親の介護で手すりを付けたり、車椅子やポータブルトイレを買いそろえたりすると、思っていた以上にお金がかかります。まとまった出費が続くと、確定申告の医療費控除で少しでも取り戻せないかと考える家族は多いものです。
ただ、ここには大きな誤解があります。バリアフリー改修や福祉用具にかけたお金は、医療費という名前がついていないぶん、多くが医療費控除の対象になりません。対象だと思い込んで申告すると、あとで税務署から問い合わせが来ることもあります。
そこで、介護リフォームや福祉用具のうち何が医療費控除の対象になり、何がならないのかを、国税庁の基準にそって切り分けました。あわせて、リフォーム費が戻る別の制度も紹介します。申告の前に、どの費用がどの制度に当たるのかを見分ける手がかりとしてお使いください。
介護リフォーム・福祉用具の費用は医療費控除の対象外
まず押さえておきたいのは、リフォームや福祉用具にかけたお金の多くは医療費控除に含まれないという原則です。ここでは、対象外になる費用と、その理由になっている医療費控除の考え方を見ていきます。
バリアフリー改修工事の費用は含まれない
手すりの取り付けや段差の解消といったバリアフリー改修の工事費は、医療費控除の対象にはなりません。国税庁が医療費控除の対象として挙げているのは、あくまで病気やけがの治療にかかった費用です。住まいを暮らしやすく直す工事は、体の状態に合わせたものであっても、治療そのものではないと扱われます。
医師から「自宅を改修したほうがよい」と勧められた場合でも、この扱いは変わりません。工事費を医療費として申告することはできないので、リフォーム代を医療費控除に入れて計算しないよう気をつけてください。改修費が戻る制度は別に用意されているので、それはこの記事の後半で説明します。
福祉用具の購入費も対象外
車椅子や介護ベッド、ポータブルトイレ、入浴用の椅子といった福祉用具の購入費も、原則として医療費控除の対象になりません。バリアフリー改修や福祉用具の購入費は、治療のための費用にあたらないため、医療費控除には含められないのです。国税庁の医療費控除の対象となる医療費も、これらを対象として挙げてはいません。
福祉用具を安く手に入れる道は、医療費控除ではなく介護保険の側にあります。要介護認定を受けていれば、貸与や購入費の支給という形で自己負担を抑えられる用具も少なくありません。用具ごとの制度の使い分けは介護用品の全体像にまとめているので、購入前に確かめておくと無駄な出費を防げるでしょう。
医療費控除は治療のための費用が基本
なぜリフォームや用具が外れるのかは、医療費控除の基本の考え方を知ると分かります。医療費控除は、病気やけがを治すために支払った費用の一部を、所得から差し引ける仕組みです。診察代や薬代、治療のための通院費のように、治療と直に結びつく出費が対象になります。
暮らしを支える道具や住まいの工事は、生活を助けるものではあっても、治療の費用ではないと線が引かれています。この「治療のためかどうか」という物差しを頭に置くと、次の章で見る対象になるものと、ならないものの違いが見分けやすくなります。まずは介護の出費すべてが医療費控除になるわけではない、という前提から始めてください。
医療費控除の対象になるもの
対象外ばかりではなく、介護に関わる費用でも医療費控除に入れられるものはあります。ここでは、要件を満たせば対象になる代表的な費用を挙げていきます。
寝たきりの人のおむつ代は証明書があれば対象
介護の出費のなかで見落とされやすいのが、おむつ代です。寝たきりの状態で治療を受けている人のおむつ代は、医師が発行する「おむつ使用証明書」があれば医療費控除の対象になります。国税庁のおむつに係る費用の医療費控除の取扱いについてで、その取り扱いが示されています。
おおむね半年以上寝たきりで、治療のうえでおむつが欠かせないことが要件です。二年目以降は、要介護認定の主治医意見書の内容を確認した書類などで証明書に代えられる簡素な手続きもあります。要介護認定を受けている方は、市町村が交付する確認書等で代えられる場合もあるので、まずはかかりつけ医やケアマネジャーに相談してみてください。
介護保険サービスの自己負担は一部が対象
介護保険で受けたサービスの自己負担のうち、一定のものは医療費控除の対象です。国税庁は、介護保険制度で提供された一定の施設サービスや居宅サービスの自己負担額を、対象になる医療費として挙げています。訪問看護など、医療と結びついたサービスの自己負担が、これに当たります。
ただし、介護保険のサービスなら何でも対象になるわけではありません。生活の援助が中心のサービスは対象外だったり、対象になる場合でも自己負担の一部に限られたりします。サービスごとの扱いは細かいので、事業所が発行する領収書に医療費控除の対象額が記されているかを確かめ、分からなければ事業所やケアマネジャーに聞いておくと安心です。
通院や治療のための費用は対象
治療のために医療機関へ通う費用も、医療費控除の対象です。診察や治療を受けるための電車やバスの運賃が含まれ、公共交通機関を使えない事情があるときはタクシー代も認められます。付き添いが必要な高齢者の通院では、付添人の交通費も対象になる場合があります。
一方で、自家用車のガソリン代や駐車場代は対象になりません。通院費として認められる範囲は、あくまで治療を受けるために直に必要だったものに限られます。領収書が出ない電車やバスの運賃は、日付と経路、金額を控えておくと、申告のときに集計しやすくなります。
ここで挙げた費用は、いずれも要件を満たしたときだけ対象です。おむつ代は寝たきりと治療の証明、介護サービスは対象額の記載、通院費は治療目的といった条件があり、判断に迷う費用は自己判断で入れず、税務署や税理士に確かめてから申告してください。
対象になるもの・ならないものの一覧
ここまでの内容を、対象と対象外の一覧にまとめておきます。手元の費用がどちらに当たるかを見比べる目安として使ってください。
表で対象と対象外を見分ける
介護に関わる主な費用を、医療費控除の対象になるかどうかで分けると次のようになります。同じ介護の出費でも、治療に近いものは対象、暮らしを支える道具や工事は対象外という線が見えてきます。
| 費用の例 | 医療費控除 |
|---|---|
| バリアフリー改修工事費(手すり・段差解消など) | 対象外 |
| 福祉用具の購入費(車椅子・介護ベッドなど) | 対象外 |
| 寝たきりの人のおむつ代(証明書あり) | 対象 |
| 介護保険の施設・居宅サービスの自己負担の一部 | 対象 |
| 治療のための通院費(電車・バスなど) | 対象 |
| 自家用車のガソリン代・駐車場代 | 対象外 |
表はあくまで代表例です。同じ品目でも要件を満たすかどうかで扱いが変わるものがあるので、金額の大きい費用ほど、申告の前に領収書と要件を照らし合わせておくとよいでしょう。
迷ったら「治療のためか」で線を引く
一覧に載っていない費用に迷ったときは、「治療のために直に必要だったか」を物差しにすると判断しやすくなります。医師の治療と結びついた出費は対象になりやすく、生活を楽にするための道具や住まいの手直しは対象になりにくい、という向きで考えます。
例えば同じおむつでも、治療上の必要がなく本人の希望で使うものは対象になりません。判断が割れそうな費用は、対象だと決めつけて申告するより、根拠となる書類を残したうえで税務署に確かめる方が確実です。線引きがはっきりしないまま申告すると、あとで手間が増えることになりかねません。
リフォーム費用は所得税の改修控除で戻る場合がある
リフォーム代が医療費控除にならないからといって、税金が一切戻らないわけではありません。ここでは、バリアフリー改修に使える別の制度を挙げ、医療費控除との違いを説明します。
バリアフリー改修は住宅特定改修特別税額控除の対象
バリアフリー改修の工事費は、医療費控除ではなく所得税の「住宅特定改修特別税額控除」で戻る場合があります。バリアフリー改修は、医療費控除ではなく所得税の改修控除という別の制度で税金が戻る仕組みです。国税庁の住宅特定改修特別税額控除で、対象になる工事と手続きが示されています。
対象になるのは、通路の拡張や手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更といった工事です。一定の要件を満たすと、工事費の一部が所得税額から直に差し引かれます。要介護や要支援の認定を受けた人が住む家の改修などが対象になるので、工事の前に自分の家が当てはまるかを確かめておくとよいでしょう。
固定資産税の減額という別ルートもある
所得税の改修控除とは別に、固定資産税を軽くするルートもあります。一定のバリアフリー改修をした住宅は、市区町村へ申告をすると、翌年度の固定資産税が一部減額される場合があります。減額される割合や期間は住宅の条件で決まり、所得税の控除とは窓口も手続きも別になっている点に注意してください。
二つの制度は要件が重なる部分もあり、両方を使えることもあれば、片方しか当てはまらないこともあります。工事の内容や住宅の条件によって、使える制度は変わるものです。リフォームを頼む段階で、業者や市区町村の窓口に、どの制度が使えそうかを聞いておくと取りこぼしを防げるでしょう。
医療費控除と改修控除は申告の仕組みが違う
医療費控除と改修控除は、名前は似ていても申告の仕組みがまるで違います。医療費控除は支払った医療費を集計して所得から差し引く仕組みで、改修控除は工事の証明書などをそろえて税額から直に差し引く仕組みです。必要な書類も、申告する欄も別になります。
そのため、リフォーム費を医療費控除の欄に書いても認められず、改修控除の要件をそろえて申告し直す必要があります。どちらの制度で何を申告するかを取り違えると、戻るはずのお金が戻りません。所得税の控除を確定申告で受ける手順はバリアフリーリフォームの確定申告にまとめているので、書類の準備の前に目を通しておいてください。
医療費控除の申告で用意するもの
対象になる費用が見えたら、次は申告の準備です。ここでは、控除額の考え方と、そろえておく書類を説明します。
控除額は10万円か所得の5%を超えた分
医療費控除で差し引けるのは、一年間に支払った医療費のうち、一定の金額を超えた部分です。国税庁の医療費控除によると、支払った医療費から保険金などで補われた分を引き、そこからさらに10万円を引いた額が控除の対象になります。
その年の総所得金額等が200万円未満の方は、10万円ではなく総所得金額等の5パーセントを引きます。控除できる上限は200万円です。家族全員分の医療費を合わせて計算できるので、生計を一つにする家族の分をまとめて集計すると、超える分が出やすくなります。
おむつ代は使用証明書を添える
おむつ代を医療費控除に入れるときは、医師が発行する「おむつ使用証明書」を用意します。証明書は、寝たきりで治療上おむつが必要だと医師が認めたことを示す書類です。確定申告のときに提出するか、提示できるようにしておきましょう。二年目以降は、主治医意見書の内容を確認した書類などで代えられる場合もあります。
要介護認定を受けている方は、市町村が交付する確認書等で証明書に代えられることもあります。どの書類が使えるかは、一人ひとりの状況で変わるものです。証明書の発行はかかりつけ医に、代わりの書類は市区町村やケアマネジャーに、早めに相談しておくと申告の直前で慌てずに済むでしょう。
領収書は5年間保管する
医療費控除を受けるには、支払いを裏づける領収書やレシートをそろえておきます。申告のときは医療費控除の明細書を作って提出し、領収書そのものは提出しない代わりに、自宅で5年間保管しておく必要があります。税務署から求められたときに、いつでも示せるようにしておくためです。
領収書が出ない通院の交通費は、日付と経路、金額をメモに残しておくと明細書にまとめやすくなります。医療費の通知が健康保険から届く場合は、それを明細書の代わりに使えることもあります。一年分がたまってから探すと大変なので、支払うたびに一つの封筒へ入れておくと、申告の時期に困りません。
まとめ
介護リフォームの工事費や福祉用具の購入費は、治療のための費用にあたらないため、原則として医療費控除の対象にはなりません。医療費控除に入れられるのは、寝たきりの人のおむつ代や、介護保険サービスの自己負担の一部、治療のための通院費など、治療と結びついた費用に限られます。
リフォーム費は、医療費控除ではなく所得税の改修控除や固定資産税の減額という別の制度で戻る場合があります。医療費控除と改修控除は書類も申告の欄も別なので、取り違えないようにしてください。どの費用がどの制度に当たるか迷うときは、税務署や税理士に確かめてから申告すると確実です。介護でそろえる用具ごとの制度の使い分けは、介護用品の全体像もあわせて役立ててください。


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