親の家に手すりを付けたり段差をなくしたりと、介護保険で住宅改修をしようと決めても、次に迷うのが「どの業者に頼めばいいのか」という点です。近所の工務店でよいのか、決められた業者があるのか、判断の手がかりがないまま探し始める家族は少なくありません。
住宅改修は、頼む業者によって仕上がりだけでなく、申請がスムーズに通るかどうかまで変わってきます。介護保険の書類に慣れていない業者を選ぶと、事前申請でつまずいて工事が遅れたり、給付が受けられなくなったりすることもあります。
そこで、住宅改修に指定や登録の制度があるのかという前提から、頼める業者の種類、失敗しない選び方の物差し、登録事業者の確認方法までを順にまとめました。はじめて業者を探す段階の手がかりとして役立ててください。
住宅改修の業者に全国一律の指定制度はない
住宅改修の業者を探す前に、そもそも「決められた業者」があるのかを知っておくと、探す範囲を見誤らずにすみます。ここでは、指定や登録の制度がどうなっているのかを説明します。
福祉用具貸与と違い住宅改修に指定事業者はいない
まず押さえておきたいのは、介護保険の住宅改修には、全国一律の「指定事業者」制度がないという点です。福祉用具の貸与や特定福祉用具の販売では、都道府県の指定を受けた事業者からでないと保険給付を受けられません。ところが住宅改修は、この指定制度の枠組みの外にあり、原則としてどの業者に頼んでも給付の対象になります。
そのため、地元のリフォーム会社や工務店など、介護保険と直接の契約がない業者に頼んでも、手続きさえ正しく踏めば住宅改修費は支給されます。住宅改修には福祉用具のような指定事業者制度がなく、業者そのものは自由に選べるのが原則です。ただし後で見るように、支払いの方法によっては業者に条件が付く場合があるので、その点だけは先に確かめておきましょう。
受領委任払いを使うなら自治体の登録事業者に限られる
例外になるのが、費用の立て替えを避けられる「受領委任払い」を使いたい場合です。住宅改修費は本来、いったん全額を業者へ支払い、あとから保険給付分が戻る「償還払い」が基本です。この立て替えをなくし、自己負担分だけを業者に払えばよい仕組みが受領委任払いで、これを使うときは業者に登録の条件が付きます。
東京都板橋区の介護保険住宅改修費等の受領委任払いでは、受領委任払いは区へ登録している登録事業者を利用した場合にのみ適用され、登録事業者以外を使うと自動的に償還払いになると案内されています。この登録の仕組みは自治体ごとに運用が分かれ、制度そのものを設けていない市町村もあります。受領委任払いを希望するなら、住んでいる市町村に登録事業者があるかを先に確かめてください。
償還払いなら登録のない業者にも頼める
立て替えができる家庭なら、償還払いを選んで登録のない業者に頼む道もあります。償還払いは、工事費を全額いったん支払ったあと、市町村へ申請して保険給付分を受け取る方法で、業者に登録の条件は付きません。長年付き合いのある工務店や、腕を信頼できる地元の業者に頼みたいときに向いた選び方です。
いったん全額を用意する必要はありますが、業者を自由に選べるぶん、慣れた業者や希望に合う業者に任せやすくなります。まとまった立て替えが負担になるなら受領委任払いのある登録事業者を、業者を優先したいなら償還払いを、というように、支払い方法と業者選びをあわせて考えるとよいでしょう。制度全体の流れをまだつかんでいない方は、先に介護保険の住宅改修の全体像を確認しておくと、業者選びの位置づけが見えて迷いにくくなります。
住宅改修を頼める業者の種類
指定制度がないぶん、住宅改修を頼める先はいくつかに分かれます。ここでは、どんな業者や窓口に相談できるのかを見ていきます。
リフォーム会社や工務店が広く請け負う
住宅改修の担い手としてもっとも多いのが、地域のリフォーム会社や工務店です。手すりの取り付けや段差の解消、床材の変更、扉の取り替えといった工事は、一般的なリフォーム工事と重なる部分が多く、住宅の工事に慣れた業者なら技術面で任せられます。近所にあって顔が見える相手だと、工事後に不具合が出たときも相談しやすくなります。
ただし、住宅の工事に慣れていても、介護保険の書類づくりに慣れているとは限りません。事前申請の見積書や図面、写真の用意に手間取る業者だと、手続きが滞ることもあります。リフォーム会社や工務店に頼むときは、介護保険の住宅改修を扱った実績があるかを、あわせて確かめておきましょう。
福祉用具の販売やレンタルの事業者も対応する
介護保険の福祉用具を扱う事業者の中にも、住宅改修を請け負うところがあります。こうした業者は日ごろから介護保険の制度に触れているため、事前申請の書類づくりや、ケアマネジャーとのやり取りに慣れている強みがあります。手すりの取り付けなど、福祉用具と組み合わせて考えたい工事では、まとめて相談できて便利です。
福祉用具の担当者が体の状態を見て、どこに手すりを付けると動きやすいかまで一緒に考えてくれる場合もあります。介護保険に慣れた事業者なら、書類の準備や役所とのやり取りでつまずきにくく、工事までの流れが進めやすくなります。用具と工事の両方を検討している家庭では、こうした事業者を候補に入れておくとよいでしょう。用具側の選び方は介護用品の全体像もあわせて役立ててください。
ケアマネジャーや地域包括支援センターに紹介してもらう
自分で業者を探すのが難しいときは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに紹介を頼む手があります。担当のケアマネジャーは、地域でどの業者が住宅改修に慣れているかを把握していることが多く、体の状態や住まいに合った業者を教えてもらえます。要介護認定を受けていれば、まずケアマネジャーに相談するのが近道です。
まだ介護保険のサービスを使っておらず担当のケアマネジャーがいない場合は、地域包括支援センターが相談先になります。センターは市町村が設けている高齢者の総合相談窓口で、住宅改修の進め方や業者探しについても案内してくれます。身近に頼れる業者の心当たりがないなら、こうした公的な窓口から探し始めると安心でしょう。
失敗しない業者選びの基準
頼める先が見えてきたら、次はその業者が住宅改修に向いているかを見きわめる番です。ここでは、業者を選ぶときに順に確かめたい物差しを説明します。
介護保険の住宅改修に慣れているかを確かめる
最初に確かめたいのは、その業者が介護保険の住宅改修を扱った経験があるかどうかです。介護保険の住宅改修は、ただ工事をすればよいわけではなく、事前申請から完成後の報告まで決まった手続きを踏む必要があります。この流れに不慣れな業者だと、書類の不備で申請が通らず、工事が止まってしまうこともあります。
これまでに介護保険の住宅改修をどのくらい手がけてきたか、事前申請の書類を用意した経験があるかを、遠慮せず聞いてみてください。実績のある業者なら、こちらが手続きに詳しくなくても流れを引っ張ってくれます。慣れているかどうかは仕上がり以上に手続きの成否を左右するので、最初に確かめておきましょう。
ケアマネジャーや理由書の作成者と連携できるかを見る
住宅改修の申請には「住宅改修が必要な理由書」が欠かせず、その作成者と業者がうまく連携できるかも大切な物差しです。厚生労働省の住宅改修が必要な理由書の作成者では、作成できるのは介護支援専門員、地域包括支援センターの担当職員、作業療法士、福祉住環境コーディネーター検定試験2級以上などの資格を持つ者とされています。この作成者と業者が同じ方向を向いていないと、工事の内容と理由書がかみ合いません。
体の状態に合った工事にするには、理由書を書くケアマネジャーや専門職と、施工する業者が情報をやり取りする必要があります。理由書の作成者と業者が連携できているかどうかで、体に合った工事になるか、給付がすんなり通るかが変わります。業者を選ぶときは、ケアマネジャーとの打ち合わせに応じてくれるか、担当者と話が通じるかを見ておくと安心です。
事前申請の見積書や図面を出せるかを確認する
介護保険の住宅改修では工事の前に市町村へ申請するため、業者が事前申請に必要な書類を用意できるかを確かめておきましょう。申請には工事費の見積書のほか、改修後の状態がわかる図面や写真が求められます。これらをきちんとそろえられない業者だと、申請の段階でつまずきかねません。
見積書は、介護保険の対象になる工事とそれ以外の工事が分かれて書かれていると、役所の確認がスムーズに進みます。図面や施工前後の写真の用意にも慣れている業者なら、家族が細かく指示しなくても必要な書類がそろうでしょう。申請から工事完成までの書類の流れは住宅改修の流れで確認できるので、業者に頼む前に目を通しておくと、何を求めればよいかが見えてきます。
相見積もりを取って工事内容と金額を比べる
一つの業者だけで決めず、複数の業者から見積もりを取って比べることも欠かせません。厚生労働省の資料でも、事前申請の工事費見積書について複数事業所からの見積もり提出を促すとされており、相見積もりは制度のうえでも後押しされています。同じ工事でも業者によって金額や提案が違うので、見比べることで相場や工事の妥当さが見えてきます。
見積もりは金額の安さだけでなく、工事の内容や説明のていねいさもあわせて比べてください。安くても必要な工事が抜けていたり、逆に不要な工事が足されていたりすることもあります。手間はかかりますが、2〜3社から見積もりを取って中身を見比べると、納得して任せられる業者を選びやすくなります。
業者を比べるときに確かめたい点を、下の表にまとめました。
| 確認する点 | 見るポイント |
|---|---|
| 介護保険の実績 | 住宅改修を扱った経験があるか |
| 連携 | ケアマネや理由書の作成者と話が通じるか |
| 事前申請の書類 | 見積書・図面・写真を用意できるか |
| 見積もり | 対象工事と対象外が分けて書かれているか |
| 支払い方法 | 受領委任払いの登録があるか |
有資格者や施工後の保証を確かめる
工事の質を左右する要素として、担当者の資格や工事後の対応もあわせて見ておきたいところです。ここでは、業者選びで見落としがちな2つの点を説明します。
福祉住環境コーディネーターなど有資格者がいるか
業者に、住まいと介護の両方に詳しい有資格者がいるかどうかも見きわめの手がかりになります。福祉住環境コーディネーターは、高齢者や障害のある方が暮らしやすい住まいを提案するための知識を持つ資格で、住宅改修の理由書を書ける資格の一つにもなっています。こうした資格を持つ担当者がいる業者なら、体の状態に合った工事を相談しやすいでしょう。
資格があること自体が工事の質を保証するわけではありませんが、住まいと介護の知識を持つ担当者がいると、家族が気づかない動線の危険まで拾ってもらえます。手すりの位置や段差の高さなど、細かい判断が必要な工事では心強い存在です。業者を選ぶときは、どんな資格を持つ担当者が対応するのかも聞いておくとよいでしょう。
施工後の保証やアフター対応があるか
工事が終わったあとの保証や対応がどうなっているかも、頼む前に確かめておきたい点です。手すりのぐらつきや段差解消の不具合など、住宅改修は使い始めてから気になる点が出てくることもあります。工事後に相談できる窓口があるか、不具合が出たときにどこまで対応してくれるかを、契約の前にはっきりさせておきましょう。
保証の期間や範囲は業者によって差があり、口頭の約束だけだとあとで食い違うこともあります。工事の内容や保証の中身は、できるだけ書面で残してもらうと安心です。長く使う手すりや段差の工事だからこそ、工事後まで面倒を見てくれる業者を選ぶと、あとの安心につながります。
住宅改修そのものは登録のない業者にも頼めますが、受領委任払いを使うかどうかや登録事業者の有無は、市町村ごとに運用が分かれます。業者を決める前に、住んでいる市町村の介護保険の窓口か担当のケアマネジャーに、支払い方法と登録事業者を必ず確かめてください。
登録事業者や相談先の確認方法
受領委任払いを使いたい場合や、業者選びに迷う場合は、公的な窓口で登録や相談先を確かめられます。ここでは、登録事業者の探し方と相談先を説明します。
自治体の窓口やホームページで登録一覧を確認する
受領委任払いを使いたいなら、住んでいる市町村に登録事業者の一覧があるかを確かめましょう。受領委任払いの登録制度を設けている自治体では、登録した業者の一覧をホームページで公開していたり、介護保険の窓口で教えてくれたりします。ここに載っている業者を選べば、費用の立て替えをせずに自己負担分だけの支払いですみます。
登録制度そのものがない市町村もあるため、まずは自分の住む地域に制度があるかを確かめるところから始めてください。市町村の介護保険担当の窓口に電話で問い合わせれば、登録事業者があるか、一覧がどこで見られるかを案内してもらえます。受領委任払いを希望するなら、業者を探す前にこの確認をすませておくと迷いません。
受領委任払いを希望するかを先に決める
業者を探し始める前に、受領委任払いと償還払いのどちらで進めたいかを決めておくと、選ぶ業者の範囲が定まります。立て替えの負担を避けたいなら受領委任払いのある登録事業者から、業者を自由に選びたいなら償還払いで、というように、支払い方法によって候補が変わってくるからです。先に方針を決めておくと、業者選びで行ったり来たりせずにすみます。
どちらが向くかは、立て替えられる余裕があるか、頼みたい業者が決まっているかで変わるでしょう。20万円の限度額いっぱいまで工事をする場合、償還払いだと一度に大きな額を立て替えることになります。負担の重さと業者へのこだわりを見比べて、どちらの方法で進めるかを家族で話し合っておきましょう。
迷ったらケアマネジャーに確認してもらう
支払い方法や業者選びで判断に迷うときは、担当のケアマネジャーに確認を頼むのが確実です。ケアマネジャーは地域の制度の運用に詳しく、受領委任払いが使えるか、どの業者が住宅改修に慣れているかまで把握していることが多くあります。家族だけで役所に問い合わせるより、間に入ってもらうほうが話は早いでしょう。
担当のケアマネジャーがいない場合は、地域包括支援センターが同じ役割を果たしてくれます。制度の使い方から業者の紹介まで、一つの窓口で相談できるのが心強いところです。業者選びは一度きりの判断になりやすいので、迷ったら自分だけで抱え込まず、こうした専門職に確認してもらってから決めてください。
まとめ
介護保険の住宅改修には、福祉用具のような全国一律の指定事業者制度はなく、業者そのものは原則として自由に選べます。ただし費用の立て替えを避けられる受領委任払いを使うときは、自治体に登録した事業者に限られ、その運用は市町村ごとに分かれます。まず受領委任払いを使うかを決め、住む地域に登録事業者があるかを確かめておきましょう。
業者を選ぶときは、介護保険の住宅改修に慣れているか、ケアマネジャーや理由書の作成者と連携できるか、事前申請の見積書や図面を出せるかを確かめます。相見積もりで工事内容と金額を比べ、有資格者の有無や施工後の保証も見ておくと失敗しにくくなります。判断に迷うときは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してから決めてください。制度の全体像から見直したいときは、介護保険の住宅改修の全体像もあわせて役立ててください。


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