離れて暮らす親の家に帰るたび、玄関の上がりかまちや浴室の段差が危なく見えて、子である自分が費用を出して直そうと考える方は少なくありません。ただ、いざ動こうとすると、いくらかかるのか、補助金は使えるのか、自分が払って親の家に手を入れて税の面で問題はないのか、次々と不安がわいてきます。
親の家を子が直すときは、工事の中身だけでなく、誰が施主になり、誰の名義で払うかまで決めておく必要があります。親名義の家に子がまとまったお金を出すと、思わぬところで贈与税の論点が出てくることがあるためです。ここを知らないまま進めると、あとから税務署に説明を求められて慌てることにもなりかねません。
そこで、親の家をバリアフリーにするときの費用の目安と、使える補助金や介護保険、費用を誰がどう負担するかの決め方、そして子が費用を出したときの贈与税の注意点までをまとめました。親の住まいを直したいと考えている方は、動き出す前の確認にお使いください。
親の家をバリアフリーにする費用の目安
親の家の改修費は工事の中身によって大きく開きがあるので、まずどこにいくらかかるのかの見当をつけておきたいところです。ここでは、代表的な工事ごとの費用の目安を見ていきます。
手すり設置や段差解消は数万円から始められる
もっとも手をつけやすいのが、廊下や階段への手すりの取り付けや、玄関や室内の小さな段差をなくす工事です。手すり一本の設置や、可搬式のスロープを置くだけなら、数万円ほどから始められます。壁の下地を補強しながらまとめて手すりを付ける場合でも、数万円から十数万円の範囲に収まることが多いでしょう。
こうした工事は費用が小さいわりに、転倒しやすい場所を先に手当てできる利点があります。親の家すべてを一度に直そうとせず、危ない場所から少しずつ進めたい方には向いています。まずは日ごろ親がつまずきやすい場所を一緒に歩いて確かめ、優先して直す場所から見積もりを取ってみてください。
浴室やトイレの改修は費用が大きくなる
一方で、浴室やトイレをまるごと作り替える工事になると、費用は一気に大きくなります。浴室を在来工法からユニットバスに替えたり、またぎの深い浴槽を浅いものに交換したりすると、数十万円から、場合によっては百万円を超えることもあります。トイレを和式から洋式に替え、車いすで入れる広さに変えるとなると、数十万円はみておきたいところです。
水回りは配管や防水の工事が伴うため、見た目以上に費用がかさみます。予算が限られるなら、浴室全体を替える前に、浴槽内へ手すりを付けたり、床を滑りにくいものに替えたりする部分改修で足りないかも検討してください。どこまで直すかで金額が大きく動くので、複数の業者から見積もりを取って比べるのが安全です。
費用は工事範囲と家の状態で変わる
同じ工事名でも、最終的な費用は家の状態と工事の範囲によって変わります。築年数が古く下地が傷んでいれば補強が増え、間取りを変える工事が加わればさらに膨らむでしょう。逆に、既存の設備を生かしながら部分的に直すなら、費用は抑えられます。下の表は、代表的な工事ごとのおおよその目安です。
| 工事の種類 | 費用の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 手すりの設置 | 数万円〜 | 介護保険の対象になりやすい |
| 段差の解消 | 数万円〜十数万円 | スロープや床のかさ上げ |
| 引き戸への交換 | 十数万円〜 | 開き戸から変える工事 |
| トイレの改修 | 数十万円〜 | 洋式化や広さの変更 |
| 浴室の改修 | 数十万円〜百万円超 | 範囲により大きく動く |
この表はあくまで目安なので、実際の金額は現地を見てもらわないと分かりません。親の家の状態を業者に確認してもらい、具体的な見積もりを取ってから予算を決めるとよいでしょう。
親の家の改修で使える補助金と介護保険
親の家の改修では、介護保険や自治体の補助金で費用の一部をまかなえる場合があります。ここでは、親の住まいを直すときに使える主な制度と、対象になる条件を見ていきます。
介護保険の住宅改修は親が対象になる
親が要介護や要支援の認定を受けていれば、介護保険の住宅改修費を使って手すりの設置や段差の解消などを行えます。厚生労働省の住宅改修の資料では、支給の対象が被保険者証に記載された住所、つまり要介護者などが現に居住する住宅の改修であることが示されています。支給限度基準額は要介護度にかかわらず定額で、費用のうち一定割合が本人の自己負担です。
介護保険の住宅改修は、被保険者である親が現に住む家の工事が対象で、子の持ち家や別居先の工事には使えません。ここを取り違えると、子の家を直しても給付を受けられません。親がどの住所で認定を受けているかを確かめ、対象になるかは担当のケアマネジャーに相談してください。介護保険の住宅改修の仕組みは住宅改修とはでも詳しく扱っています。
自治体の補助金も親の住まいが対象
介護保険とは別に、市区町村が独自に出しているバリアフリー改修の補助金を使える場合もあります。こうした自治体の補助も、多くは申請者や対象者がその自治体に住んでいることを条件にしており、親の住まいがある市区町村の制度を確かめる形になります。介護保険の限度額を超えた工事や、介護保険の対象にならない工事を後押しする制度も見つかるでしょう。
補助金は自治体ごとに名称も条件もばらばらで、募集の期間や予算の枠が決まっているものもあります。親の住む市区町村の窓口やホームページで、どんな制度があるかを早めに調べておくと動きやすくなります。探し方や申請のコツは自治体の補助金の探し方でまとめているので、あわせて確認してみてください。
補助金の全体像は先にまとめで確かめる
使える制度が複数あると、どれから調べればよいか迷いやすくなります。親の家の改修で使える補助金には、介護保険の住宅改修、自治体の補助、減税といった種類があり、それぞれ対象になる工事や手続きの窓口が違います。全体像をつかまないまま個別の制度を調べると、使えたはずの制度を見落とすことにもなりかねません。
まずどんな制度があるのかを一望してから、親の状況に合うものに絞って調べていくと効率よく進みます。制度ごとの対象や併用の可否を先に押さえたい方は、バリアフリーリフォームの補助金まとめから見ておくと、抜け落ちを防ぎやすくなります。そのうえで、親の要介護度や住む自治体に合わせて、担当のケアマネジャーや窓口に相談してください。
誰が費用を負担するかの決め方
親の家の改修では、工事の中身と同じくらい、誰が費用を負担し誰の名義で払うかが大切になります。ここでは、あとで税や親族間のもめごとにつながらないよう、負担のしかたを決めるときの順番を見ていきます。
施主と契約者は住む親にするのが基本
工事を発注する施主や契約者は、その家に住み、名義を持つ親にするのが基本の形です。介護保険の住宅改修や自治体の補助金は、住む本人が申請する前提で組まれているため、契約者を親にしておくと手続きが素直に進みます。子が代わりに動く場合でも、契約書の名義は親にし、子は付き添いや手続きの手伝いという立場にしておくと後で迷わずに済むでしょう。
契約の名義と実際にお金を出す人がずれると、後で述べる贈与税の論点が出やすくなってしまいます。誰が施主で誰が払うのかを最初にはっきりさせておけば、あとの手続きも税の扱いも見通しよく進められるでしょう。親が判断できる状態なら、契約や申請の場に親自身が加わる形にしておくとよいでしょう。
支払いは親の預金からにすると安全
費用の出どころも、できるだけ親自身の預金からにしておくと安全です。親の家の改修は本来、住む親のための工事なので、親のお金で親の家を直すという流れであれば、贈与の論点はそもそも生じにくくなります。年金や貯蓄に余裕がある親なら、まず親の預金でまかなえないかを先に考えてみてください。
親の預金から払うときは、工事費の引き落としや振り込みの記録を残しておくと、誰が負担したかがはっきりします。親の口座から業者へ直接支払う形にすれば、資金の流れも一本にまとまります。親のお金で足りず子が補う場合は、次に挙げるように分担や精算の形を先に決めておくと安心です。
きょうだいで分担するときは記録を残す
複数のきょうだいで費用を分け合うときは、誰がいくら出したかを記録に残しておくことが欠かせません。口約束だけで進めると、あとから負担額の食い違いや、親の相続の場面でのもめごとにつながることがあります。分担の割合や金額を書き留め、それぞれの振り込みの控えを残しておくと、後で見返せます。
分担のしかたに決まった正解はなく、家庭の事情に応じて割合を決めて構いません。ただし、特定の子だけが大きく負担した事実は、将来の相続の話し合いに影響することもあります。誰がどれだけ出したかを親を含めて共有しておくと、後々の説明がしやすくなります。金額が大きくなりそうなら、あらかじめ税理士に相談しておくとより安心です。
子が立て替えるときは精算の形を決める
親の預金から払いたくても、当面は子が立て替えざるをえない場面もあります。その場合は、立て替えたお金を後で親から精算してもらうのか、子がそのまま負担するのかを、工事の前にはっきり決めておいてください。精算するつもりなら、いくら立て替えたかの記録と、後で返してもらった記録の両方を残しておきます。
子が負担したまま精算しない形にすると、親名義の家に子のお金が入ることになり、次の章で述べる贈与税の論点が出てきます。立て替えなのか、子からの資金提供なのかで税の扱いが変わるため、どちらの形にするかを親子で先に確かめておきましょう。金額が大きい場合は、進め方を税理士に相談してから決めると失敗を防げます。
子が費用を出すと出てくる贈与税の注意点
親の家に子がまとまった費用を出すと、家の名義が親のままである以上、贈与税の論点が出てくることがあります。ここでは、なぜ贈与とみなされるのか、どうすれば避けられるのかを見ていきます。
親名義の家に子が出すと贈与とみなされる
親名義の家を子の費用で改修すると、その工事でよくなった分の価値は親のものになります。国税庁のNo.4557 親名義の建物に子供が増築したときでは、親が子から工事の代金を受け取らない場合、親は子から工事資金に相当する利益を受けたものとして、贈与税が課される扱いが示されています。増築や改修でよくなった部分は、家の持ち主である親のものになるためです。
親名義の家に子が改修費を出すと、その分だけ親が利益を受けたとみなされ、贈与税の対象になり得ます。これは工事を親のために良かれと思って行った場合でも同じで、名義とお金を出した人がずれている事実が論点になります。親の家を子が負担して直すときは、この扱いがあることを頭に入れておいてください。実際にかかるかどうかは、金額や名義の持ち方によって変わります。
年110万円までは基礎控除でかからない
贈与とみなされても、金額しだいでは税がかからずに済む場合があります。国税庁のNo.4402 贈与税がかかる場合では、暦年課税でその年に受けた贈与の合計から基礎控除額の百十万円を差し引いた残りに贈与税がかかると示されています。つまり、一年間に受けた贈与の合計が百十万円までなら、贈与税はかからず申告もいりません。
親が子から受けたとみなされる利益がこの範囲に収まれば、税の心配は小さくなります。ただし、同じ年に親が受けた他の贈与があれば合算されるため、改修費だけで判断はできません。工事の金額が大きく基礎控除を超えそうなときは、かかる税額や進め方を税務署か税理士に確かめてから動いてください。
持分を共有にすれば贈与税を避けられる
工事の金額が大きい場合でも、名義の持ち方を工夫すれば贈与税を避けられることがあります。先ほどの国税庁No.4557では、子が支払った工事資金に相当する建物の持分を親から子へ移して共有名義にすれば、贈与税は課されないと示されています。子がお金を出した見返りに、家の一部を子の持ち分として受け取る形にすることで、一方的に利益を渡す関係にしないという考え方です。
子が出した費用に見合う持分を親から子へ移して共有名義にすれば、贈与とはみなされません。ただし持分を移すには登記の手続きが必要で、家の評価や持分の計算には専門の知識がいります。どの方法が親子にとって無理がないかは、家の名義や金額、将来の相続まで含めて変わります。実際に進める前に、税理士や司法書士に相談して決めるのが安全です。
親の家に子が費用を出したときに贈与税がかかるかどうかは、工事の金額、家の名義、持分の持ち方など個別の事情によって変わります。この記事は一般的な考え方をまとめたもので、税額を確定するものではありません。実際の判断は、必ず所轄の税務署か税理士に確認してから進めてください。
税や負担で迷ったときの相談先
親の家の改修は、税と制度の両面がからむため、迷ったら早めに専門の相手に確かめておくと安心です。ここでは、内容に応じて誰に相談すればよいかを見ていきます。
税の判断は税務署か税理士に確かめる
贈与税がかかるかどうかや、共有名義にすべきかといった税の判断は、所轄の税務署か税理士に確かめてください。税の扱いは金額や名義、その年の他の贈与の有無によって変わり、一般的な説明だけでは自分の場合にあてはまるとは限りません。無料の電話相談や税務署の窓口でも、一般的な取り扱いは確認できます。
工事の金額が大きい場合や、持分を移して共有名義にすることを考える場合は、税理士に個別に相談するほうが確実です。登記まで伴うなら司法書士も関わってきます。費用は工事の一部と考え、後でもめたり余分な税を払ったりするより、先に専門家に確かめておくほうが結果として安く済むこともあります。
制度と工事はケアマネジャーに相談する
介護保険の住宅改修や、どの工事から手をつけるかといった相談は、担当のケアマネジャーが窓口になります。親が要介護や要支援の認定を受けていれば、ケアマネジャーが親の状態を見ながら、必要な工事や使える制度を一緒に考えてくれます。介護保険の住宅改修は事前の申請が必要なので、工事の前に相談しておくことが欠かせません。
自治体の補助金や業者選びについても、ケアマネジャーや地域包括支援センターが情報を持っています。税は税理士、制度と工事はケアマネジャーと、内容によって相談先を分けると、それぞれから確かな答えをもらえます。親の家を直すと決めたら、まずはこの二つの窓口に早めに声をかけておくとよいでしょう。
まとめ
親の家をバリアフリーにするときは、手すりや段差の解消なら数万円から、浴室やトイレの改修なら数十万円以上と、工事の範囲で費用が大きく変わります。介護保険の住宅改修や自治体の補助金は、住む親が対象になるので、親の要介護度や住む自治体に合わせて確かめておきましょう。
費用を子が出す場合は、施主と契約者を住む親にし、できるだけ親の預金から払うと論点が生じにくくなります。親名義の家に子がまとまったお金を出すと贈与とみなされることがあり、年百十万円の基礎控除を超えそうなら、持分を共有にするなどの方法もあります。ただし税の扱いは個別の事情で変わるため、進める前に税務署か税理士に確かめてください。使える制度を先に一望しておきたい方は、バリアフリーリフォームの補助金まとめもあわせて役立ててください。


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