親の家に手すりを付けたい、浴室の段差をなくしたいと考えたとき、まず気になるのが「どのくらいで終わるのか」という点でしょう。退院の日が決まっていれば、なおさら日程から逆算したくなります。
ところが業者に聞いて返ってくる「手すりなら半日です」という答えだけでは、退院に間に合うかどうかは分かりません。介護保険を使うなら、工事を始める前に申請して保険者(市区町村)の確認を受ける期間が前に乗るからです。工事の日数より、その手前のほうが長くなることも珍しくありません。
そこで、工事内容ごとの日数の目安と、申請にかかる期間、退院日から逆算する順番までをまとめました。工事中にトイレや浴室が使えない期間の代わりも説明しているので、日程を組み立てる手がかりに役立ててください。
工期の数え方
「工期」と言うとき、業者と家族で頭に浮かべている期間がずれていることがあります。ここでは、工期がどこからどこまでを指すのか、そして家族が本当に知りたい日はどこかを見ていきます。
工期は着工から完成までの日数を指す
業者が見積書や打ち合わせで言う工期は、職人が家に入る日(着工)から工事が終わる日(完成)までの日数です。手すりを1本付けるだけなら半日、浴室をまるごと入れ替えるなら1週間前後といった具合に、この区間だけを指しています。契約前の現地調査や、部材を発注してから届くまでの待ち時間は、この日数に含まれていないことがほとんどでしょう。
つまり「工期は3日です」と言われても、3日後に使えるようになるわけではありません。3日というのは職人が作業する日数であって、その3日がいつ来るかは別の話になります。見積りを受け取ったら、工期の数字だけでなく「着工できるのはいつか」「部材はいつ届くか」まで口に出して確かめてください。
使えるようになる日は申請の期間を足して決まる
家族が本当に知りたいのは工事の日数ではなく、親がその手すりやトイレを使えるようになる日のはずです。介護保険を使う住宅改修では、使えるようになる日は「工事の日数」ではなく「申請から承認までの期間+部材の納期+工事の日数」で決まります。工事が半日で終わる手すりでも、申請の確認を待つ間は着工できないため、相談から使えるまでに数週間かかることもあります。
そのため、日程を考えるときは工事の日数を出発点にしないでください。ケアマネジャーに相談した日を出発点に置き、申請、承認、発注、着工、完成という順で並べ直すと、実際の待ち時間が見えてきます。制度を使わず全額自費で直す場合は申請の期間が消えるので、急ぐときは自費と保険のどちらが合うかを含めて業者と話し合うとよいでしょう。
日数の幅は家の現況と業者の都合で動く
同じ「手すりの取付け」でも、かかる日数は家によって変わります。壁の下地が入っていれば半日で済む一方、下地がなく壁の中に補強板を入れるところから始めるなら、内装を一部はがして直す手間が加わるためです。築年数の古い家や、以前の改修で壁の中が分からなくなっている家ほど、この差が出やすくなっています。
業者側の都合でも日数は動きます。職人の手配がつかず着工が2週間先になる、他の現場と掛け持ちで1日おきの作業になる、といった事情は珍しくありません。ネットや広告に載っている日数はあくまで平均的な例なので、自分の家の日数は現地調査の後に業者へ確かめるのが確実です。バリアフリー化の全体の流れを先に押さえたい方は、バリアフリーリフォームの進め方もあわせて読んでおくと日程を組みやすくなります。
工事内容別の日数の目安
工事の中身が決まれば、おおよその日数の見当はつきます。ここでは、介護のためによく行われる工事について、着工から完成までの目安を工事別に見ていきます。
手すりの取付けは半日から1日で終わる
もっとも短く終わるのが手すりの取付けです。廊下や階段、トイレに数本付ける程度なら、半日から1日で職人が引き上げます。壁に下地があり、位置と高さが決まっていれば、その日のうちに使い始められる工事です。
日数が延びるのは、壁の中に下地がない場合です。石こうボードだけの壁に手すりを付けると体重を支えきれないため、壁をはがして補強板を入れ、内装を戻す作業が加わります。この場合は1日から2日ほどみておいてください。どちらになるかは現地調査で壁を確かめないと分からないので、見積りの段階で下地の有無を業者に聞いておくと、後から日程が崩れずに済みます。
段差解消と床材の変更は1日から数日かかる
段差解消は、直す場所と方法によって日数が大きく変わる工事です。敷居を削って埋める、部屋の入口にすりつけ板を取り付けるといった小さな工事なら1日で終わります。廊下と部屋の床全体をかさ上げして高さをそろえるとなると、家具を動かし、床を張り直す作業になるため数日かかると考えてください。
滑りにくい床材への変更も同じで、範囲の広さで日数が決まります。トイレや洗面所のように狭い場所なら1日、廊下から居室まで続けて張り替えるなら数日という幅になります。どちらの工事も、家具の移動先や仮置き場所を先に決めておくと作業が止まらず、結果として日数が短く収まるでしょう。
引き戸への取替えと便器の交換は数日みておく
開き戸から引き戸への取替えは、扉だけを替えるのか、壁を開けて戸を引き込む場所を作るのかで日数が分かれます。既存の枠を生かして扉と戸車だけを替えるなら1日で終わることもあります。壁を開けて引き込みの空間を作る工事になると、内装の補修まで含めて数日かかるのが通例です。
和式から洋式への便器の交換は、便器の入替えだけでなく給排水の位置を直す作業を伴うため、数日みておくと安心できます。工事中はそのトイレが使えないので、代わりをどうするかを工事前に決めておいてください。トイレを1か所しか持たない家では、この工事だけ日程の組み方が変わります。
浴室の入替えは1週間前後かかる
もっとも日数がかかるのが、在来工法の浴室をユニットバスに入れ替える工事です。既存の浴室を壊し、土間を作り、給排水と電気を通し、ユニットを組み立てて内装を戻すという工程を踏むため、1週間前後を見込んでおきましょう。解体してみて土台が傷んでいた場合は、補修が加わってさらに延びます。
浴室に手すりを付けるだけ、床を滑りにくい素材に張り替えるだけであれば1日から2日で済みます。工事の規模で日数がまるで違うため、「浴室のバリアフリー化」とひとまとめにせず、どこまで直すのかを業者と決めてから日数を聞いてください。工事内容ごとの目安を、下の表にまとめました。
| 工事内容 | 日数の目安 | 工事中の暮らし |
|---|---|---|
| 手すりの取付け | 半日〜1日(下地補強ありで1〜2日) | 住みながら可能 |
| 段差解消 | 1日〜数日(床全体なら数日) | 住みながら可能 |
| 滑りにくい床材への変更 | 1日〜数日(範囲による) | 家具の移動が必要 |
| 引き戸への取替え | 1日〜数日(壁を開けると数日) | 住みながら可能 |
| 便器の交換 | 数日 | そのトイレは使えない |
| 浴室のユニットバス入替え | 1週間前後 | 入浴の代わりが必要 |
※日数は家の現況・部材の納期・業者の都合で変わります。実際の日数は現地調査の後に業者へ確かめてください。
介護保険の事前申請にかかる期間
介護保険の住宅改修を使うなら、工事の前に保険者の確認を受ける期間が必ず入ります。ここでは、その確認にどれだけの時間がかかり、どこで日程が止まるのかを説明します。
申請は着工の前に出して確認を受ける
介護保険の住宅改修は、工事を始める前に書類を出す決まりになっています。厚生労働省の介護保険の住宅改修の概要では、①ケアマネジャー等に相談 → ②申請書類の一部提出・確認 → ③施工・完成 → ④住宅改修費の支給申請・決定、という順が示されています。②では保険者が「保険給付として適当な改修かどうか確認する」とされ、この確認が終わるまで③の施工には進めません。
この②に出す書類は、支給申請書、住宅改修が必要な理由書、工事費見積もり書、完成予定の状態が分かる写真や図の4点です。理由書はケアマネジャーなどが書き、見積書は業者が作るので、家族だけでは揃えられません。それぞれの担当者に依頼して書類が集まるまでの日数も日程に含めておいてください。書類の中身と手順は住宅改修の流れと必要書類で詳しく説明しています。
承認を待たずに着工すると支給されない
急いでいると「先に工事だけ済ませて、あとから申請すればよい」と考えたくなるでしょう。ところが厚生労働省の資料が示す順番は事前の確認が先で、確認を経ずに工事を終えてしまうと、支給を受けられないおそれがあります。工事は保険者の確認が終わってから始めるのが原則で、承認前に着工すると20万円の支給そのものを受け取れません。
例外として、同じ資料には「やむを得ない事情がある場合には、工事完成後に申請することができる」という記載もあります。ただし、何がやむを得ない事情にあたるかを決めるのは保険者なので、家族の自己判断で先に工事へ進むのは避けましょう。退院に間に合わないといった事情があるときこそ、着工の前にケアマネジャーと保険者へ相談してください。
介護保険の住宅改修は、保険者の確認を受ける前に着工すると支給されないおそれがあります。「やむを得ない事情」の扱いや確認にかかる日数は自治体で違うため、日程が厳しいときほど、着工前に必ず担当のケアマネジャーと市区町村の窓口へ確かめてください。
要介護認定が出ていないと申請できない
住宅改修の申請は、要介護認定または要支援認定を受けている方が対象です。親がまだ認定を受けていない段階なら、認定の申請から始めることになり、その日数が住宅改修の手前にまるごと乗ります。ここを見落とすと、逆算が数週間単位でずれてしまいます。
認定にかかる期間は、法律のうえでは申請から30日以内が原則です。厚生労働省の要介護認定の認定審査期間についてでは、介護保険法第27条第11項の法定原則処理期間が30日とされる一方、実際には「30 日を超える状況が常態化している」と指摘されています。同じ資料に載る市町村ごとの平均値は、中央値が38.9日、第3四分位が48.1日、最大では78.7日でした。認定から始める家庭では、住宅改修の申請にたどり着くまでに1か月半ほどかかると見ておくほうが安全です。認定の結果を待つ間も暫定のケアプランでサービスを使える場合があるので、待ち方についてもケアマネジャーに聞いておきましょう。
退院日から逆算する段取り
退院の日が決まっている家族にとっては、工事の日数より逆算の順番のほうが役に立ちます。ここでは、退院日を基準に何をいつ動かすのかを順に見ていきます。
退院日が決まったらその日にケアマネジャーへ連絡する
退院の見通しを聞いたら、その日のうちに担当のケアマネジャーへ連絡してください。理由書の作成、業者の手配、保険者への申請という一連の動きは、どれもケアマネジャーを起点に進むためです。連絡が1週間遅れると、そのまま完成が1週間ずれ込みます。
担当のケアマネジャーがまだ決まっていない場合の窓口は、病院の医療ソーシャルワーカーか地域包括支援センターです。退院前カンファレンス(退院前に病院と在宅側の担当者が集まる打ち合わせ)が開かれるなら、その場で家の危ない場所と工事の希望を伝えておくと段取りが早く回ります。逆算の起点は工事の日ではなく、ケアマネジャーへ連絡する日です。
認定がまだなら認定の日数を先頭に置く
親が入院中にはじめて介護が必要になった場合、要介護認定をまだ受けていないことがよくあります。この場合の逆算は、認定の申請を先頭に置いて組み立ててください。認定に1か月前後、書類集めと保険者の確認に2週間前後、部材の納期と工事にさらに数日から1週間というのが、ざっくりとした並びになります。
退院までに間に合わないと分かったら、そこで諦めず、優先順位を付け直すのが現実的です。トイレと寝室までの動線に手すりを付けるところだけを先に済ませ、浴室は退院後に回すといった分け方であれば、短い日数でも形になります。退院日を基準にした逆算の並びを、下の表にまとめました。
| 時期(退院日を基準) | 動くこと | 目安 |
|---|---|---|
| 退院日の2か月以上前 | 要介護認定の申請(未認定の場合) | 1か月〜1か月半 |
| 退院日の1か月前 | ケアマネジャーへ相談・業者の現地調査と見積り | 1〜2週間 |
| 退院日の3週間前 | 理由書と見積書を揃えて保険者へ事前申請 | 自治体により差 |
| 承認の連絡後 | 部材の発注・着工日の確定 | 数日〜数週間 |
| 退院日の1週間前まで | 着工から完成・引き渡し | 半日〜1週間 |
※認定・確認にかかる日数は自治体で違います。日程は必ずケアマネジャーと保険者に確かめて組んでください。
間に合わないときは福祉用具で当座をしのぐ
逆算しても退院に間に合わない場合は、工事を待たずに福祉用具で当座をしのぐ方法があります。据え置き型や突っ張り型の手すりは工事なしで置けるうえ、介護保険の福祉用具貸与や購入費の支給が使えるものもあるため、住宅改修のように承認を待つ必要がありません。可搬式のスロープも同じで、玄関の段差を工事なしで越えられます。
用具で数週間をしのぎ、その間に工事の申請を進めるという二段構えにすれば、退院日と工期のずれを吸収できます。使ううちに「やはりここは工事で直したい」という場所も見えてくるので、無駄にはなりません。どの用具が借りられるかは体の状態と要介護度で変わるため、ケアマネジャーか福祉用具専門相談員に相談して決めてください。
住みながら工事する期間の暮らし
工事の日数を聞くとき、あわせて確かめたいのが「その間どう暮らすか」です。ここでは、トイレと浴室が止まる期間の代わりについて説明します。
トイレが止まる期間は仮設トイレとポータブルトイレで代える
便器の交換や床の張り替えでトイレが使えない期間は、数日にわたることがあります。家にトイレが2か所あれば問題は小さいものの、1か所しかない家では代わりを用意しなければ暮らせません。工事の日数を聞いたら、次に「トイレが使えないのは何日ですか」と業者に確認しておきましょう。
代わりの手立ては主に3つです。業者に仮設トイレを庭先へ置いてもらう、寝室にポータブルトイレを置く、日中はデイサービスで済ませる、という組み合わせで数日を乗り切れます。ポータブルトイレは介護保険の特定福祉用具販売の対象になるものもあるため、工事後もそのまま夜間用として使える点で無駄が出ません。夜中に何度も起きる親であれば、仮設より寝室のポータブルトイレのほうが安全です。
浴室が止まる期間はデイサービスや近所の入浴で代える
浴室をユニットバスに入れ替えると、1週間前後は自宅で入浴できなくなります。この期間をどう埋めるかを決めないまま着工すると、親が1週間お風呂に入れないという事態になりかねません。着工日を決める前に、入浴の代わりを先に確保しておいてください。
現実的なのは、デイサービスの入浴を工事期間だけ増やしてもらう方法です。ケアプランの調整が要るので、着工日が決まった時点でケアマネジャーへ伝えます。他にも、近所に住む親族の家で入る、日帰り温泉や銭湯を使う、訪問入浴を一時的に頼むといった手があります。冬場は体への負担も大きいため、工事の時期そのものを暖かい季節へずらすのも選択肢に入れておきましょう。
工期が延びる要因
見積りどおりに終わらない工事には、いくつか決まった型があります。ここでは、日程が後ろへずれる代表的な要因を挙げていきます。
解体して下地の傷みが見つかると日数が増える
もっとも多いのが、壊してみて初めて分かる問題です。浴室を解体したら土台や柱が水で腐っていた、床をはがしたら根太(床板を支える横木)がシロアリにやられていた、という場面は古い家ほど珍しくありません。傷んだまま新しい設備を載せるわけにはいかないため、補修が工程に割り込みます。
この場合、日数だけでなく費用も追加になります。腹をくくるしかない部分ではありますが、見積りの段階で「解体後に追加が出たらどう進めるか」を業者と話しておくと、その場で工事が止まる時間を減らせるでしょう。築年数の古い家で水回りを直すなら、日程にも予算にも余裕を持たせておいてください。
部材の納期が読めないと着工が待たされる
工事そのものは短くても、部材が届かなければ始まりません。ユニットバスやトイレの便器、引き戸などはメーカーへの発注品なので、色や仕様を選んでから届くまでに数週間かかることがあります。半導体や住宅設備の供給が滞った時期には、納期が数か月に延びた例も出ました。
厄介なのは、この納期が申請の承認を待ってからでないと確定しにくい点です。承認前に発注して工事内容が変われば、部材が無駄になるためです。日程が厳しいときは、在庫のある型番や納期の短い製品を業者に出してもらい、そこから選ぶという進め方も検討してください。
繁忙期は業者の予定が先まで埋まる
リフォーム業者にも混み合う時期があります。年度末や年末、天候のよい春と秋は工事の依頼が集中し、着工が1か月先になることも珍しくありません。台風や大雪の後は災害復旧に職人が回るため、小さな工事ほど後回しになりがちです。
急ぎたいなら、業者を1社に絞らず複数へ声をかけ、着工可能日も含めて比べるのが早道です。相見積もりの取り方や業者の見極め方はバリアフリーリフォームの業者選びで説明しています。ただし、早く着工できるという理由だけで選ぶと、工事の質で後悔しかねません。日程と中身の両方を天秤にかけて決めてください。
マンションは管理組合の承認が前に乗る
分譲マンションでは、専有部分の工事であっても管理組合への届出や承認が必要になるのが一般的です。管理規約で工事のできる範囲や時間帯、床材の遮音等級が定められており、理事会の承認を待つと数週間かかることもあります。介護保険の事前申請と管理組合の承認が両方前に乗るため、戸建てより着工までが長くなりがちです。
管理規約は工事の内容を決める前に読んでおきましょう。共用部分にあたる玄関ドアや窓、バルコニーには手を入れられないため、規約を知らないまま計画すると作り直しになります。管理会社に工事の届出書式と理事会の開催日を早めに聞いておくと、承認待ちで止まる時間を短くできます。
まとめ
バリアフリーリフォームの工期は、工事だけを見れば手すりが半日から1日、段差解消や引き戸が1日から数日、浴室の入替えが1週間前後というのが目安です。ただし親が使えるようになる日は、申請から承認までの期間と部材の納期を足して決まります。介護保険を使うなら、保険者の確認を受ける前の着工は避けてください。
退院の日が決まっているなら、逆算の起点はケアマネジャーへの連絡です。認定をまだ受けていない家庭では認定の日数が先頭に乗り、住宅改修の申請にたどり着くまでに1か月半ほどかかることもあります。間に合わない分は据え置き手すりや可搬式スロープでしのぎ、工事中のトイレと入浴の代わりも着工前に決めておきましょう。日数の見積りに迷ったら、現地調査の後に業者と保険者の双方へ確かめてから日程を組んでください。申請の書類と順番を先に確かめたい方は、住宅改修の流れと必要書類もあわせて役立ててください。


コメント