親の家に段差が多く、直すより移ったほうが早いのではないかと考えはじめる家族は少なくありません。施設に入るほどではなく、今の暮らしを続けたまま住まいだけを段差の少ない賃貸に替えたい、という段階です。
ところが賃貸情報サイトで「バリアフリー」にチェックを入れても、出てくる部屋は玄関に大きな段差があったり、浴室のまたぎが高かったりと、期待した中身とずれることがよくあります。しかも高齢者の入居では、保証人や入居審査という別の壁も待っています。
そこで、一般の賃貸ポータルで絞りきれない理由と、公的に用意された探し先、内見で自分の目と手で確かめる箇所、そして借りにくさへの備えまでをまとめました。在宅の暮らしを続けるための住まい探しに役立ててください。
バリアフリー賃貸探しでつまずく点
段差の少ない部屋を探そうとすると、まず賃貸情報サイトの条件検索から入る方がほとんどでしょう。ここでは、その探し方でつまずきやすい3つの点を見ていきます。
賃貸ポータルのバリアフリー条件は幅が粗い
賃貸情報サイトの「バリアフリー」というチェック項目は、掲載する不動産会社が自社の基準で付けた目印にすぎません。玄関だけ段差が小さい部屋も、共用部にスロープがあるだけの物件も、同じ一つの項目にまとめられています。同じ「バリアフリー」の表示でも、どこがどこまで整っているかは物件ごとにばらばらです。
そのため、チェックを入れて出てきた部屋を、そのまま「親が暮らせる部屋」として扱うと当てが外れます。条件検索はあくまで候補を減らすための道具と考え、絞り込んだあとに一件ずつ中身を確かめる手順を前提にしてください。気になる部屋が見つかったら、募集図面の設備欄と、次の見出しで挙げる現地確認の両方で裏を取りましょう。
図面と写真では段差と有効幅が分からない
募集図面に載る間取りは、部屋の広さと配置を示すもので、床の高低差までは書かれていません。玄関の上がりかまちが何センチあるか、脱衣所と洗い場のあいだに段があるか、敷居がどれだけ出ているかは、図面を眺めても読み取れないままです。
掲載写真も同じで、広く見せる角度から撮られていることが多く、段差はほとんど写りません。廊下の幅も、写真では実際より広く見えます。ドアを開けたときに手すりや家具で狭くなる部分(有効幅)は、現地でメジャーを当ててはじめて数字になります。候補を数件に絞ったら、写真の印象で優劣を決めず、必ず内見の予定を入れてください。
築年数だけでは住みやすさを判断できない
新しい建物ほど段差が少ないだろうと考えて、築年数で絞り込む方も多くいます。たしかに近年の共同住宅は、共用廊下やエントランスの段差が抑えられ、エレベーターが付いているものが増えました。ただ、それは建物全体の話で、住戸の中まで高齢者に合わせて作られているとはかぎりません。
反対に、古い建物でも大家が浴室を直していたり、手すりを後から付けていたりする部屋があります。築年数はふるいの一つでしかなく、住戸内の段差や幅とは別の指標です。家そのものがどう作られているかを先に押さえておきたい方は、バリアフリー住宅とはで特徴と考え方を確かめてから、部屋を見比べるとずれが減ります。
バリアフリー賃貸の探し先
高齢者が借りられる賃貸には、一般の情報サイトとは別に、公的に用意された探し先があります。ここでは、代表的な4つの探し先を順に説明します。
セーフティネット住宅は専用サイトで探せる
高齢者の入居を断らない賃貸住宅を、国の制度として登録・公開する仕組みがセーフティネット住宅です。国土交通省の住宅セーフティネット制度では、低額所得者や被災者、高齢者、障害者、子育て世帯が「住宅確保要配慮者」として示されており、高齢者はここに含まれます。
登録された住宅は、国土交通省のセーフティネット住宅 情報提供システムで地域や条件から検索でき、そのまま入居の申し込みまで進めます。バリアフリーの度合いは物件ごとに違うので、この専用サイトで候補を拾い、設備の内容は個別に確かめてください。まず住んでいる市区町村の名前で検索し、どのくらい登録があるかを見るところから始めるとよいでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅は安否確認と生活相談が付く
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、高齢者向けに登録基準が決められた賃貸住宅です。国土交通省のサービス付き高齢者向け住宅では、住宅基準として床面積が原則25平方メートル以上、便所や洗面設備等の設置、バリアフリーが挙げられています。契約の面でも、前払家賃の返還ルールと保全措置が求められる仕組みです。
サービス基準では、少なくとも状況把握と生活相談のサービスを提供することが示されており、安否確認と困りごとの相談が最低限付いてきます。登録された住宅はサービス付き高齢者向け住宅情報提供システムで探せます。介護そのものは別契約になる住宅も多いため、資料を取り寄せて、どこまでが家賃に含まれるかを一つずつ確かめてください。
UR賃貸には高齢者向け優良賃貸住宅がある
UR賃貸住宅にも、高齢者向けに改良された住戸があります。UR都市機構の高齢者向け優良賃貸住宅によれば、床段差をほとんどなくし、要所に手すりを設置した住宅内部に改良されており、申込本人が満60歳以上の単身、または配偶者や満60歳以上の親族と同居する世帯が対象です。事故や急病のときに提携事業者へ通報する緊急時対応サービスも、有料で利用できます。
家賃の面でも、世帯の所得月額が15.8万円以下であれば家賃から20%が減額され、減額の上限は25,000円、期間は20年間と示されています。募集は住戸ごとで、地域によって数に差があります。近くの物件があるかどうかをUR賃貸住宅の窓口かサイトで確かめ、条件に合うなら早めに問い合わせておくと候補に残せます。
自治体の高齢者向け住宅は住宅課の窓口で紹介される
市区町村が独自に用意している高齢者向けの住宅もあります。名前は自治体によって異なり、シルバーハウジングや高齢者向け優良賃貸住宅、住み替え支援の登録制度などの形で募集されており、生活援助員が定期的に訪ねる住宅もあるのが特徴です。公営住宅の募集で、高齢者世帯に別枠を設けている自治体も見られます。
これらは一般の賃貸情報サイトにはほとんど載らず、市区町村の住宅課や高齢福祉の窓口に置かれた案内で知ることになります。募集の時期や回数が決まっているものもあるため、探しはじめの段階で一度窓口に立ち寄り、どんな制度があるかを聞いておいてください。
4つの探し先の違いを、下の表にまとめました。
| 探し先 | 主な特徴 | 探す場所 |
|---|---|---|
| セーフティネット住宅 | 高齢者の入居を断らない登録住宅 | セーフティネット住宅 情報提供システム |
| サービス付き高齢者向け住宅 | 状況把握と生活相談が付く | サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム |
| UR賃貸の高齢者向け優良賃貸住宅 | 段差を抑え手すりを設置・家賃減額あり | UR賃貸住宅の窓口・サイト |
| 自治体の高齢者向け住宅 | 生活援助員の訪問や別枠募集 | 市区町村の住宅課・高齢福祉窓口 |
内見で確かめる場所
候補が絞れたら、あとは現地で体に合うかどうかを見る番です。ここでは、内見のときにメジャーを持って確かめたい3つの場所を挙げます。
玄関は上がりかまちの高さと手すりを見る
玄関は、家の中でもっとも高い段差が残りやすい場所です。靴を脱いで上がる部分(上がりかまち)に大きな段差があると、毎日の出入りで足を上げきれず、つまずくきっかけになります。共用廊下から玄関までにも一段あることが多いので、外側と内側の両方を見てください。
段差の高さをメジャーで測り、親が実際にまたげるかを、その場で歩いてもらって確かめましょう。手すりが付いているか、なければ壁に取り付けられそうな下地があるかも見ておきます。靴を履くための椅子を置けるだけの土間の広さがあるかも、あわせて確かめておくと、入居後の困りごとを減らせます。
廊下と出入口はメジャーで有効幅を測る
廊下と出入口では、壁から壁までの寸法ではなく、実際に体が通れる幅(有効幅)を測ります。ドアを開いたとき、開いた扉板の分だけ通り道は狭くなり、引き戸でも枠や敷居で数センチ削られる点に注意が必要です。将来、歩行器や車椅子を使う可能性があるなら、この数センチが通れるかどうかを分けます。
測るのは、玄関から居間、居間から寝室、寝室からトイレの各出入口と、その間の廊下です。曲がり角では、まっすぐ通れても向きを変えられないことがあるので、実際に体の向きを変えてもらって確かめてください。数字を控えておけば、家に帰ってから複数の候補を落ち着いて見比べられます。
浴室はまたぎ高さと洗い場の段差を見る
浴室は転倒が起きやすく、賃貸では手を入れにくい場所でもあります。まず浴槽のふちの高さ(またぎ高さ)を測り、親が手すりや壁に手を添えてまたげるかを見てもらってください。ふちが高い浴槽は、足を上げる動きが大きくなり、濡れた床で体が傾きやすくなります。
脱衣所と洗い場のあいだの段差、洗い場の床の滑りやすさ、扉が内開きか外開きかも見ておきたいところです。内開きの扉は、中で人が倒れたときに開けられなくなることがあります。浴室が体に合わないと感じたら、次の見出しで挙げる据え置きの用具で補えるかどうかまで含めて、その場で判断してください。
高齢者が借りにくい現実
段差の少ない部屋が見つかっても、申し込みで止まることがあります。ここでは、高齢者の入居で実際に起きる壁と、その備えを説明します。
入居審査は保証人と孤独死の懸念で厳しくなる
高齢者の申し込みが断られる理由の多くは、部屋の使い方ではなく、貸す側の不安にあります。国土交通省の住宅セーフティネット制度でも、大家の懸念として孤独死や残置物の処理、家賃の滞納が挙げられており、この不安が入居審査の厳しさとして表に出てくるのが実情です。
年金収入で家賃が払えるかという点に加え、連帯保証人を立てられるかを聞かれることも多くあります。子が離れて暮らしていたり、頼れる親族がいなかったりすると、ここで話が止まります。断られたときに「うちが悪い」と受け取る必要はなく、次の見出しで挙げる保証や支援の仕組みを組み合わせて、貸す側の不安を減らす方向で動いてください。
家賃債務保証が連帯保証人の代わりになる
連帯保証人が立てられないときは、家賃債務保証を使う道があります。保証会社と契約し、家賃が払えなくなった場合に立て替えてもらう仕組みで、貸す側の滞納の不安に直接応える手当てです。国土交通省の住宅セーフティネット制度では、都道府県が指定する居住支援法人の業務として、登録住宅の入居者への家賃債務保証等が示されています。
保証料の額や審査の内容は会社ごとに違い、不動産会社から特定の会社を指定されることもあります。申し込みの前に、保証料がいくらかかるか、更新のたびに費用が要るかを聞いておきましょう。連帯保証人がいないことを理由に探すのをやめず、まず保証を使えるかを不動産会社に確かめてください。
居住支援法人と居住支援協議会が入居まで手伝う
一人で不動産会社を回っても断られ続けるときは、公的な支援の側から入る手があります。国土交通省の住宅セーフティネット制度では、居住支援法人が賃貸住宅への入居に係る情報提供・相談や、見守りなどの生活支援を担うことが示されています。令和7年10月からは、入居者が亡くなったときの残置物処理も業務に加わりました。
同じ制度のなかで、居住支援協議会が地方自治体と関係業者をつなぎ、住宅確保要配慮者と大家の双方に住宅情報の提供等の支援をしています。借りにくさは本人の努力ではなく、支援の仕組みを間に入れることでほどけます。住んでいる自治体に居住支援協議会があるかを住宅課で聞き、地域の居住支援法人につないでもらうところから始めてみてください。
賃貸でのバリアフリー改修
借りた部屋に手すりを付けたい、段差をなくしたいと思う場面は必ず出てきます。ここでは、賃貸で改修するときの決まりと、工事を避ける手立てを説明します。
介護保険の住宅改修は所有者の承諾書が要る
介護保険の住宅改修は、賃貸の部屋でも使えます。ただし、厚生労働省の介護保険の住宅改修の概要では、支給申請の提出書類として「住宅の所有者の承諾書(住宅改修を行った住宅の所有者が当該利用者でない場合)」が挙げられており、借りている住宅では大家の承諾書が欠かせません。支給限度基準額は20万円で、その9割にあたる18万円が上限として償還払いで支給される仕組みです。
承諾を得るときは、どこにどんな工事をするか、退去時に元へ戻すのかどうかまで話を詰めておきましょう。原状回復を求められる場合、戻す工事の費用は介護保険の対象になりません。制度の全体像と手続きの順番は介護保険の住宅改修で確かめたうえで、契約前に大家へ相談してください。
工事のいらない福祉用具で代えられる
承諾が得られない部屋や、退去の予定がある部屋では、工事をしない用具で補う道があります。床に置いて重さで支える据え置き型の手すりや、天井と床で突っ張るタイプの手すりなら、壁にねじを打たずに使える用具です。浴槽のふちに挟む手すりや、洗い場に置く浴槽台も、またぎの負担を減らす助けになります。
段差には、置くだけのスロープやミニステップが使えます。これらの多くは介護保険の福祉用具貸与や購入の対象になっているので、体の状態に合うものは担当のケアマネジャーに相談して選んでください。工事の承諾を待つあいだも暮らしは続くので、まず用具で当座をしのぐ形を担当者と決めておくとよいでしょう。
賃貸の部屋に手すりを付けたり段差を直したりする工事は、大家(所有者)の承諾なしに進めてはいけません。介護保険の住宅改修費の支給申請でも、所有者が本人でない場合は承諾書の提出が必要です。工事の前に必ず不動産会社を通じて大家へ相談し、退去時の原状回復の扱いまで書面で決めておいてください。
借りたあとに在宅を続ける備え
契約して引っ越せば終わりではなく、そこから在宅の暮らしが続きます。ここでは、入居後も暮らしを保つために、契約の前後で押さえておく3つの備えを挙げます。
転居先の地域包括支援センターに相談し直す
介護の相談窓口である地域包括支援センターは、担当する区域が決まっています。市区町村をまたいで引っ越すと、それまで相談していたセンターの担当から外れ、介護保険の保険者も変わります。同じ市内の転居でも、区域が変わればセンターが替わることがあります。
引っ越しが決まったら、転居先の住所を管轄するセンターを調べ、早めに連絡を入れておきましょう。今のケアマネジャーに引き継ぎの相談をしておくと、サービスの空白を短くできます。要介護認定を受けている方は、転出と転入の手続きに期限があるので、市区町村の介護保険窓口で日程を確かめてから動いてください。
転居すると住宅改修の限度額が再設定される
介護保険の住宅改修には、一人あたり20万円という支給限度基準額があります。前の家で使い切っていると、引っ越し先では使えないと思いがちですが、厚生労働省の介護保険の住宅改修の概要では、転居した場合は再度20万円までの支給限度基準額が設定されると示されています。要介護状態区分が3段階上がったときにも、同じように設定し直される仕組みです。
つまり、前の家で手すりを付けて枠を使っていても、新しい部屋でもう一度使える計算になります。賃貸に移ったあとの手すりや段差解消は、転居で設定し直された枠のなかで検討できます。承諾書の話とあわせて、引っ越しの計画を立てる段階でケアマネジャーに伝え、どこを直すかを先に決めておきましょう。
契約前に更新と退去の条件を確かめる
高齢者向けの住宅や公的な登録住宅では、契約の形が一般の賃貸と違うことがあります。契約の期間が区切られた定期借家で更新のない部屋や、体の状態が変わると住み続けられなくなる住宅もあるので注意が必要です。長く住むつもりで移ったのに、数年で次を探すことになると負担が重くなります。
契約書を交わす前に、更新できるか、更新料はいくらか、どんなときに退去を求められるかを、口頭ではなく書面で確かめてください。前払家賃を納める住宅では、途中で退去した場合の返還のルールも見ておきます。分かりにくい条項があれば、その場で署名せず、家族や居住支援法人の担当者と一緒に読んでから決めましょう。
まとめ
バリアフリー賃貸は、一般の賃貸情報サイトのチェック項目だけでは絞りきれません。表示の基準が物件ごとに違い、段差や有効幅は図面にも写真にも出てこないためです。セーフティネット住宅やサービス付き高齢者向け住宅、UR賃貸の高齢者向け優良賃貸住宅、自治体の高齢者向け住宅という公的な探し先を候補に加え、内見で玄関と廊下と浴室を自分の手で測ってください。
保証人が立てられない、審査が通らないという壁は、家賃債務保証や居住支援法人、居住支援協議会といった仕組みで越えられます。借りた部屋の手すりや段差解消には介護保険の住宅改修が使え、転居すると限度額が設定し直されますが、大家の承諾書が欠かせません。工事の承諾が得られないときは据え置きの用具で補いましょう。在宅を続けるか住み替えるかで迷っている段階なら、老後の住まいもあわせて読み、どちらが今の暮らしに合うかを見比べてください。


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