介護保険の住宅改修費とは|20万円の対象工事・支給の流れをやさしく解説

費用・補助金・税制

親の足腰が弱ってきて、そろそろ家に手すりを付けたい、玄関の段差をなくしたいと考えたとき、工事費が気になる家族は多いものです。そんなときに支えになるのが、介護保険の住宅改修費という制度です。

介護保険で認定を受けていれば、自宅を直す工事費の一部が保険から戻ってきます。ただ、いくらまで使えるのか、どんな工事が対象なのか、いつ何を申請すればよいのかまでは、はじめてだとなかなか見えてきません。順番を間違えると、本来もらえたはずのお金が戻らないこともあります。

そこで、住宅改修費のしくみと20万円という限度額、対象になる工事、申請から支給までの流れ、2回目に使える条件までをひととおりまとめました。細かい手続きは各ページで詳しく扱うので、まずはこの記事で全体像をつかんでください。

介護保険の住宅改修費のしくみ

住宅改修費は、介護保険から自宅の改修費が戻ってくる制度です。ここでは、誰が使えて、どのくらい戻り、どこの工事が対象になるのかという土台の部分を見ていきます。

住宅改修費は要介護・要支援の認定を受けた方が使える

住宅改修費を使えるのは、市区町村から要介護または要支援の認定を受けている方です。介護保険は40歳から保険料を納める制度ですが、住宅改修費が実際に使えるのは、原則として65歳以上で認定を受けた方や、特定の病気で認定を受けた40歳から64歳の方に限られます。まだ認定を受けていない場合は、住んでいる市区町村の窓口や地域包括支援センターで、要介護認定の申請から始めましょう。

認定には要支援1・2から要介護1〜5まで段階があり、住宅改修費はどの段階でも同じように利用できます。要介護度が軽いから使えない、重いから金額が増えるといった差はありません。まずは親が認定を受けているかを確かめ、まだなら担当のケアマネジャーや窓口に相談してみてください。

支給されるのは工事費の7〜9割

住宅改修費で戻ってくるのは、かかった工事費の全額ではなく、その一部です。介護保険では、利用者がいったん工事費を全額支払い、あとから保険の負担分を受け取る「償還払い」が原則になっています。厚生労働省の住宅改修の制度概要でも、実際の住宅改修費の9割相当額が償還払いで支給されると示されています。残りは利用者本人が負担する形です。

戻ってくる割合は所得によって変わり、原則は9割、所得が一定以上あると8割、特に高い場合は7割となります。つまり自己負担は1割から3割の幅です。たとえば10万円の工事で自己負担が1割なら、9万円が戻り、手元の負担は1万円で済みます。自分の親がどの割合にあたるかは、介護保険の負担割合証で確かめられます。

対象は本人が住む自宅の改修に限られる

住宅改修費が使えるのは、認定を受けた本人が実際に住んでいる住宅の改修です。介護保険の住所地として登録している家が対象になり、施設に入っている方や、本人が住んでいない実家や別荘を直す工事は対象になりません。あくまで本人の毎日の暮らしを安全にするための改修に限られる、という考え方です。

賃貸住宅でも改修はできますが、壁や床に手を加える工事では、事前に大家や管理会社の承諾が必要になります。持ち家でも、本人以外が所有している家を直す場合は所有者の承諾書が必要です。工事を思い立ったら、まず住まいの所有関係を確かめておくと、あとの手続きがつまずきにくくなります。

支給限度基準額20万円のしくみ

住宅改修費には「支給限度基準額」という上限があり、これが20万円です。ここでは、20万円という金額の数え方と、自己負担、超えたときの扱いを説明します。

20万円は一人あたり生涯の合計額

住宅改修費の支給限度基準額は、一人あたり20万円です。この20万円は1回の工事ごとの上限ではなく、原則として一人が生涯で使える合計の枠として数えます。厚生労働省の資料でも、要支援・要介護の区分にかかわらず定額で、ひとり生涯20万円までと示されています。20万円は工事1件ごとではなく、一人が生涯で使える合計額として積み上がっていく点に気をつけてください。

そのため、一度に20万円分を使い切る必要はなく、必要になったときに少しずつ分けて使えます。たとえば最初にトイレへ手すりを付け、あとで玄関にスロープを足す、というように、複数回に分けても合計が20万円までなら保険の対象です。焦って一度にまとめるより、暮らしの変化に合わせて必要な工事から使っていくと無駄がありません。

自己負担は所得に応じて1〜3割

20万円の枠を使うときも、全額が保険でまかなわれるわけではなく、一部は自己負担になります。負担の割合は所得に応じて1割から3割の間で決まり、原則は1割です。20万円分の工事をした場合、自己負担が1割なら手元の負担は2万円、残りの18万円が保険から戻る計算になります。

自己負担が2割や3割にあたる方は、同じ工事でも手元の負担が増えるため、事前に自分の割合を知っておくことが欠かせません。公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットでも、自己負担は所得に応じて1割から3割と示されています。割合は毎年更新される介護保険負担割合証に書かれています。工事の見積もりを見るときは、総額だけでなく「自分の割合だといくら戻り、いくら負担するのか」まで担当者に確かめておくと安心です。

20万円を超えた分は全額自己負担

工事費が20万円を超えると、超えた部分には保険が使えず、全額が自己負担になります。たとえば25万円の工事をした場合、20万円までは保険の対象ですが、残りの5万円はまるごと本人の負担です。大がかりな改修ほど20万円では収まりにくいため、どこまでを保険の枠で行うかを先に決めておくことが大切になります。

限度額を超えそうなときは、市区町村や都道府県が独自に設けている助成制度を併せて使えることもあるでしょう。優先度の高い工事から保険の枠を当て、それ以外を自費や別の制度でまかなう組み方も考えられます。20万円で足りるか不安なときの具体的な対処は、住宅改修の限度額と超えたときの対応で詳しく扱っています。

住宅改修費の支給対象となる6種類の工事

保険の対象になる工事は、あらかじめ6種類に決められています。ここでは、その6種類がどんな工事なのかを表とあわせて見ていきます。

手すりの取付けと段差の解消

対象工事の代表が、手すりの取付けと段差の解消です。手すりは、廊下や階段、浴室、トイレ、玄関など、転びやすい場所に取り付けて、体を支えたり立ち座りを助けたりします。壁にしっかり固定する工事が対象で、突っ張り式など工事を伴わない置き型の手すりは、別枠の福祉用具として扱われることが多くあります。

段差の解消は、部屋の間の敷居をなくしたり、玄関やベランダにスロープを付けたりして、つまずきや車いすの通りにくさを減らす工事です。浴室の床をかさ上げして脱衣所との段差をなくす工事も含まれます。どちらも毎日の転倒を防ぐ効果が大きいので、住宅改修で最初に検討されることの多い工事といえます。

床材の変更と扉・便器の取替え

滑りやすい床を滑りにくい素材へ変える工事も、対象の一つです。厚生労働省の区分では「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更」とされ、浴室のタイルを滑りにくいものに替えたり、畳を車いすで動きやすい床材に替えたりする工事が当てはまります。足元が滑らなくなると、濡れた床でのひやりとした場面が減ります。

扉の取替えは、開き戸を引き戸や折れ戸に替えたり、ドアノブをレバー式に交換したりして、開け閉めの負担を軽くする工事です。便器の取替えは、和式便器を洋式に替えて立ち座りを楽にする工事が中心となります。いずれも本人の体の動きに合わせて、暮らしの動作を無理なくする狙いがあります。

付帯して必要になる工事も対象になる

6種類目として、これらの工事に付帯して必要になる工事も対象に含まれます。たとえば手すりを取り付けるために壁の下地を補強する工事や、床材を変えるための下地の調整、扉を替えるのに伴う壁や柱の工事などがこれにあたります。単独では対象にならない工事でも、主となる改修に必要なものは一緒に認められる、という考え方です。

どこまでが付帯工事として認められるかは、市区町村の判断によって幅があります。見積もりの段階で「この工事は付帯として認められるか」を、ケアマネジャーや福祉用具の担当者を通じて確かめておくと、あとで対象外だったと分かる事態を防げます。工事の範囲があいまいなときは、着工前に窓口へ問い合わせておくと確実です。

給付の対象外になる工事もある

見た目は似ていても、介護保険の対象にならない工事もあります。たとえば老朽化した設備の入れ替えそのものや、快適さや見た目のためのリフォーム、新しく増築する工事などは、本人の身体を支える改修とはみなされず対象外です。同じ手すりでも、置くだけで壁を傷めない可搬式のものは福祉用具のレンタルや購入の枠になります。

対象になるかどうかは、その工事が「本人の自立や介護のために必要か」という視点で判断されます。判断に迷いやすい工事も多いため、自己流で決めずに専門職へ相談するのが確実です。どんな工事が対象で何が外れるのかは、住宅改修の対象工事と対象外の工事で個別に見分けられるようまとめています。

対象になる6種類の工事を、下の表にまとめました。

種類 主な工事の例
手すりの取付け 廊下・階段・浴室・トイレ・玄関の手すり
段差の解消 敷居の撤去・スロープ設置・浴室床のかさ上げ
床・通路面の材料の変更 滑りにくい床材への変更・畳から板の間へ
扉の取替え 開き戸から引き戸へ・レバー式ドアノブへ
便器の取替え 和式便器から洋式便器へ
付帯して必要な工事 手すり用の壁下地補強・床の下地調整など

住宅改修費が支給されるまでの流れ

住宅改修費は、工事をしてから申請するのではなく、始める前の申請が原則です。ここでは、相談から支給までの順番を3つの段階に分けて説明します。

工事の前にケアマネジャーへ相談する

住宅改修を思い立ったら、まずケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談します。担当者は、本人の体の状態や暮らしぶりから、どこにどんな工事が必要かを一緒に考えてくれるはずです。自己判断で業者へ直接頼むより、専門職に見てもらったほうが、本当に必要な工事を過不足なく選べます。

この相談の段階で、申請に欠かせない「住宅改修が必要な理由書」を、ケアマネジャーなどに作ってもらう準備も進みます。理由書は、なぜその工事が必要かを専門職の目から説明する書類で、支給の可否を左右する大切な一枚です。相談は工事の入り口にあたるので、まずは担当のケアマネジャーに声をかけるところから始めましょう。

着工前に事前申請する

工事の内容が固まったら、着工する前に市区町村へ事前申請します。住宅改修費は工事を始める前の事前申請が原則で、着工後や完成後に申請しても対象外になることがあります。申請では、支給申請書に加えて、理由書や工事費の見積もり書、完成後の状態がわかる図や写真などが必要です。市区町村はその書類を見て、保険の対象としてふさわしい工事かどうかを確かめます。

やむを得ない事情があるときは、工事完成後に申請できる例外もありますが、これはあくまで特別な扱いです。原則として、順番を守って事前に申請することが、確実に支給を受ける近道になります。必要な書類の一覧や書き方など、申請の手順そのものは住宅改修の流れと必要書類で順を追って確かめられます。

工事完了後に支給申請する

事前申請が認められたら工事を行い、完成後にあらためて支給申請をします。工事が終わったら、市区町村へ提出する書類は、かかった費用の領収書や工事費の内訳書、改修した箇所の工事前と工事後の写真です。市区町村は事前の書類と照らし合わせ、申請どおりに工事が行われたかを確認したうえで、住宅改修費を支給します。

改修前後の写真は、原則として撮影日がわかる形で残しておく必要があります。撮り忘れると支給申請でつまずくことがあるので、工事前の状態は必ず記録しておいてください。理由書を誰がどう書くかや記入のポイントは、住宅改修理由書の書き方にまとめているので、あわせて目を通しておくとよいでしょう。

住宅改修費の支払い方法

住宅改修費の受け取り方には、大きく分けて2つの方法があります。ここでは、原則となる償還払いと、自治体によって使える受領委任払いの違いを説明します。

償還払いが原則になる

介護保険の住宅改修費は、償還払いという方法が原則です。償還払いでは、利用者がいったん工事費の全額を業者へ支払い、あとから申請して保険の負担分を受け取ります。20万円の工事なら、まず20万円を立て替え、支給が認められたあとに自己負担を除いた分が戻ってくる流れです。一時的にまとまったお金を用意する必要がある点が、この方法の負担になります。

支給されるまでには、申請から一定の日数がかかるのが一般的です。立て替える金額が大きいと家計への負担も重くなるため、工事費の総額と、一時的にいくら用意する必要があるかを、着工前に確かめておくことが大切になります。手元の資金にゆとりがないときは、次に挙げる受領委任払いが使えるかを窓口で聞いてみてください。

受領委任払いが使える自治体もある

一時的な立て替えを軽くするしくみとして、受領委任払いを設けている自治体もあります。受領委任払いでは、利用者が業者へ支払うのは最初から自己負担分だけで済み、残りの保険給付分は市区町村から業者へ直接支払われます。20万円の工事で自己負担が1割なら、手元から出すのは2万円だけになり、全額を立て替える必要がありません。

ただし、この方法は全国どこでも使えるわけではなく、自治体ごとに導入の有無が分かれます。使える場合も、登録された業者に頼むなどの条件が付くことがあります。手元の資金を抑えたいときは、住んでいる市区町村で受領委任払いが使えるか、どんな条件があるかを、ケアマネジャーや窓口を通じて早めに確かめておきましょう。

2回目の住宅改修と業者選び

一度20万円を使い切っても、条件によってはもう一度使える場合があります。ここでは、2回目が使える条件と、工事を頼む業者の選び方を説明します。

3段階上昇か転居で再び20万円が使える

20万円の枠を使い切ったあとでも、状態や住まいが変われば、再び20万円まで使えることがあります。厚生労働省の資料では、要介護状態区分が重くなったとき(3段階上昇時)や、転居した場合には、あらためて20万円までの支給限度基準額が設定されると示されています。ただしこの取り扱いは1回限りで、何度も枠が復活するわけではありません。

3段階上昇とは、たとえば要支援2から要介護3へ上がるように、区分が大きく進んだ状態を指します。転居の場合は、引っ越し先の家であらためて必要な改修に枠が使えます。自分の親がこの条件にあたるかどうかや、細かい判定は分かりにくいので、住宅改修の2回目とリセット条件で具体例とあわせて確かめてください。

工事を頼む業者は登録を確かめて選ぶ

住宅改修を頼む業者は、介護保険の住宅改修に慣れているかを見て選ぶことが大切です。事前申請の書類づくりや、改修前後の写真の記録など、介護保険ならではの手順に不慣れな業者だと、手続きでつまずきやすくなります。市区町村によっては登録や指定を受けた業者の一覧を用意しているので、まずはそこから探すと安心です。

見積もりは1社だけで決めず、複数の業者から取って、工事の範囲と金額を見比べるとよいでしょう。本人の体の状態を理解し、必要な工事を過不足なく提案してくれるかも見きわめたい点です。業者の探し方や登録の確かめ方は、住宅改修の業者選びと登録の確認で手順を追って説明しています。

自己判断で着工しない

住宅改修でいちばん気をつけたいのは、申請より先に工事を始めてしまうことです。良かれと思って自己判断で着工すると、事前申請の原則から外れ、本来もらえたはずの住宅改修費が支給されない場合があります。相談から申請、工事、支給という順番を守ることが、確実にお金を受け取るための大前提になります。

注意

住宅改修費は、着工前の事前申請が原則です。ケアマネジャーへの相談や市区町村への申請を済ませる前に、自己判断で工事を始めてしまうと、支給の対象外になることがあります。どの工事が対象か、いつ申請すればよいか迷ったら、必ず担当のケアマネジャーか市区町村の窓口に確かめてから着工してください。

まとめ

介護保険の住宅改修費は、要介護・要支援の認定を受けた方が、自宅を安全に直すための工事費の一部を保険から受け取れる制度です。支給限度基準額は一人あたり生涯20万円で、自己負担は所得に応じて1割から3割となります。対象は手すりの取付けや段差の解消など6種類の工事に決められています。

手続きは、ケアマネジャーへの相談から始め、着工前の事前申請を経て、工事完了後に支給申請するのが基本の流れです。支払いは償還払いが原則で、自治体によっては受領委任払いも使えます。3段階上昇や転居があれば1回だけ再び20万円が使えますが、対象工事や申請の順番で迷ったら、自己判断で動く前に担当のケアマネジャーへ相談してください。まずは申請の順番を確かめたい方は、住宅改修の流れと必要書類から読み進めてみましょう。

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