親の家に手すりを付けたり段差をなくしたりと、介護保険で家を直せると知って調べ始めると、必ず出てくるのが「限度額は20万円まで」という数字です。ただ、この20万円で手すりも段差もスロープも足りるのか、足りずに超えたらどうなるのかは、金額だけを見てもなかなか判断できません。
じつは20万円は工事にかけられる費用の上限であって、家族が実際に払う額はそれよりずっと小さくなります。数え方を取り違えると、まだ余裕があるのに工事をあきらめたり、逆に超えていることに気づかず慌てたりしがちです。
そこで、20万円がどういう単位のお金なのか、割合ごとの実際の手出し額、複数回に分けて使うやり方、20万円を超えそうなときの逃がし方、そして一度使ってもまた使えるようになる条件までをまとめました。20万円で足りるか不安な段階の手がかりとして役立ててください。
住宅改修費の限度額20万円のしくみ
まず、20万円という限度額がどんな単位で決まっているのかを押さえると、足りるかどうかの見当がつきます。ここでは、限度額の考え方と自己負担の割合を見ていきます。
限度額は被保険者ごとに生涯20万円
住宅改修費の限度額は、介護を受ける本人1人につき生涯で20万円までと決まっています。厚生労働省の介護保険の住宅改修の資料でも、支給限度基準額は「生涯20万円(要支援、要介護区分にかかわらず定額)」と示されており、要介護度が重くても軽くても金額は変わりません。
この20万円は年ごとにリセットされるものではなく、本人ごとに積み上がっていく生涯の枠だと考えてください。たとえば今年10万円ぶんの工事をすると、残りは10万円になり、来年になっても枠が20万円に戻ることはありません。夫婦それぞれが要介護認定を受けていれば、枠は1人ずつ別に持てます。制度全体の流れをまだ押さえていない方は、介護保険の住宅改修とはで対象工事や申請の順番もあわせて確認しておくと迷いにくくなります。
給付は7割から9割で自己負担は1割から3割
20万円の枠のうち、介護保険が肩代わりするのは全額ではなく、7割から9割です。残りの1割から3割が、家族が自分で払う自己負担にあたります。同じ厚生労働省の資料では、保険給付は原則9割で上限18万円、所得に応じて8割(上限16万円)・7割(上限14万円)と定められています。
つまり、20万円ぶんの工事をしても、保険が14万円から18万円を負担し、手出しは残りだけで済みます。負担割合は本人や世帯の所得で決まり、多くの方は1割ですが、一定以上の所得があると2割や3割になります。自分の親がどの割合にあたるかは、市区町村から届く介護保険負担割合証に書かれているので、工事を考え始めた段階で一度見ておくとよいでしょう。
20万円は工事費の上限で手出しの額ではない
見落としやすいのが、20万円は工事にかけられる費用の上限であって、家族が財布から出すお金ではないという点です。「20万円もかかるのか」と身構える方が多いのですが、実際に払うのはそのうちの1割から3割で、多くの場合は数万円に収まります。
たとえば1割負担の方が20万円ぴったりの工事をした場合、保険が18万円を持ち、手出しは2万円です。この違いを取り違えると、まだ十分に工事ができるのに費用を心配してあきらめてしまうことになりかねません。まずは「20万円=工事の枠」「手出し=その1割から3割」と分けて考えると、予算の見通しが立てやすくなります。
実際の手出し額の数え方
限度額のしくみが分かったら、次は自分の親のケースでいくら払うことになるのかを数えてみます。ここでは、割合別の手出し額と、超えたぶんの扱いを見ていきます。
自己負担割合は所得で決まる
家族が実際に払う額は、本人の自己負担割合が1割か2割か3割かで変わります。この割合は本人と世帯の所得で決まるものです。年金収入だけで暮らす方の多くは1割で、現役並みの所得があると2割や3割になります。
割合は自分で選べるものではなく、市区町村が所得をもとに判定するしくみです。判定の結果は毎年更新される介護保険負担割合証に記載され、8月から翌年7月までの割合が示されます。工事の見積もりが出たら、この負担割合証を手元に置き、あとで説明する早見表と照らし合わせてください。自分の親の割合さえ分かれば、手出しの金額はすぐに数えられます。まずは親の負担割合証を探すところから始めてみましょう。
20万円まで使ったときの手出しを割合別に見る
20万円の枠をすべて使った場合、手出しがいくらになるかは割合ごとに決まっています。下の早見表は、20万円ぴったりの工事をしたときの、保険からの給付と自分で払う額をまとめたものです。
| 自己負担割合 | 保険からの給付 | 自分で払う額 |
|---|---|---|
| 1割 | 18万円 | 2万円 |
| 2割 | 16万円 | 4万円 |
| 3割 | 14万円 | 6万円 |
この表からわかるように、20万円の工事でも手出しは2万円から6万円の範囲に収まります。工事費が20万円より少なければ手出しはさらに小さくなり、たとえば1割負担の方が10万円の工事をすれば、払うのは1万円です。まずは自分の親の割合の行を見て、想定している工事費に置きかえて計算してみると、現実的な負担が見えてきます。
超えた分は全額自己負担になる
工事費が20万円を上回ると、超えたぶんには保険が使えず、全額を自分で払うことになります。健康長寿ネットを運営する長寿科学振興財団でも、20万円を超えた場合は超過部分が全額自己負担になると説明されています。
たとえば25万円の工事をすると、20万円までは保険の対象ですが、超えた5万円はまるごと手出しになります。1割負担の方なら、20万円ぶんの手出し2万円に超過分5万円が乗り、合計7万円を払う形です。そのため、見積もりが20万円を超えそうなときは、どの工事を保険の枠に入れ、どれを後回しにするかを先に考えておくと、思わぬ出費を防げます。何が保険の対象工事になるかは、住宅改修の対象工事で確かめておくと予算を立てやすくなります。
20万円を複数回に分けて使う
20万円は一度の工事で使い切る必要はなく、何回かに分けて使えます。ここでは、残額を次に回す考え方と、分けて使うときの注意点を見ていきます。
一度で使い切らず残額を次に回せる
20万円の枠は、1回の工事で全部使わなくてもかまいません。厚生労働省の資料でも「限度額の範囲内であれば、複数回の申請も可能」と示されています。使い残した額は、あとから将来の工事に回せます。
たとえば、まず玄関に手すりを付けて8万円ぶんを使い、あとで体の状態が変わってから残りの12万円でスロープを付ける、という順の使い方でも問題ありません。介護は先の状態が読みにくいので、最初にすべてを工事せず、いま本当に困っている場所から手をつけて枠を残しておく手もあります。将来どこを直すことになりそうかを思い浮かべながら、今回いくらまで使うかを決めるとよいでしょう。
分けて使うときはケアマネに残額を確かめる
複数回に分けるときは、いま枠がいくら残っているかをそのつど確かめてから工事に入ります。前の工事でいくら使ったかをあいまいに覚えていると、うっかり20万円を超えて、超過分を全額自分で払うことになりかねません。
残額は担当のケアマネジャーや市区町村の窓口で確認できるので、次の工事を考え始めた段階で一度聞いておくと安心です。過去に住宅改修を使ったことがあるか自体を家族が把握していない場合もあるため、親が別の市区町村から引っ越してきたようなときは、とくに履歴をたどっておきましょう。
20万円を複数回に分けて使うときは、必ず事前に残額を確認してください。前の工事の記録があいまいなまま追加工事をすると、知らないうちに限度額を超え、超過分が全額自己負担になることがあります。工事の前にケアマネジャーか市区町村の窓口で残りの枠を確かめておくと安全です。
20万円を超えそうなときの考え方
見積もりが20万円に収まらないと分かったときは、あきらめる前にいくつかの逃がし方があります。ここでは、超えそうなときにとれる4つの手を順に見ていきます。
工事に優先順位をつけて20万円内に収める
まず考えたいのは、工事に優先順位をつけて、本当に必要なものから20万円の枠に収める方法です。見積もりに並んだ工事をすべて一度にやろうとすると超えてしまう場合でも、転倒の危険が高い場所から先に手をつければ、枠内で最も効果の高い部分を直せます。
たとえば、浴室の手すりと玄関のスロープと廊下の床材を全部やると20万円を超えるなら、いま一番危ない浴室と玄関を先に工事し、廊下は次の機会に回す形です。急がない工事を後回しにすれば、残った枠を将来の状態変化に取っておけます。どこから直すべきか迷うときは、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に危険な場所の順番を相談してから決めるとよいでしょう。
自治体独自の上乗せ助成を調べる
介護保険の20万円とは別に、市区町村が独自の助成を用意している場合があります。自治体によっては、介護保険の対象にならない工事や、20万円を超えた部分に対して、独自の補助金を出していることがあるためです。
助成の有無や金額、対象となる工事の範囲は自治体ごとにばらつきが大きく、同じ県内でも隣の市とで内容が違うことは珍しくありません。まずは親が住む市区町村の介護保険の窓口やホームページで、住宅改修に上乗せの助成があるかを確かめてみてください。介護保険の申請と助成の申請で必要な書類や順番が違うこともあるので、窓口で両方をまとめて聞いておくと二度手間になりません。
他の補助金制度と組み合わせる
介護保険以外にも、住まいの改修に使える補助金があれば組み合わせられます。障害のある方向けの日常生活用具や住宅改修の助成、耐震やバリアフリーに関する住宅リフォームの補助など、条件が合えば介護保険と別枠で使える制度が国や自治体にあるためです。
ただし、同じ工事に複数の制度をそのまま重ねて使えるとは限らず、片方を使うともう片方が制限される場合もあります。どの制度とどの制度を組み合わせられるかは条件が細かいので、自己判断で進めず、ケアマネジャーや市区町村の窓口、地域包括支援センターに相談しながら決めてください。使える制度を一つずつ確かめていけば、手出しを抑えられる余地が見つかることもあります。
福祉用具レンタルへ振り分ける
工事で対応しようとしていた部分を、福祉用具のレンタルに振り分けると、住宅改修の枠を節約できることがあります。据え置き型の手すりや段差解消のスロープなど、工事をせずに置くだけで使える用具は、介護保険の福祉用具貸与で借りられる場合があるためです。
たとえば、壁に手すりを取り付ける工事の代わりに置き型の手すりを借りれば、その部分は住宅改修の20万円を使わずに済み、枠を別の工事に回せます。用具のレンタルは体の状態が変わったときに別の型へ替えやすい利点もあります。工事と用具のどちらで対応するのが向くかは、使う場所や期間で変わるので、福祉用具専門相談員に相談して振り分けを決めるとよいでしょう。
限度額がリセットされる場合
一度20万円を使い切っても、条件によってはふたたび20万円の枠が使えるようになります。ここでは、枠が再び設定される2つの条件と、迷ったときの確かめ方を見ていきます。
要介護度が3段階上がると再び使える
一度使い切った枠は、本人の要介護度が大きく重くなると、あらためて20万円が設定されます。厚生労働省の資料では、要介護状態区分が3段階上昇したときに、再度20万円までの支給限度基準額が設定されると示されています。
段階は要支援1から要介護5までを区切ったもので、たとえば要介護1だった方が要介護4まで進むと、この3段階上昇にあたります。体が大きく弱れば必要な工事も変わるため、その状態に合わせてもう一度20万円まで使えるしくみです。ただし、少し重くなった程度ではリセットされないので、要介護度が上がったときは、条件にあてはまるかをケアマネジャーに確認してみてください。
別の住まいへ引っ越すと再設定される
要介護度が変わらなくても、別の住まいへ引っ越すと、新しい家で20万円の枠を使えます。長寿科学振興財団の資料でも、別の住宅に転居した場合に再申請できると説明されており、前の家で使い切っていても引っ越し先では新たに枠が立つしくみです。
たとえば、親を子の家の近くに呼び寄せて別の住まいへ移すようなときは、引っ越し先の家に合わせて手すりや段差の工事をやり直せます。ただし枠が使えるのはあくまで引っ越した先の住まいに対してで、前の家に戻ればリセットは適用されません。転居を機に工事を考えるときは、引っ越し後に申請するのが原則なので、順番を市区町村の窓口で確かめておきましょう。
2回目を使えるか迷ったら条件を確かめる
自分の親がリセットの条件にあてはまるかどうかで迷ったときは、思い込みで進めず条件を一つずつ確かめます。3段階上昇や転居に本当に該当するのか、過去にどれだけ枠を使ったのかは、家族の記憶だけでは取り違えやすいためです。
まずはケアマネジャーや市区町村の窓口に、いまの状態でもう一度住宅改修が使えるかを相談してみてください。2回目の利用が使える条件や、使い残した枠との関係については、住宅改修の2回目でさらにくわしく説明しています。条件を確かめてから工事に入れば、使えると思って進めた工事が対象外だった、という行き違いを防げます。
まとめ
住宅改修費の限度額は、介護を受ける本人1人につき生涯20万円で、要介護度が重くても軽くても金額は変わりません。この20万円は工事費の上限であって、家族が実際に払うのはそのうちの1割から3割です。20万円ぶんの工事でも、手出しは割合に応じて2万円から6万円の範囲に収まります。
20万円は一度で使い切らず複数回に分けて使え、超えそうなときは工事の優先順位づけや自治体の上乗せ助成、他の補助金、福祉用具レンタルへの振り分けで手出しを抑えられます。要介護度が3段階上がったときや別の住まいへ引っ越したときは、あらためて20万円の枠が使えます。足りるか不安なときは金額だけで判断せず、対象工事や残額をケアマネジャーに確かめてから進めてください。制度の全体像をまとめて見直したいときは、介護保険の住宅改修とはもあわせて役立ててください。


コメント