状態が変われば別の型へ借り替えられるので、状態が固まっていない時期には買い切るより借りるほうが無駄になりません。数か月だけ支えがほしい回復期や、この先さらに移動が難しくなりそうな時期にはレンタルが向きます。レンタルと購入のどちらが向くかを詳しく比べたい方は、レンタルと購入の違いもあわせて確認しておくとよいでしょう。
原則要介護2以上が貸与の対象になる
車椅子の福祉用具貸与には、要介護度の条件がある点に注意が必要です。前述の厚生労働省福祉用具貸与では、車いすと車いす付属品は要支援1・2、要介護1の方には原則として保険給付の対象にならないと示されています。つまり原則として要介護2以上でなければ、車椅子を介護保険で借りられません。
これは、軽度のうちは自分の脚で歩く力を保つことを重んじ、車椅子に頼りすぎないようにという考えに基づく仕組みです。要介護認定をまだ受けていない場合は、まず認定の申請から始める必要があります。自分の要介護度で借りられるかは、担当のケアマネジャーに確かめてもらうのが確実です。
軽度者は例外給付で借りられる場合がある
要支援1・2や要介護1の軽度者でも、一定の状態にあてはまれば、例外として車椅子を借りられる場合があります。厚生労働省の軽度者に対する福祉用具貸与では、車いすについて「日常的に歩行が困難な者」や、日常生活の範囲で移動の支援が特に必要と認められる者が、例外給付の対象として示されています。パーキンソン病で日によって状態が変わる方や、がん末期で急速に状態が悪化する方なども対象に挙げられています。
例外給付を受けるには、医師の医学的な所見と、サービス担当者会議を通じたケアマネジメントに基づく判断が要り、市町村が書面で確認して要否を決めます。手続きは家族だけで進められるものではないので、要介護1以下でも車椅子が必要なときは、あきらめずにケアマネジャーへ相談してみてください。
車椅子の福祉用具貸与は、原則として要介護2以上が対象です。要支援1・2や要介護1の軽度者は、日常的に歩行が困難などの条件を満たし、医師の所見と市町村の確認があれば例外的に借りられる場合があります。自分が対象になるかは、必ず担当のケアマネジャーか福祉用具専門相談員に確かめてください。
車椅子を安全に使うための注意点
車椅子は体に合った一台を選んでも、使い方を誤ると転倒や転落につながります。ここでは、日々の使用で気をつけたい2つの基本を説明します。
乗り降りのときは必ずブレーキをかける
車椅子で最も事故が起きやすいのが、乗り降りの場面です。座ろうとしたときや立ち上がろうとしたときに車椅子が動くと、体を支えきれずに転んでしまいます。乗り降りの前には必ず左右の駐車ブレーキをかけ、車椅子が動かないことを確かめてから体を移してください。
足を乗せるフットレストも、乗り降りのときは上げるか外しておくと、つまずきを防げます。ベッドや便座との間を移るときは、車椅子をできるだけ近づけ、体をひねる角度を浅くすると移りやすくなります。慣れるまでは家族が支え、ブレーキをかける手順を声に出して確かめながら行うと安全です。
段差や坂道は介助者が支えて越える
屋外の段差や坂道は、車椅子が前へつんのめったり後ろへ転がったりしやすい場所です。段差を上るときは、介助者がティッピングレバー(後輪の下にある足で踏む部分)を踏んで前輪を浮かせ、ゆっくり越えます。下りるときに後ろ向きで後輪から下ろすのは、本人が前へ投げ出される危険を減らせるからです。
坂道では、下りは介助者が後ろ向きに支えながらゆっくり進み、急な下り坂で手を離さないようにします。砂利や濡れた路面では車椅子が思わぬ方向へ流れることもあるので、速さを抑えて進んでください。段差や坂の越え方に不安があるときは、福祉用具専門相談員や理学療法士に実際の場所で教わっておくと安心です。歩行器との使い分けを含めて移動の道具を見比べたい方は、歩行器・歩行車の選び方もあわせて確認しておくとよいでしょう。
まとめ
車椅子は、歩く力が落ちた人の移動を助け、外へ出る暮らしを支える道具です。自分でこぐ自走式、介助者が押す介助式、モーターで動く電動、姿勢を保つリクライニング・ティルト式があり、誰が動かすか、どこで使うかで合う型が変わります。座面の幅と奥行き、重さ、タイヤとブレーキを体と路面に合わせて選ぶことも欠かせません。
車椅子は介護保険の福祉用具貸与の対象で、原則として要介護2以上が借りられ、軽度者でも条件を満たせば例外給付で借りられる場合があります。型選びや要介護度の条件で迷ったら、注文の前に福祉用具専門相談員かケアマネジャーに相談してから決めてください。レンタルと購入のどちらが向くかを見比べたいときは、介護用品のレンタルと購入の違いもあわせて役立ててください。


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